.閑話③〇〇宰相、最悪の日(後)
ハゲ+お食事中の方注意
宰相が逃げ帰った後、広間はまだ笑いが続いていた。
そんな中王女が慌てて広間を飛び出して行ったが、爆笑中で誰も気づかない。
この時王女の頭にあったのは1つだった
『おじさまに忘れ物を届けてあげないと!』
「待っておじさま~~」
宰相は走った。自邸目指して走った。
羞恥のあまり幼い息子を置いて来た事も馬車で来た事も
今の自分がカツラ無しだという事すら忘れてひたすら走り続けた。
王女も走った。宰相を追って走った。
『おじさまに忘れ物を届けないと!』という使命感で
息子に預けるか後で届ければいいという事を忘れて無我夢中で走り続けた。
彼らが城の廊下で誰かとすれ違うたびに騒動が起きた。
あるメイドはお盆ごと料理を落とし
ある兵士は持っていた武器を足に落として悲鳴を上げ
やがて彼らは城の外へ出た
城の外では一般人が祝いで盛り上がっていた
そこへ彼らが走り抜ける
必死で逃げるハゲ男とカツラを持って走る王女
事情は一目瞭然だ
彼らが走り去った後には笑いの嵐が吹き荒れた
ある者は酒を吹きだし
ある者はむせて咳きこみ
ある者は運んでいた料理を落とし
ある者は遠慮なく指さして大笑いした
ここに来てようやく宰相も周囲と自分の頭の状況を知る
内心『うひぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!』と思う
悪いことに今日は姫の誕生日、王都だけでなく周辺の領地からも人が集まっていた…しかし今更止まれない
一方王女も状況に困っていた
(困ったわ、おじさま止まってくれないしちっとも追いつかない)
足には自信があるので見失いはしないがさすがに大人と子供では不利だ
そんな時にする行動は1つだ
「おじさま~~~~宰相のおじさま~~~~忘れ物よ~~~おじさまのカツラ~~~~~~(゜Д゜)(超大声)」
子供特有の良く響く声のお蔭で遠くにいた人にも宰相のハゲが伝わった
ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!(宰相の心の声)
もはや涙目である
「待って~~宰相のおじさま~~カツラ忘れてるから止まって~~~~(゜Д゜)」
「王女様!!お願いですから追ってこないで下さい―――――――!!!!!!」
その日国中が笑いに包まれた…
こうして宰相のハゲは一夜にして国中に知れ渡りこの一件は「カツラ事件」と呼ばれ闇に葬られた。宰相はそれから半年の間、邸に閉じこもり決して外に出ようとしなかった…
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
悲鳴を上げガバッと飛び起きる
「ハァハァ…………夢か…」
ダンダン!!
ドアを叩かれる音にビクッとする
「旦那様!どうなさいました!?」
執事の声だった。悲鳴を聞いて駆けつけて来たらしい
「あぁ大丈夫だ、悪い夢を見ただけだ。起こして済まなかった、もう休んでくれ」
「分かりました。お休みなさいませ」
執事の足音が遠ざかっていく…
「はぁ…今頃あんな夢を見るとは…」
原因は分かっている。
寝室の隅に置かれた山を見る
交流のある貴族達から贈られたカツラや養毛剤だ
『カツラ事件』以来、彼を見る貴族達の目が変わった。彼の頭頂部を見てこっそり笑う者(主に女性)と哀れみの目を向ける者(主に男性)の二通りになった。その上新年の挨拶や祝い事のたびにカツラや養毛剤が贈られてくるのだ。善意で送ってくるだけに拒否や抗議も出来ない。町の人間も陰で「ハゲ宰相」と呼んでいるのを知っている。この前の視察では子供に「あ、ハゲ宰相だー(*^▽^*)」と指さして笑われた…
おまけに人がショックで引き篭もってる間に元凶の王が王女と息子の婚約をサッサと決めてしまったのだ。随分反対したが結局撤回できなかった…他に王女と婚約しようという物好きが居なかったためである。いっそ宰相を辞めて田舎に引き篭もろうかとも思ったが、これも後任が見つからない。候補が全て辞退したためである。誰も自分の二の舞はしたくないという事だ。気持ちがわかるだけに強く推せないまま八方塞がりの状態を抱える事になった…息子が最後の頼みの綱だった。
眠れないままベッドを離れ窓の側に立つ
「頼んだぞ…ケイジュ」
学園にいる息子に向かって呟く
夜空に弧を描いた三日月が浮かんでいた
被害妄想と分かっていても月にまで笑われてるようで気が滅入るばかりだった
宰相に幸あれ(∩´∀`)∩あと髪の毛




