22.元密偵は二択を迫られる
突然の展開に暫し動けなかったが、勝機に戻るとすぐ返事をする。
「はぁ!?何言ってんの、嫌に決まってるでしょう、そんな事でごまかさないで!」
(全くバカにしてるわ!)
何でケイジュがオタクの味方するのかは分からないが、結婚という形で衣食住面倒見てやるからうやむやにしようなんて、そうはいくか!
内心で固く決意をしてると、ケイジュがため息をつきながら立ち上がった。
「まぁそう言うだろうとは思ったよ…お前だしね。でもこれはごまかしじゃなく、国とお前のためにもそうした方がいいんだ」
『お前だしね』というのがひっかかるが…それはさておき。
「どういう事よ」
聞くとケイジュはチラッと、宰相を見た。つられて私も見る。
「あ~ゴホン。アイリス様、ここからは私が説明させていただきます。実はアイリス様が陛下のご息女と知れてから『アイリス様を次期女王に』という意見が出てきているのです」
「はぁ!?何でそうなるの、私は庶子よ」
思わず前のめりになる。
驚く私に宰相はさらに続けた。
「実は王女様があの事件以来、更に歯に衣着せぬようになられまして…これでは外交、ひいては次期女王はムリだという意見が、日に日に高まっているのです。王女様は元より、婚約相手の騎士団長子息も問題外ゴホン、ちょっとムリだろうという事になりまして…王子様はまだ幼く、年頃になられるまで陛下のお年を考えると…これもムリだろうとの事で、この際庶子でもいいから、王家の血を引いてかつ無難な方に跡を継いで貰った方がいいという意見が強くなり、これ以上は陛下でも抑えきれなくなってきているのです」
「そんな事言われても、私政治なんてできないわよ」
(ずっと密偵の修行と一般的な教育しか受けてないのだ。政治の事など分かるはずがない)
そこにケイジュが口を挟む。
「うんだからね、お前を女王にした後適当な貴族と結婚させて、その相手が王配として政治を行えばいいだろうって、言われてるんだ」
ケイジュの言葉に、思わず顔を顰める。
「それって…」
「うんまぁ、帝国の脅威も収まったしね。陛下もお年だしね。お前と結婚して『長くとも数年我慢すれば、自分の天下だー』と夢見てる奴が多くてね」
苦笑いするケイジュに、ますます不愉快になる。
「人を傀儡にする気満々じゃないの。馬鹿にして!」
吐き捨てると、ケイジュも同意する。
「まぁそうなんだが、問題はその声が大きすぎて、もう国王の力でも抑えられないんだ。だから今のうちに俺と結婚してくれ」
再びケイジュが膝まづいて、私の手を取る。
「俺はお前に大したことはできない。お前の方が強いし、財力や権力だって国王が後ろ盾にについてるから必要ない。優秀と言われてるが、そう言った意味で手助けする機会自体ないだろう」
真剣なケイジュにつられて、無言になる。
「………」
「だからせめてお前が少しでも気ままに過ごせるよう、お前の自由を守るよ」
「………」
困った。
私の中で答えは決まっている。
でもそれを口にするのが出来ない。
密偵の訓練で『感情より行動。迷う事があっても逃げずに素早く行動に移せ』と教えられたのに。
あと一歩が踏み出せない。
いつの間にか宰相たちも、無言で見守っている。
内心困ってると、ケイジュが再びため息をついて言った。
「犬100匹飼ってもいいぞ」
「何言ってるのよ、多頭飼いはダメよ!飼うなら世話を出来るくらいでなきゃ!あと猫も必須よ!」
反射的に返すと、ケイジュがニヤリと笑った。
「わかった、じゃあ犬は2匹で猫は1匹。これでいいだろう。じゃあ決まりだね」
「…………あ」
(しまった)
こうして私は、ケイジュと結婚することになった。
元密偵は今日ものせられてます。
~アイリスの知らない話~
(ケイジュ視点です)
呆然としてるアイリスを正気に戻る前に部屋に戻らせ、翌日の準備に取りかかるとオタク王から『話があるから、夜になったら来るように』と言われた。
(まぁ内容は想像がつくけど)
脳裏に2年ほど前の別荘の出来事がよぎる。
アイリスに気がある(と思われた)ケイト君に、ずいぶんと絡んでいた。
今回も長く絡むだろう。
仕方ないと思いつつ、少し浮かれ気分でオタク王の元に向かった。
「あ~ぁ結局こうなるのかぁ…」
予想に反してオタクは絡まなかった。
ただひたすら酒を飲みながら、愚痴をこぼす。
「ようやくアイリスを公に出来て、これから家族として過ごすつもりだったのに~。もう嫁に出すなんて~」
「それはすみません、でも他に方法はないかと…」
苦笑いしながら、さりげなく酒を注ぐ。
(サッサと酔いつぶれてしまえ)
飲み始めて2時間。これも娘婿の宿命と思いつつ、いい加減うっとうしい。
「わかってるさ~。このままだと貴族連中が実力行使に出てしまう…。アイリスを幸せにする方法はこれしかない…」
そこでピタッとオタク王が止まる。
「…儂ではアイリスを守る事は出来ても、自由に、幸せにしてやることはできない」
「……」
「たとえ庶子でも、平民でも『国王の娘』という事実が、アイリスを縛る。それは変えようのない事実だ」
「……」
「儂でも…いや、儂だからこそどうしようもない。儂ではアイリスの自由を守ることはできない」
そこで王は真剣な顔で、こちらを向く。
「だからアイリスの幸せを守ってくれ。あの子の自由を守ってくれ」
「もちろんです。俺の力の及ぶ限り、アイリスを守ります」
こちらも真剣に答えると、王がへにゃっと泣き笑いした。
「ところで、前にした賭けを覚えているかね?」
オタク王がこちらのグラスに酒を注ぎながら、聞いてくる。
「賭け………あぁ」
前に別荘で言った事だ。
もしもケイト君が王女を守れるような男だったら、王女との婚約を破棄してもらうと。
結局2人が両想いになった事で、自動的に解消になったのでそのまま忘れてた。
「賭けは儂の勝ちだな」
「…そうですね」
残念ながらケイト君では、天然を守るのにイマイチ頼りない…お似合いではあるが。
「だからと言って今さら2人を別れさせて、僕と婚約を…なんて事は出来ないでしょう」
笑いながら、王のお酌をする。
「わかっとる」
苦虫を噛み潰したような顔で、オタクが一気にグラスを煽る。
グラスを置くと、こちらを見てニヤリと笑った。
「だが勝ったからには、敗者に要求の1つは出来るだろう」
そう言って、オタクが要求を出して来た。
(またアイリスが、ショックを受けそうだな)
内心苦笑しながら、それを呑んだ。
次回最終話(予定)




