20.密偵見習いは〇〇になる③
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~ケイジュ視点です~
(あぁまただ)
アイリスの側につきながら、元王女に処罰を下す国王の声を聞く。
(俺はいつもアイリスに何もできない)
宰相子息だ、優秀だと言われてもアイリスには何の意味もない。
母がいなくて寂しかった時、護身用に受けた訓練がきつくて苦しかった時。
アイリスはいつも傍に寄り添ってくれた、助けてくれた。
だが俺はどうだ?
アイリスが訓練で死にかけても、うちの使用人に虐められて俺や我が家から距離を置いても何もできず、せいぜい使用人を罰するくらいだった。
そもそもアイリスには、国王が後ろ盾についている。
俺の、公爵家で何とか出来る事は国王がやる。
腕力だってアイリスの方が上で、守ったり助けたりする余地はない。
出来る事と言ったら、日常のささやかな頼みごとを聞くぐらいしかない。
自室に置いてある物も卒業後渡すつもりで、迷ったまま渡せずじまいだった。
若干の八つ当たりも兼ねて、元凶の女に全身焼き印を押すよう進言した。
「アイリスしっかりしろ!」
「今医者が来るからな!」
元王女に処罰を言い渡した後戻って来た国王と共に、ひたすら呼びかける。
部屋に運びたいが、出血が多くて動かすのも危険だ。
そこに医者がやって来て担架で運ぼうとするが、それを見て国王が激怒する。
「何で町医者なんだよ!?王宮お抱えの医者がいるだろう!町まで運んでたら、手遅れになるだろう!アイリスを見殺しにする気か!」
すると先ほどまで後始末に追われていた貴族達が、口を開く。
「恐れながら陛下。いかに王宮で起こった事件とはいえ、王族専用の医者に一庶民を診させるなどひいきが過ぎますぞ!そもそも一庶民が王族の護衛に抜擢されること自体不遜なのに、この上まだ身分に合わない扱いをなさると、王家の名に傷がつきますぞ!」
周囲にいる貴族達も、うんうんと頷いている。
国王が怒りの余り、こぶしを握り締めたまま震えて俯く。
それを見て先ほどの国王を思い出した貴族が、青ざめながら修正する。
「あ、あの…少し言い過ぎましたでしょうが、庶民の身で特別扱いをされる事は、本人の為にも…」
そこで貴族の言葉は、遮られた。
顔を上げた国王が、決意した顔で爆弾発言をしたからだ。
「アイリスは儂の娘だ」
「は?」
「アイリスは儂が産ませた儂の娘だ!れっきとした国王の娘で、王族の血を引いている!だから王宮の医者に見せるのも問題ない!わかったら早く、王宮の医者を呼んで来い!!!!」
「「「「は、はい!!!!!!!!」」」」
突然の事実と国王の剣幕に驚いた貴族達が、慌てて飛び出していく。
(あ~ぁ、とうとうバラしちゃったな)
実はいずれバレるだろうと思っていた。
性別が違うのと、国王が喜怒哀楽の激しい人間なので殆ど気づく者はいないが、真面目な顔をすると国王とアイリスは顔立ちがよく似ているのだ。
その事にさえ気づければ、国王が目をかけてる事から考えて簡単に真実に行きつくだろう。
(むしろ思ったより気づかれなかったな)
学園に通ってる間に、誰かしら気づくと思っていた。
そこまで考えて、ふと気づいた。
(そうだ、俺にも出来る事があった)
その後王宮付きの医師が必死で治療を行い、何とか一命はとりとめた。
アイリスは王宮の一室で、静かに眠っている。
医者の診断では、10日は目覚めず完治に1か月以上かかるだろうとの事だった。
~一部しか知らない話~
深夜、王宮の一室にて2人の男が人を待っていた。
男の1人はイライラと、もう1人はそんな男をハラハラした目で見ていた。
やがてノックの音がして、待ち人がやってくる。
「お待たせして申し訳ありません、この度は―――」
入って来た女の言葉を遮って、男の1人が食ってかかる。
「話が違うぞ!儂はマリアを傷つけたあの女を、この国で相応の罰を受けさせる為に引き留めてくれと言ったんだ!!アイリスを殺しかけるなんて、聞いてないぞ!!」
「へ、陛下!」
宰相が慌てるも王は無視して、女を睨みつける。
王の剣幕に、相手の女―――ヴァロック王女も、不快気に眉を寄せる。
「えぇ、私も計算外でしたわ。まさか、木の上に潜んだり、人殺しを目論むとは…。でも聞いてない、というのはこちらも同じですわ。彼女が陛下の庶子とは、聞いておりません。一方的に責められるいわれはありませんわ」
「ぐぬぬ…」
言いきると、王女は扇で顔を隠す。
正論を言われた国王は、悔し気に拳を握り締める…しかし反論はなかった。
それを見やって、王女が本題を切り出した。
「ともあれこれでそちらのご要望通り、あの子に相応の刑を科す事が出来たでしょう?お約束通り、輸出入の関税について…」
「…わかった。確かに約束だしな」
国王もある程度は頭が冷えたのか、先ほどのように喚くことはなかった。
それを見て、宰相もホッとして具体的な金額の打ち合わせに入った。
「これで話は纏まりましたね。ではこれで失礼いたします。夜分遅く失礼しましたわ」
「うむ、夜遅く呼び出して済まなかったな、部屋に戻ってゆっくり休んでくれ」
互いに挨拶をした後、王女は部屋に戻った。
部屋に戻ると、メイド達がお茶の用意をして待っていた。
カップを口にして、一息つく。
「はぁ…やっとあの寄生虫と、縁が切れたわ」
「ご苦労様でした」
「お疲れ様です」
「わざと逃がしたり、ナイフを盗ませたり、この国で『死刑はない』と吹きこんだりした甲斐がありましたね」
口々にメイド達が、労りの言葉をかけてくる。
そんな様子をヴァロックが苦笑しながら眺める。
「それでこの先どうするんですか?あの寄生虫が、大人しく死ぬとは思えないんですけど…」
「そうね…まだひと月くらいは王国に留まらないといけないし、しばらくはアレが苦しむ姿を堪能するわ。その後大人しく死ぬなら良し、そうでない時は…」
そこで言葉を切って、微笑みながらカップを傾ける。
主の言葉に、メイド達も期待で目を輝かせた。




