1.密偵見習いは最上級生になりました。
春。
進級の季節であり、新しい始まりの季節である。
「はぁ~」
だというのに、私の隣でため息をつく奴が1人。
「せっかくの新しいスタートだというのに、ため息をつくなんて辛気臭いわよ。同じクラスのケイジュ君」
あぁおかしい。
ケイジュは結局戦争の後始末に引っ張りだこで、出席日数が足らず卒業できなかったのだ。とはいえやむを得ない事情だったので、笑い者になる事はないが、本人のプライドに障るらしい。
「言うな。俺の輝かしい経歴に、こんな汚点がつくとは…」
そう言って項垂れる。
うん面白い。
落ちこむケイジュなど、めったに見れない。レアだ。
隣でニコニコ笑ってると、ケイジュが横目で恨めしそうに睨んでくる。
「お前ずいぶん楽しそうだな…人の不幸だと思って」
「楽しいわよ?アンタが私達と同じクラスになるなんてね…ふふっ」
にんまりと笑う。
実は浮かれてる理由は、もう1つある。
ケイジュは幼馴染でともに修行していた頃はよく一緒にいたが、ケイジュの修行が終わると、互いの家を行き来するしか会う機会がなくなったのだが、ローレル邸の使用人達がケイジュや宰相の目を盗んで、私に嫌がらせをするようになった。
全員ではないがかなりの人数だった。
「平民の分際で」「身の程知らず」などのイヤミから始まり、すれ違いざまに足を蹴ろうとしたり(躱したので、バランス崩して逆に転んでた)、わざとマズイ茶(もしくは下剤入り)を出したり、門前払いしたり、鬱陶しかった。
どうも私は玉の輿狙いで、ケイジュに近づいてるように見えてるらしい。
特に若いメイドは自分達が玉の輿狙いなので、私までそうだと思い込んでて酷かった。
面倒なので躱すだけで特に反撃はしなかったが、勝手に自滅してはそれさえも「私に虐められた」と執事やメイド長に泣きついていた。
執事とメイド長は私の出自を宰相から聞いていたようで、丁重に客人として扱ってくれたが、他の使用人達に事情を知らせないまま宥めるのは出来なかったようで、「申し訳ありませんが、あまり来ないで下さい」と言われてしまった。
それ以来学園に入るまでずっと疎遠だったが、これから1年は人目を気にせず、一緒に過ごせるのだ。
昔一緒に修行していた頃を、思い出して懐かしくなる。
感慨にふけっていると、ケイジュがニヤリと笑った。
「そうか、そんなに俺と一緒に過ごしたかったのか」
「!」
見抜かれた。
一気に顔が赤くなる。
「ふ、ふざけたこと言ってんじゃないわよ!」
動揺のあまりケイジュを殴り飛ばして、教室に駆け込む。
その後ろをケイジュがニヤニヤ笑いながら、ついてきた。
余談だが一部始終を見ていた周囲の生徒達により再び「ケイジュ様M説」と新たに「ハーレム女王S説」の噂が持ち上がり、2人揃って落ちこむことになる。
幼馴染は今日も仲良しです。




