18.密偵見習いは肉団子になって転がり落ちる
入口の兵士をやり過ごした後、長い通路を通り帝王の私室へと向かう途中、入り口の方が騒がしくなってきた。
「まずいな…気絶させた兵士と食事係が、もう見つかったようだ」
ジョーンズさんが呟く。
バタバタと足音が近づいてきた。
「仕方ない、ここは俺が時間を稼ぐ!お前は帝王を連れて、アザレア達と合流しろ!」
「しかしどうやって!」
言い合いする時間も惜しいが、捕獲はともかく縛った帝王を、私1人で連れて行くのは無理だ。
「帝王に案内させればいい!行け!」
そう言ってジョーンズさんは、武器を構えて、背後へ向き直る。足音はかなり近づいていた。
「!はい」
ジョーンズさんの言葉に意図を察し、そのまま前へ駆け出す。
前方に扉が見えて来た。
帝王の私室の扉だ。
そのまま勢いよく扉を開ける。
「帝王、お逃げ下さい!敵襲です!すぐそこまで来ています!」
「何!?」
突然の出来事に、帝王が驚く。
手に持っていた書物を落とすが、慌てて拾い、懐にしまう…読書中だったようだ。
「急いでお逃げ下さい!抜け道を通れば、外に味方がいます!合流しましょう!」
「わかった!」
帝王は慌てて燭台を前に倒すと、横の壁が開いた。
「さぁ行くぞ」
そう言って穴に飛びこむ。
続けて私も飛びこんだ。
シャーッ
「うわっ!」
「わぁっ!」
どうやら穴は長い滑り台になっていたようだ。
(これならすぐに脱出できるな)
楽でいいと思いながら一気に滑ってると、何故か滑らず走っていた帝王に追突する。
そのまま2人、団子状になってあちこちぶつかりながら、出口まで転がっていった。
「イタタ…」
「何でわざわざ走ってたんですか…」
滑り台が終わったので、立ち上がって聞く。
もちろん帝王に手を差し出し、立たせるのも忘れない。
「え、これ滑り台だったの?足腰鍛える為に下り坂なんだと思ってた」
「……」
(そういえばここはノウキ―ン帝国だった)
もしかすると帝王の言う通り、足腰鍛える為に下り坂なのかもしれない…そうでないことを祈る。
頭を切り替えて、周囲を見渡す。
どうやら小部屋のようだ。
上に続く梯子があり、天井の一か所が開くようになっていた…ここから外に出るらしい。
ちなみに帝王は、追っ手が来ないよう、出口を操作して閉じていた。
「ここの梯子から、外に出るのだ。城から離れた山の中に出る」
「何と!」
そんなに離れていたとはビックリだ…そういえば滑り台がやたら長く、曲がりくねっていたな。
「分かりました、参りましょう。私が先導します」
そう言って梯子を上り、周囲に人がいないのを確認してから、外に出て帝王に手を貸す。
周りを見渡すと枯れ木だらけだった。どうやら山の中らしい。
遠くから見た城の方から、悲鳴や怒声が聞こえて来た。
「もう少し先に、味方の兵がいます。急ぎましょう」
「うむ」
周囲を警戒しながら進む。後ろから帝王がついてくる。
「そろそろ味方と合流します」
「おぉそうか!」
帝王の顔がパッと明るくなる。
ずっと走り通しで疲れたのだろう。
やがて林を抜けると、アザレアさんと囮の兵達がいた。
「アザレアさん、遅れてすみません」
「全くよ、さぁ急ぐわよ!全軍撤退!」
アザレアさんの号令で、それまで帝国兵とやりあっていた兵達が、一斉に離脱する。見事だ。
「え?え?…えーと」
状況が飲みこめずにいる帝王の背後に、ジョーンズさんが忍び寄ると、手刀で帝王を気絶させた。
「ジョーンズさん!無事でしたか」
「あぁこの通り、何とかな」
笑顔で言いながら、気絶した帝王を縛り上げる。
元気そうだが、よくみるとあちこち傷だらけだった。
「話はあとよ。今は王国に戻ることを考えましょう」
「はい」
「そうだな」
アザレアさんの言葉に、私とジョーンズさんも同意する。
(思ったより簡単だったな…疲れたけど)
王国に戻って帝王を引き渡せば、戦争も役目も終わりだ。
この時は本当にそう思っていた。




