16.密偵見習いは敵地に赴く
「侵攻してきた帝国軍は1万8千。現在東北の国境付近で、辺境伯と交戦中です」
宰相が戦況を報告すると、貴族達がざわついた。
「1万8千だと!?」
「こちらは国中かき集めても、7~8千がやっとだぞ」
「どうすればいいんだ!」
集まった貴族達が、みんな頭を抱える。
侵攻の知らせと同時に、主だった貴族が招集され、現在会議の真っ最中である。
現在テーブルにはオタク王と、その傍らに宰相、それと戦の総指揮を執ることになったケイジュが、席についていた。
私はというと王の後ろのカーテンに隠れて、内容を聞いてる状態だ。
理由は分からないが、何故かケイジュに引き留められたのだ。
貴族達が混乱して収まりがつかなくなってきたところで、ケイジュが声を張り上げる。
「皆さんご心配はありません、ちゃんと作戦は考えてあります」
ケイジュの言葉に、とりあえず皆落ち着く。
「どのような作戦ですか?」
騎士団長が聞いてくる。
「辺境伯軍に援軍を送ります、国中からかき集めた軍の8割ほどを。そして彼らには籠城戦で、時間を稼いで貰います」
ケイジュが地図を指しながら、説明を続ける。
「現在帝国は全戦力をこちらに向けており、その分本国が手薄になっています。それを残り2割で強襲し、王を人質に取ります」
「「「「「おぉ~」」」」」
貴族達が感心の声を上げる。
「兵の数、練度共に向こうが上です。まともにやっても勝てませんので、直接王を狙うしか勝ち目はありません」
「分かりました!では自分が奇襲を…」
騎士団長が立ち上がって名乗りを上げようとするのを、ケイジュが片手で制する。
「いえ、騎士団長は援軍に回って下さい。騎士団長は有名ですので援軍に加わっていないと、怪しまれて奇襲がバレやすいです」
「むぅ、やはり強者は目立ってしまうものなのですな…仕方ありません」
騎士団長がさり気に自慢しながら、残念そうに席に座り直す。
「…とりあえず各自その作戦で、お願いします」
「「「「「はい!」」」」」
ケイジュの言葉に全員が頷く。
ちなみにお飾りになったオタク王は、部屋の隅でいじけていた。
「準備は整ったか?」
ここは王の私室。
現在部屋には、部屋の主たるオタク王と、宰相とケイジュ、そして私しかいない。
貴族達にはああ言ったが、2割の戦力は敵の目を引きつける囮で、実際は私含む数人の密偵が紛れこんで王を誘拐する作戦だ。王を誘拐したのち、兵を速やかに引き上げて合流する手筈だ。
スピードが命の作戦なので、やはり密偵が適任だろうという事になった。
「いつでもいいわ」
「アイリス~本当に行っちゃうの?」
オタク王が心配そうな顔で、声をかけてくる。
「行きますよ、仕事だし」
「それでも何とかやめられない?危ないよ?」
「それが密偵です」
(今さら何を言ってるんだか)
そう返すと、オタク王がしょんぼりした顔をしたが無視した。
「これが最新の城内の地図だよ」
ケイジュが渡してきた地図を、ざっと目を通して頭に叩きこむ。
「あぁそれと前回嘘や噂を流して混乱させたから、今回は警戒されてると思うから、気をつけた方がいい」
「わかったわ」
「それではアイリス様、お気をつけて」
「お前なら油断しなければ大丈夫だろう。行ってこい」
頭を下げる宰相と、笑顔で見送るケイジュを横目に帝国に向けて出発した。
ちなみオタク王は半泣きで顔が凄まじくなってたので、視界に入れないようにした。




