15.さらば変態(後)
「何でこうなってるんですか?」
気絶したオタク王を見下ろしながら、宰相に問いかける。
「実は王女様のご婚約がショックだったらしくて…現実逃避のつもりなのか、最近漫画や小説のキャラクターになりきるんです」
「はぁ…」
呆れたケイジュがため息をついた。
「それで?」
構わず先を促すと、宰相は目をそらしながら一冊の本を出してきた。
「それで…陛下が今ハマってるのが、この本です」
ケイジュと2人覗きこむ。
『覇王伝①~乱世の野望~』
「「………」」
頭が痛くなってきた。
2人して頭を抱える。
「今のところ他の貴族には隠せてますが…戦争間近のこの時期に、頭が痛いです」
宰相が深くため息をついた。
「末期ですね」
「早く引退させた方が、いいんじゃない」
(本当に何でこんなのが父親なんだろう。このまま穴に埋めてしまいたい……ん、待てよ?)
「王女は元から婚約が決まってたのに、何でケイジュだと良くて、いの…ケイト=アグリモニーだと現実逃避なの?」
ちょっと気になったので聞いてみる。
「婿入りと嫁入りでは、大違いだそうです」
「なるほど」
納得だ。
オタク王が中々起きないので、宰相に変態スパイが帰国することを伝えて、王宮を後にした。
その週末、予定通り学園の食堂にて、スパイの送別会が開かれた。
「ウハハハハ~」
スパイは早くも、酔っぱらって上機嫌だ。
両サイドに女生徒を侍らせてご機嫌である。
「いや~ん、ローリィ先生ってば~」
「きゃぁっ先生素敵!さぁさぁ、グイッといっちゃって~~」
適当におだてながら、どんどん酒を勧める。
大分酔いが回ってきた頃を見計らって、情報を聞き出す。
「先生、帝国はいつぐらいに侵攻してくるの~?」
「ん~~?もう準備は整ってるし、帰国してからすぐ攻めこむらしいから、4~5日後かなぁ~?」
両脇の女生徒の肩に腕を回しながら、上機嫌で答える。
反対に女生徒達が嫌そうに顔を顰めたが、変態は気づかない。
「兵の数はどれくらいなの~?」
「ん~~国中の兵を出撃させるから、1万5千~2万くらいかなぁ~」
肩に回された手が、背中へと降りていく。
更に嫌そうな顔になったが、やはり変態は気づかない。
ケイジュと2人で様子見してたが、そのうちケイジュが無言で席を外してどこかへ行ったので、一人で見張っている。
「今度こそこの国を征服するぞぉ~。そしたら一大ハーレムを作って、君たちにも良い思いさせてあげるぅ~」
そう言って変態が、女生徒の唇に吸い付こうとした。
「!」
「イヤ――――――ッ!!!!!」
「ワ――――――ッ!!!!」
止めに入るより一瞬早く限界に来た女生徒が、思いっきり殴り飛ばした。
変態は飛んだ。
慌てて人が避ける。
そのまま変態は顔から壁にめりこんだ。
砂埃が舞い、周りの人も唖然と見ている。
それだけでは収まらなかったのか、女生徒が追い打ちをかけてきた。
「信じられない、乙女の唇に吸い付こうとするなんて!」
「この変態!!」
2人がかりで、変態を蹴り続ける。
「変態変態!」
「死ね死ね!」
「ギャ――――――!!」
ようやく気が済んだのか、2人はボロ雑巾になった変態を残してその場を去っていった。
誰も声をかけられないまま見守ってると、変態が怒り始めた。
「何なんだあいつらは!ちょっとした冗談なのに、人をボコボコにするなんて!これだから成長した女は!」
ひたすら憤慨した。
そこへケイジュが、王女を連れて戻って来た。
「ケイジュ、どこへ行ってたの?」
「頃合いを見て終わらせようと思ってね。で、変態はどこまで喋った?」
私はケイジュに、一通り聞いたことを伝えた。
「それだけ聞ければ充分だ。じゃあそろそろ終わりにしよう……姫」
「わかったわ~」
そう言って王女は変態の前へと、足を進める。
王女に気づいた変態が、一転して笑顔になる。
「おぉプリティドール!私に会いに来てくれたんだな~。やはり私には君だけだ!」
すると王女はニッコリ笑って言った。
「うわ~~いい年して幼女趣味とか、信じられな~い。キモ~イ。『プリティドール』って言うのも、センスないしぃ~。いい加減、歳考えたら~?お、じ、さ、ん」
変態は一瞬にして凍りついた。
ついでに周囲も凍りついた。
皆が動けずにいる中、真っ先に動いたのは変態だった。
「うわ~~~~ん、こんなのプリティドールじゃな~~~~~~~~~い!!!!」
泣きながら、飛び出していった。
「ケイジュ様、サプライズってこれでよかったの~?」
戻ってきた王女がケイジュに聞いてくる。
どうやらケイジュの仕込みだったようだ。
「えぇ、さすがですよ。ありがとうございます姫」
「でも先生泣いてたけど~?」
「感激のあまり、嬉し泣きしたんですよ」
「そうなの~?それなら良かったわ~」
王女はケイジュに丸めこまれたまま、去っていった。
「さぁさ皆。変態もいなくなったことだし、パーティは終わりだよ。後片付けしようね」
ケイジュの声にみんな正気を取り戻して、動き始める。
その後変態は2度と戻ってくることなく、そのまま帰国した。
そして数日後、帝国軍が攻め入って来たとの知らせが、王宮に届いた。




