11.密偵見習いは考える
猪男を殴り飛ばした日の夜、私はベッドの上で寝返りをうっていた。
「ムカつく」
猪男に言い負かされたのが、腹が立って仕方ない。
眠れないままゴロゴロとベッドを転がるうちに、思考が怒りから困惑に移り変わっていく。
(何で私は反論できなかったのか…)
猪男に「ケイジュが好きなのか?」と指摘されて、反論できなかった…じゃあ図星なのかというと、ちょっと違う気もする。
一般的に恋をすると、一日中その人の事で頭がいっぱいになったり、一緒にいたいと思う…らしい。
しかし私はケイジュの事で頭がいっぱいになったりはしないし、一緒にいたいとは思ってない、と思う。
「う~ん」
(予想外の事を言われて、動揺しただけなのだろうか?)
それなら反論できなかったり、顔が赤くなる理由も分かる。
しかしそうなると、猪男のバカ発言に苛立った理由が分からない。
(何でケイジュと猪が恋仲になると、腹が立つのか…)
想像してみる。
猪男と両想いになったケイジュ…
「………」
殴り飛ばしたくなった。
これは嫉妬なのだろうか?
ケイジュに対して恋愛感情を持っているかいないかの二択なのに、考えれば考えるほど分からなくなっていく。
(そもそも私は愛自体よく知らない)
枕を抱えながら、寝返りを打つ。
人が最初に与えられる愛は、親の愛だ。
しかし私は親の愛情を感じたことが無い。
脳裏にオタク王の顔を思い浮かべる。
幼い頃から時間を作っては、何かと会いに来てくれた。誕生日にも欠かさずプレゼントをくれた。
愛されていないとは思ってない…むしろ愛されているのだろう。
しかし接する時間はほとんどなく、今いちよくわからない。
母親に至っては論外だ。
他にも友愛とかあるが、友人はおらず、兄弟と言えば王女と王子だ。
愛情以前に、住む世界が違うと思う。
「あぁもう!考えても仕方ない」
自分でいくら考えても分からない以上、誰かに聞いてみるしかない。
そう結論を出すと、ムリヤリ目を閉じて眠りについた。
翌日の休み時間、猪男が教室にやって来た。
仕方ないので、場所を変えるといきなり土下座した。
「昨日はスマン!謝るから解決策を一緒に考えてくれ!」
正直驚いた。
土下座もだが、王女の誤解を解くためだけにそこまで必死になるのか。
「考えてもいいけど、その前に聞きたいんだけど」
「何だ?何でも言ってくれ」
猪男が土下座体制のまま、顔だけ上げてくる。
「何でそこまで必死になるの?考えても良い案が出るとは限らないし、もし誤解が解けたとしても王女に気持ちが通じるわけでもないのに」
私がそう言うと、猪男がキッパリと言った。
「そんなことは関係ない!王女様に誤解されたくない、それだけだ。好きな人に素の俺を知っていてほしいからだ!」
「……分かったわ」
「そうか!ありがとう」
猪男は笑顔で立ち上がった。
(正直よくわからないけど)
少しわかったような、全然わからないような、モヤモヤした気分を抱えたまま「行動で証明すればいい」とアドバイスすると、猪男は笑顔で去って行った。




