4.密偵見習いは欲求不満になる
始業式から1か月たった。
あれから変態は放課後毎日待ち伏せては王女を口説いている。
「君の瞳はダイヤモンド~」
「………」
(あぁ殴りたい)
護衛の立場上王女と行動しなければならないから、毎日鳥肌が立つ台詞を聞かされて勘弁してほしい。耳栓が切実に欲しいところだが、それでは不審な物音に気付きにくくなる。
今日も今日とて変態が花束抱えて王女の後をついてくる。
「可憐な君にこの花束を捧げよう」
そう言って花束を差し出す。
「あら~ありがとう~」
そう言って王女が受け取ろうとするのを止めると、そのまま間に割って入る。
「ダメです王女、知らない人から物を貰っちゃダメだと教わったでしょう?」
「いけない、そうだったわね」
「む、何だ君は。私は知らない仲じゃないぞ!?教師で未来の夫だ」
「夫になるとは限りません、最低でも婚約者になってから言って下さい」
「だから今口説いてるんだ。何の権利があって邪魔するんだ」
「護衛ですから。不審な人や物を近づけるわけにはいきませんので」
「私は不審じゃないぞ、教師で未来の夫だ」
「………」
この1か月ずっとこの堂々巡りである。
が、今日は違った。
「待て待て待て~~い」
砂埃を上げて誰かがこちらに向かって来た。
「王女様ご無事ですか?」
やって来たのは猪男だった。そのまま私と変態の間に割って入る。
「ケイトさんこんにちは~」
「久しぶりね猪男、何してたの」
「こんにちは王女様。あと平民女は猪言うな!生徒会は人手が足りなくて大忙しなんだ、お陰で王女様に中々会えなかった」
「なるほど」
猪男は挨拶するとすぐ変態に向き直る。
「何だ君は」
「俺はケイト=アグリモニー!王女様の……ええと何て言えばいいんだ?」
猪男がこちらに問いかける。
「知らないわよ」
護衛ではないし、もちろん恋人でも婚約者でも身内でもない。王女に片想い中なので自分から友人とは言いたくないだろう。
「ケイトさんは私の友人よ~~」
だがそんな事は空気読まない王女には関係ない。あっさり友人と言い切った。
「そ、そうですよね……ハァ」
とりあえず猪男も同意した……ため息ついてうなだれたけど。
「とりあえず友人というのは分かった、ならば友人の恋路を邪魔するな」
変態が口をはさんでくる。
「王女様はお前なんか何とも思ってないんだから、友人の恋路の邪魔にはならないだろう!」
「何を言うか!もう一か月も毎日口説いてたんだぞ、これで好意を持たれない筈がない!」
「それを言うなら俺は1年前から口説いてたぞ!」
猪男が反論する。
「アンタがいつ口説いたってのよ」
つい思った事を言ってしまった。どうも我慢が出来なくなってるらしい。
しかしそれが間違いだった。
「何だと!?いつも誠心誠意好意を伝えているだろう!」
猪男が振り向いて憤慨すると変態が追い打ちをかけてくる。
「ハッ!心にも残らない口説き文句だという事だろう。その点私は参考書があるからな」
そう言って古びた本を掲げる。
そこにはこう書かれていた。
『女性の口説き方100選~これで貴方も今日からモテモテ~』
「「…………」」
(誰だよこんなの書いたの)
つまりあの鳥肌ものの台詞はすべてこの本のせいだという事だ。
頭が痛くなってきた。思わず頭に手をやる。
知りたくないが、もし作者を見つけたらそいつも殴ろうと心に決める。
「フン!つまり本に書かれたのをそのまま言ってるだけか。オリジナリティーのない奴だ、こういうのは自分で考えて言うものだ」
猪男がバカにした顔で言うと変態がムキになった。
「何を!?そういうんなら勝負だ!どっちの口説き文句が彼女の心に届くか」
「受けて立つぞ!」
猪男もムキになる。
「君の瞳はきらめく宝石~」
「君の瞳に乾杯~」
「…………」
結局2人は寮につくまで王女にくっつきながら、ひたすらクサイ台詞を言い続けた。
(こいつらまとめてふっ飛ばしたい)
ここに爆薬が無いのがとても残念だった。
学園は今日も賑やかです。




