10.密偵見習いは裏取引をする
今回は顔文字なしで
屋上についた。ここなら人目につかない
「それで話って?大体想像つくけど」
早速切り出す。早く済ませたい
「借りを返してくれ」
こちらを見て言う
「何をさせる気?」
「王女との婚約を破棄したい、協力してくれ」
「やっぱり…」
ため息をつく
この男は昔から王女が嫌いだったのだ
「当然だろ?あんな天然女と一生を共にするなんて考えるだけでも御免だ。おまけにオタクでうるさい舅までついてくるんだぞ?王位くらいじゃ割に合わない。父上の二の舞はまっぴらだ」
「やっぱりチューリ嬢をたきつけたのはアンタね。おかしいと思ったのよアンタが迷惑がってるなんて知ってる筈ないのに」
この男は王女と最低限の接触しかしてない。その上化けの皮も完璧だ。傍から見て王女を嫌ってるようには見えない。
本人が漏らさない限り
「別にハッキリ言ったわけじゃない。人目が無い時に「王女のフォローも役目だから大変だけど頑張るよ」とか「王女との婚約が決まってなければ別の人生があったかもしれないと思うと残念だ」って言っただけだ。事実だしな」
確かにそうだろう
宰相は息子と王女の婚約に大反対してたし、いい加減引退して家族もろとも田舎に引っこみたがってもいた
2人の婚約さえなければケイジュは田舎貴族の跡取りとしてノビノビ過ごしてただろう
「それで私に何をさせる気?王女の暗殺は無理よ」
一応護衛として来てるのだ
「俺だってそこまで鬼じゃないお前にとっても異母妹だしな。王女の様子を教えてくれればいい。あぁ変化があった時だけな?始終あの女の事を聞かされるのもウンザリだ。あと機会があったら他の男と仲良くなるよう誘導してくれ相手は誰でもいい」
苦虫を潰した顔でケイジュが言う
「本当に王女が嫌いなのね」
他人に殆ど関心のないこの男にしては珍しい
「当たり前だろ?父上の恥は俺の評判にも関わる。当時は針の筵だったし今だってまだ一部から生暖かい目で見られるんだ」
「宰相には本当に同情するわ」
そう言うとケイジュが目を瞠った
「驚いたな。面倒くさがりのお前が他人を気にするなんて」
「私だって全く気にしない訳じゃないわ。王女に悪気が無いとはいえあれは気の毒だったもの」
宰相はあの後しばらく自邸に閉じこもり、王女は完全に貴族連中から敬遠された
「父上からも王女の機嫌を損ねずに婚約破棄に持って行けと中々無茶を言われてるしな」
肩をすくめて言う。確かに無茶だ、しかし無理もない。学園にいる間が最後のチャンスだ
「分かったわ、時々王女の様子を教えればいいのね。ただ誘導は分からないわよ?近づく男がいるとは思えないもの」
貴族で近づく者はまずいないし、平民も大抵は「恐れ多い」と言っている
「あぁそれでいい。こちらからもなるべく手を打つ」
「ほどほどにね。幼馴染を殺りたくないわ」
「あぁ俺も殺りたくないな。せいぜいチューリ嬢に期待しよう」
肩をすくめて言った後そのままケイジュが出ていく
1人残った屋上で空を見上げて言った。
「あ~ぁ面倒だなぁ」
皆様よいお年を<(_ _)>