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ブライアントー1

「今日はオムライスにしてくれ」

「かしこまりました」


 ブライアントが指で目やにをこすりながら指示すると、メイド型アンドロイドがお辞儀をしてオートサーバーへと向かっていく。


「各社のニュースペーパーを持ってこい」


 命令と同時にアンドロイドたちが動き出し、長い机の端に置かれていたニュースペーパーの束を持ってくる。


 ブライアントはニュースペーパーを受け取ると、さっそく広げて目を通し始める。


 今どき珍しい紙素材の新聞をブライアントは好んでいた。


「ちッ。また陣内がシェアトップか」


 舌打ちをして、出されたコーヒーを啜る。熱くて舌から胃の腑まで焼け爛れそうだ。目が冴える。


 ブライアントは次の新聞を広げて記事を読み込んでいく。インクの臭いに、精神が冴えていくのが分かった。


「お待たせいたしましたご主人様」

「……ああ」


 天然素材プラチナフードで作られたオムライスが到着する。ケチャップと卵、チキンライスの良い香りに鼻腔をくすぐられた。


 これ一食で日雇い労働者五十人の一日が買える。


 ブライアントはシルバーのスプーンでオムライスを掬って、大した感動もなく口に運び咀嚼した。


 ブライアントにとって食べ物はプラチナで当たり前だった。陣内がシェアトップを誇る飲食業、その要となっている培養食品シリアルを一度食ってみたがとても人間の食べるものではなかった。


 少なくとも、ブライアントの舌にはそう感じられた。

 生まれたときからプラチナフードしか食べたことのないブライアントにとって、シリアルは売るものであって食べるものではないのだ。


「ニュース映像を」


 短く言うと、アンドロイドがコンソールを操作して空中に巨大なホログラムスクリーンを浮かべた。


 常時十局以上の番組が流れている。ブライアントは目の動きで映像をフリックして、気に入ったものを注視して音量を上げた。


「……今日も可愛いな。私の天使は」


 スクリーンに大きく写ったのは、ブライアントが持つテレビ局が生んだスターアイドル『レジェン』だ。


 歌とダンスの才能はあったが、容姿が悪かった。しかしこの才能を埋もれさせるのは惜しいと感じたブライアントは彼女にあえてホログラムではなく整形させ、自分好みの美しい女性に作り変えた。


 彼女は売れた。今では都市のあちこちの巨大モニターに笑顔のレジェンが人々に微笑みかけている。


 Cランク、つまりは貧民街出身のレジェンはブライアントに感謝していた。


 ブライアントはそんな彼女を抱いた。レジェンは処女だったが、これが世界の仕組みだと納得させた。


 レジェンは最初だけ泣いて、あとはブライアントに抱かれるのを嫌がらなくなった。芸能界向きの強い女だった。


「社長、失礼いたします」


 食事を終えると同時にドアが開かれて、一人の女が入ってくる。

 ブライアントの秘書、ミス・サリアだ。


「今日のスケジュールです」


 サリアは隣に立ち、携帯端末を起動させる。ホログラムウィンドウが現れて、時間ごとに区切られたスケジュールを流す。


「分かった」


 ブライアントは言いつつ、視線はサリアの、タイトなスーツに包まれた豊満な肉体に釘付けになっていた。彼女もブライアントの愛人だ。秘書兼愛人にしてから、もう何度抱いたか数え切れない。


「サリア、来い」

「あっ、社長」


 立ち上がり、腕を取って寝室に引っ張っていく。


「まだ時間はあるだろう」

「は、はい」


 金髪のメガネ美女は頬を赤らめ、頷いた。

 そんなサリアの態度に、ブライアントは股間を大きく膨らませる。


 睡眠欲、食欲が満たされたとなれば次は──性欲だ。

 ブライアントは良く働き、良く動く。そして何度も何度も、女を抱いて女を愛する。


 それがネオトーキョーにおいて五大企業と呼ばれるメガコーポの一つ、『クリティカル』のトップであるブライアントの日常的な様子だった。

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