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回収屋

 重酸性雨が降っている。

 濡れた路面には街のネオンが反射し、様々なモノを照らしていた。


「よっ……と」


 黒いカッパを着た男がふたりいた。

 男たちは死体袋ボディバッグに包んだものを、バンの後ろに積む。


「すげぇ死体でしたね」


 男のひとり、至善洸汰しぜん こうたが言う。

 ボディバッグに入っている死体は、顔が弾き飛ばされていた。


 できるだけ浚って頭部っぽいものを集めたが、集めきれなかった分は排水溝に流した。

 血の処理もしなくてはいけなかったから、まあしょうがない部分だ。


「そうだな。でも、こんなのがあと二体だぞ」

「うぇえっ……」


 今回の“掃除”の責任者である山田ドロスクが言うと、至善は心底嫌そうな顔をした。

 至善はまだ入社して一ヶ月の新人だ。


「まあ、新人には過酷な現場かもな」

「俺、普通の死体しか見たことなかったのに」

「でも慣れろよ。派手に動き回る連中が増えたら、こういうのばっかだぞ」

「えぇー、慣れますかね」


 遠慮のない至善の態度にドロスクが苦笑して、バンの扉を閉める。


「乗れ、行くぞ」

「うぃっす」


 カッパに付いた水滴を軽く払い落としながら、ふたりはバンに乗り込む。

 ホバースライドやスカイホップなどの乗り物はCランクエリアにはない。

 あっても違法建築物が多くて飛ぶのは危なっかしくてまともに運転できない。


「死体といえば、お前あれ知ってるか?」

「どれっすか?」

「前に起こったMA襲撃」

「あの自警団のっすか? やば、命知らずだ」

「その命知らず集団とMAの抗争で死体がわんさか。今回の死体と同じかそれ以上なんてゴロゴロあったんだぜ」

「マジすか……うわぁ、仕事がいっぱいなのはいいけど……」


 話しながらハンドルを切り、裏路地へと入っていく。

 浮浪者や麻薬中毒者などで溢れているが、さすがに襲撃してくるようなボンクラはいない。

 いても運ぶ死体が増えるだけで、金にならないから勘弁してほしいではあるのだが。


「あーれは……依頼者か」

「うわ、綺麗なお姉さんっ」


 視界の端にずっとあったナビに向かって進んでいくと、こちらに向かって手を上げる女がいた。

 銀髪で黒尽くめの姿をした美女だった。


「は、はじめまして! 至善と申します!」


 車を降りるなり、至善が勢い込んで銀髪美女に話しかける。


「おい、バカ。依頼者さんに何してんだ」


 その至善を止めつつ、ドロスクも銀髪美女に頭を下げる。


「若いのがすんません。回収業者の山田です。依頼のモノは?」

「これです」


 銀髪美女が指さした先には頭のない死体が転がっていた。

 何か強いモノで挟まれ、破裂させられたような物体。

 目玉のひとつが神経を引いたまま落ちていて、雨に打たれている。


「うっ……!?」


 同じものを見たのか、至善が口元を押さえる。


「山さん、すいません。俺ちょっと」

「死体にはかけるなよ」

「うぃっす……ぐっ、うっぷっ」


 言いながら、至善が通りの隅に駆けていく。

 そこで吐き出しているうちに、ドロスクは車からボディバッグをひとつ取り出して回収に取りかかる。


「……なにがあったか聞かないんですか?」


 銀髪美女が言った。


「そんな命知らずなことしませんよ。この都市で早死するヤツはだいたい好奇心が強いってのが相場ですから」

「ふふ、そうですね」

「なんすか、ふたりとも楽しそうに話してるっすね。俺も混ぜてください」


 吐いてスッキリしたのか、至善が戻って来る。


「こいつみたいな」

「ふふふ、確かにあなたよりはそうかもしれませんね」

「え? 俺がなんすか? カッコいいって話っすか?」

「うるせぇ、いいから早く袋に詰めろ」

「ちぇー、俺もお姉さんともっとお話したかったのに」


 ぶつくさ言いながらも、至善とともに死体を袋に詰めて“梱包”する。

 バンに積んで、運転席に乗り込むと、銀髪美女が車内を覗き込んでくる。


「うちからの回収はあとひとつです。ちょっと良くない場所なので、うちのものが見張ってますので、それを目印にしてもらえれば」

「うちのものって言うと……」


 訊くと、銀髪美女は自分のコートの襟を摘んで見せた。


「ブラックコートで厳ついのがいます」

「……了解しました」

「あ、お姉さん、お名前を」

「おい、バカ」


 身を乗り出す至善に、銀髪美女がふわりと微笑む。


「アルター。以後、お見知りおきを」

「アルターさん、すごくいい名前……」

「ふふ、ありがとうございます」

「よかったら連絡先もあだっ!?」


 さすがに頭を叩いておいた。


「アルターさん、うちのバカがすんません」

「いいえ、では引き続きよろしくお願いしますね」

「はい。よし、行くぞ」

「ちぇっ、アルターさん、また」

「ええ」


 挨拶して、バンを発進させる。

 名残惜しそうにバックミラーを見ている至善を、ドロスクは呆れた顔で一瞥した。


「お前は危ない道をよく平気でポンポン渡れるな」

「どういうことっすか?」

「どう考えてもカタギじゃない女に入れ込もうとするなよ」

「なに言ってんすか、山さん。このエリアのどこにカタギがいるって言うんです?」

「あー……確かに。けど、お前に正論言われんのムカつくな」

「なんでっすか!?」


 そんな馬鹿話をしながらしばらく行くと、アルターの言ったとおり厳ついブラックコートが待っていた。


「なんだ、野郎か。さっさと回収しよ」

「……お前のそういうところ、俺は好ましいと思うよ」


 言いつつ、ドロスクと至善は簡単に挨拶を交わし、絞殺痕のある死体をボディバッグに詰めていくのだった。


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