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エアリスー1

 エアリス・マクスウェルは華奢な少女だった。


 白いワンピースは、常に薄暗いこの世界では眩しく映る。


「どうして、こんなところにいるんだろう」


 エアリスはゴミや残飯が放置され、腐り、異臭を放つ路地裏にいた。


 メガ・シティ『ネオトーキョー』の中で俗にCランク、スラム街と呼ばれる場所に、エアリスは立っていた。


 生白い素足は傷だらけで、雨に打たれた腰まで伸びた白い髪が身体に張り付いている。


 自分がどうしてこんなところにいるのか、エアリスは思い出せなかった。考えようとすると、頭が酷く痛んだ。


「……よぉ、なにしてんの」


 背後から、声が聞こえた。

 緩慢な動きで振り返ると、三人の男たちが路地の入り口に立っていた。にやにやと口元を歪めてエアリスのことを見ている。


「わから、ないんです」

「はぁ?」


 エアリスが正直に答えると、声をかけてきた男がぽかんとした表情をして、そのあと横の二人と顔を合わせて笑った。


「あの、なにかおかしかったですか?」


 不安になって聞くと、男が首を振った。


「いやいや、大変だなと思って。どうよ、なんでこんなところにいるのか俺たちと一緒に調べてみるか」

「……調べる? いいんですか?」


 一緒に理由を探してくれるという好意に、エアリスは顔を綻ばせた。男たちの顔が野卑に歪んだが、エアリスは気づいていなかった。


「ああ、もちろんさ。俺たち、困ってる人を見過ごせないんだよね」


 男の言葉に、横の男が口元を押さえて笑った。

 何か面白かったんだろうか。エアリスも首を傾げつつ微笑む。


「とりあえず俺たちの家に行こうか。シャワーでも浴びて、ゆっくり考えるといい」

「ありがとうございます」


 近づいてきた男に肩を抱かれ、エアリスは男たちに連れられて路地を出る。


 声をかけてきてくれた人たちが親切で良かったと、彼女は本気でそう考えていた。


「おう、俺だ。すげぇ上玉連れてくから、ベッド用意しとけ。ああ、AかBのお嬢様がドラッグパックでハイになって迷ったんだろうよ。くく、ああ、楽しみにしとけよ」


 左端の男が電話をかける。男の言葉は聞こえたが、内容は上手く掴めなかった。自分のことを話しているとは思ってもいない。


「あの、上玉とはなんですか?」

「ん? ああ、気にしなくていいよ。こっちの話さ」


 肩を抱く男に聞くもはぐらかされる。エアリスもそれ以上聞くことはなかった。




 寂れた路地を歩く四人を、上から見下ろす目があった。旧式の半円型監視カメラが、四人の姿を捉えて追い続ける。


 カメラは自治警察の管理下にあるものだが、スラム街の警官たちは皆怠惰で、監視もロクに行ってはいない。少し知識のある人間が使おうと思えば簡単に乗っ取れた。


「見つけたぜエアリスちゃん。だがそいつらについていくのは感心しないな。自らインスタントワイフになることを望む根っからのビッチ気質なら止めはしないがね」


 カメラを操っている男、ヴィンセントは自分で上手いジョークを言ったと思い笑う。

 同時に目線の動きで通信装置を起動。ドッグに連絡を入れる。


「おう、見つかったぞエアリスちゃん。リウ・ストリートを男三人と歩いている。五番街に向かってるから、たぶん伍龍ウーロンの連中だろう。不味いことに好色で有名なとこなんてな」

『分かった。追い続けてくれ』

「了解。インスタントワイフになる前に助けてやれよ」


 通話を続けたまま、ヴィンセントはカメラをいくつも経由して四人の姿を追い続けた。


 ヴィンセントとしても、いたいけな少女が性の捌け口にされることを望んでいるわけではない。ポルノは18を越えて、同意の上でならオーケー。マンガなら何でも有りだ。


 ヴィンセントはポルノに対する信念を再確認しつつ、エアリスがドッグに無事助けられることを願ってキーボードを打ち続ける。

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