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ドッグー1

初投稿です。よろしくお願いいたします!

 メガシティ、ネオトーキョーは雨に降られていた。

 Bランクの中心地である電気街には傘の花がいくつも咲き、毒々しい色のネオンに雨粒が当たって弾けて消える。


 ドッグも人々と同様に傘を差し、電気街アキバ・ストリートを歩いていた。


 サイバーウェアを販売している店舗の広告ARが目の前に現れる。サイバーグラスのARカット機能から漏れたらしい。


「そういえば、アップデートを忘れてたな」


 グラスは定期的なアップデートをしないと、最新の広告ARをカット出来ず、今のように広告を垂れ流しにする。一年に何度かは、広告ARに驚いて怪我をする人間がいる。


 どれだけ客に刺激的な宣伝が出来るか。というのを、勘違いしている企業がいくつかあるのだ。


 ドッグは豊満な胸を強調した女性店員型ARをすり抜けて、電気街の夜を歩く。


『まだ生身の肉体を使っているの?! 信じられない! さあ、今すぐ肉体を義体へ』


 巨大ビルの中央に掲げられた巨大スクリーンでは、ナチュラル──サイバネ化してない人間たち──を時代遅れだと嘲笑する企業CMがやかましく喚いていた。


 グラマラスな体型をしたモデルが自らの皮膚に爪を立て、腕の中身が鈍色の機械だと示す。


 作られた笑顔を浮かべる男性モデルが服を脱ぐと、彼はフルチューンされた鋼鉄の全身を晒した。


 どちらも最新型だが、あくまでもファッション義体だ。ドッグみたいな人間が必要とする機能は備わっていない。


 傘を握る己の義肢を見て、ドッグは今日の調整も上手くいっていることを実感する。


 義肢は皮膚膜で覆っているから、見た目はナチュラルと変わらない。ただ、普通の人間がファッションで交換する義肢とはパワーが違うだけだ。


 ──と、グラスの内部に通信を知らせる映像が流れ込む。


 ドッグは視線の動きで通話をオンにして、画面に現れた白髪をオールバックにした初老の男性「ドクター・エルヴィス」を見る。


「どうしたんだ、ドクター」

『お前さんが店を出てからきっかり三十分。調子はどうだドッグ』


「今回も完璧な仕上がりだよ。マシンアート社のゴリラ型でも相手に出来そうだ」

『ふん。完璧なのは当たり前だ。ゴリラ型とバトルしても構わんが、壊すならうちに持って来い。上客になる』


「覚えてたらな。用件はそれだけか?」

『急かすな、これだからニューサイバー世代は困る。スピードだけを求めおって』


「それで、なんだよ」

『お前さんに依頼だ。いつも通り「バー ベアトリーチェ」で話を聞け。確かに伝えたぞ』


 言うだけ言って、ドクターの通信は一方的に切れる。

 自分だってスピード主義のくせに、とドッグは呆れた。




 バー ベアトリーチェは今どき珍しく、外観にホログラムを使っていない。

 黒檀の巨大な扉をくぐって中へ入る。

 カウンターが十席、テーブルが三卓の小さなバー。内装は黒を基調し、ライトは絞り気味。全体的に暗い店だ。


「いらっしゃい」

「どうも。ドクターから聞いてきた」


 カウンターの奥から声をかけてきたのは、ベアトリーチェのマスター兼フィクサーのアイヴィだ。


 スツールの一つに腰掛けると、すぐに黒い合成酒リヴォルとコードの打ち込まれたコースターが出される。


 合成酒を呷りながらコースターをグラスでスキャン。画面に現れた依頼書に目を通す。


 グラスに映し出されたのは透き通るような白肌をした銀髪の少女だった。


「……人探し、なんだかやけにヴァーチャルじみた顔だ」


 翡翠色をした大きな瞳に、やけに赤い唇。華奢な身体を白いワンピースで包んでいる。

 年齢は十二、三歳といったところか。


「……はぁ? 五歳?」


 依頼書の年齢欄を見て思わず間抜けな声が出た。

 確かにこの一世紀で技術は進歩したと言われる。不死とは行かずともパーツさえ交換すれば不老はほぼクリアされた問題だ。しかしその逆、成長促進は身体への負荷が強すぎて未だ実験段階と聞く。


「アイヴィ、さすがに電脳世界の人探しはやってないんだが」

「彼女はヴァーチャルアイドルではないし、依頼者も間抜けではない。彼女──エアリス・マクスウェルは実在する」


 アイヴィは金色のショートカットを揺らし、右手で何かを投げる動作をした。するとドッグのグラスに情報がポップアップする。画像だ。


「イェン・ストリートか?」


 映っているのはCランクエリアの一部だ。

 貧民街でバラックや倒壊しかけている建物が並ぶ地区。

 元々あった一つのビルを中心に勝手気ままに造られた横にも縦にもデカイ、三つのツギハギタワー「三叉城トライデント」が有名。


 職業柄知り合いも多いが、普段から積極的に通う場所ではない。

 なにせ犯罪者が多いエリアで、見目の良いエアリスは如何にもカモだ。

 良くて三叉城幹部のお気に入り、普通でドラッグ漬けの売春婦、最悪なのはインスタントな性欲のはけ口だ。そうなったら精液塗れにされたあと、切れ味の悪いナイフで刺されておしまい。想像するだけで嫌になる。


「街頭カメラに映ったのは一時間前。今ならまだ間に合うかも」

「飛び出していきたいところだが、依頼主と報酬は? ここには書いてないみたいだが」


 スツールから腰を浮かせつつ、ドッグは記載されてない情報を訊ねる。

 依頼書に書かれないときは、口頭で。依頼人が証拠を残したくないときに使う手だ。


「とある企業の幹部とだけ。幹部とその子飼いたちは三叉城と仲が悪いから、偶然でもあそこに逃げ込まれると厄介なんでしょうね」

「報酬については?」

「安心してもらっていい。すでに成功した場合の報酬も預かっている」


 いよいよ持って依頼主は自らを秘密にしたいらしい。アイヴィの出した情報では該当する人間が多すぎて的を絞れない。


 ともかくドッグは安心して頷く。そもそもベアトリーチェを通した時点で、報酬を違えた場合や依頼を受ける人間を騙まし討ちしたときの信用墜落は必至だからだ。


「いくら出る?」

「一万ドル。生きて連れてくることが条件」

「人探しで一万か。悪くない話だな。オーケー、依頼は受けた。行ってくる」

 ドッグはグラスの情報を視線でどかして、スツールから降りる。


「あなたに幸運を」


 アイヴィの決まり文句を背中で聞きながら、ドッグはベアトリーチェを出た。

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