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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

『四千年前の君へ』

作者: とら

8月15日、少し遅れましたが、戦争、世界の残酷さ、生命の希望をテーマにした作品を書きました。

あの出来事は二度と起こしてはいけない。

僕たちは、平和を実現させる希望にならないといけないな、と思いました。


あなたの心にも、そんな気持ちになってくれたらなと思います。

 

 西暦2XXX年。



 人と妖の戦争が起きた。




 約15年間、日の出ずる国は戦場となり、ひたすら殺し合いを強いられ、


 木や草は刈り取られ、街や山は破壊され、海は汚れ、人は死に、妖は死に、赤い雨が降る。


 ただただただただただただただただただただ

 殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで。



「人間は弱い」「妖怪は愚か」だという者たちがいる。


 実際、人間は弱い。

 だが、どんなに人間より力を持っているとはいえ、やはり文明には勝てない。



 今日も何処かで、生命は死んでいる。


 妖は戦争に敗北し、力のない無抵抗な子供や、歩けもしなけりゃ生きていく資格のない哀れな老人は、その場で見せしめとして

首を刎ねさせられたり、皮膚を剥いで燃やされたり、性に飢えた豚共の餌食になったり。


 そんな人間たちの非行に怯えだした妖怪たちは、西方への後退を余儀なくされた。


 しかし、それも無意味な行動だったのだ。

遥か彼方で命が飛ぶ音がする。

大きな爆発音が響いている。


 そんなことも些細なことだった。もはや死しかないこの国に、妖の生きる場所はない。


 人間たちは大きな「文明(ちから)」を得た。

 その文明の代償は、人の権利である。

 政府は国民を置いて行く。

 力と技術だけを求め、幸せを放棄した。



 故に、また愚かな争いは起きた。今度は人間対人間の殺し合い。

 再び地上は血に染まり、街は瓦礫の骸。


 少年は、その中に立っていた。

 右目は潰され、ぽっかり穴が開いてしまった。

 そして、取り残された左目は見ていた。

 血は流れ、瓦礫に伝う。


ーー自分以外全員、いなくなったんだと。


 全員逝ってしまった。この国には自分一人だけが立って、


 そして笑っている。壊れるような笑顔で、死を見ている。


 なぜ自分は生きている?そんなことは知らない。が、今左目で見ている人間の死体が、屍が、骸が、堪らなく狂おしいほど愚かしい。

 もう自分の右目を潰した、あの鬱陶しい親は居ない。轟音もない。あるのは自分と穢れた大地だけ。



 その内少年は、壊れた笑顔で歩いて行く。

瓦礫の街を、泣くように、笑いながら、弱々しく。


 日が暮れた。

 その先に見たものは骸。名も知らぬ人間の屍。

 下半身は無く、肋が飛び出し、痛々しそうに舌を出してこちらを見ていた。


 少年は手を伸ばす。

腹は膨れた。罪悪感は微塵もなかった。






 雨が降ってきた。


 消えることの無い痛みは、今もこの地を穢している。

それが、誰もが「幸せ」を願って、全てを賭けてきた、


ーー戦争の『代償』である。


 あの出来事は一体何を残していったのだろう。この悲しみは、誰に対してのものだろう。それすらわからない、愚かな生命になってしまったのか。



 その痛みはいつも側にあるんだ。

 自分たちの全てを奪ったあの日。



 あの時、少年は胸に誓った。もう分厚い灰色の雲に覆われてしまったあの空に蒼を、日の出ずるこの国を取り戻すと。


 決して見捨てはしない。

 誰もが追い求めた「幸せ」が降り注ぐあの日へ、自分たちが満足して殺されるような日が来るまで、ひたすら戦い続けるんだ。


 鬼になっても、妖になっても、屍になっても、神になっても、この不安や痛みが搔き消えるまで戦い続けて、


 そして、光がまた消えた時、自分は思い出すんだ。


 自分自身が死んでいく幸せな世界を見るまでは、ひたすら戦い続けるということを。


 生きた「希望(せいめい)」と、手を繋ぎながら。











 西暦6XXX年。



 再び地上に光は注ぎ込んだ。緑の大地と、澄み渡った海を。



 そんな大地のとある小さな村では、妖怪と人間が、大層仲良く住んで居たそうだ。



 村では、神を崇拝し、仏壇が設けられた。

 幾年が過ぎたある日、村に新たな生命が産まれ、それを見た者は言った。



ーーこの子は大地を創った『神』の生まれ変わりだと。



 その姿は、まるで神だと言われるほど、少し変わった風貌だった。

 頭には大きな二本のツノが生え、尾骶からは妖の様な尾が生え、体は屍の如く冷たく黒く、そして。







 右目が、無かった。






ーーこれが、平和の『代償』である。






おわり


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