0・序奏 1(イチ)
勝手に、0話作りました。
最初に読んでもいいですし、1話から読んでもいいですよ。
『序奏 2』もあります。・・・多分。
僕は、今、上を見上げている。
月が、輝く夜。きれいな満月だ。
そこには、僕と長老がいた。
そして、長老は、言う。
「イチや、頑張るんだ。」
しかし、僕は、首を横に振る。
「無理だ。僕には」
それでも、長老は話し続ける。
「お前さんなら、できる」
でも、僕は否定する。
「できない。どんなに頑張っても、僕には無理だ」
僕は、イチ。
この木の、一番下に実ったドングリ。
一番下だから、イチ。
「お前は、わしの名前を授けた者として、何としてでも生き残ってほしいのじゃ」
長老の名前は、『イチ』。
僕と同じ名前だ。
「長老は、立派だから、そんなことを言えるんだ!」
長老は、昔、一番最初に産みの木に実ったから、イチという名前が付けられたらしい。
「わしだって昔は、怖かったもんじゃ」
長老は言う。そう言う長老は、とても堂々としている。
「お前さんが思っているほど、そんなに、わしは立派じゃないのじゃ」
それに対して、僕は言い返す。
「いえ、長老は、とても、お偉いお方です!」
「ならば、お前さんも行くんじゃ!!」
長老は、叫ぶ。
「わしを見習うんじゃ」
でも、僕は・・・。
「ですが・・・」
長老は、うなずく。
「ほら、イチや。これは、わしの命令じゃ。”とても偉いお方”からの、命令じゃ」
僕は・・・・。
「でも・・・」
長老は、もう一度言う。
「いや、わしからの、お願いじゃ」
長老は、懇願する。
「イチも、そろそろ、わし離れせんとなぁ」
そう呟き、微笑む。
「・・・・・・はい、長老」
僕は、そう言って、飛び出した。
外の世界へ。
新たなる世界へ。
未知なる世界へ。
旅立っていった。
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「これで、全員が、行ってしまった」
残された、イチは、そう呟き。月を見上げる。
「せめて、一度だけでも、呼ばれたかったのぅ」
イチは、空を見上げる。
「あの子に」
涙が、一筋。頬をつたう。
「『イチ』と・・・」
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ドングリが
旅立った その満月の夜に
その物語は はじまる
世界は 広く 狭い
ひとつぶのドングリは
その世界の ほんの一部を
かけまわる
それが ドングリの世界
取り残された
ドングリの木は
月を見上げ
つぶやくのだった・・・