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Obbligato.4-2 展望所にて

 少し行ったところで、僕らは休憩と称して地面に降りた。


 コンクリートの道路を挟んで、緩やかにそびえる斜面と芝生が敷かれた広いスペース。僕は紙飛行機を元の大きさに戻すと、芝生をふらふらとあるいて、設置されていた柵に手をかけた。柵の先は崖になっていて、視界を遮るものは何もない。下に広がるのは、ごちゃごちゃと並んだ家と、キラキラと輝く青。海だ。


 海が見えるここは、僕のお気に入りの場所だ。ついでに言うとここから下り坂なので気持ち的にも嬉しい。今日は、もう道は関係ないけど。


「ニック、海!」

「知ってる」


 僕の後ろで木の長ベンチに座ったニックに声をかける。ニックは海に背を向けて道路の方を見ていた。……いや、違う、どこも見てない。ニックはマジで休憩してる。そこまで疲れてもいないくせに……。


「ニック……。もうちょっと子供らしくさぁ、純粋さを持った方がいいんじゃない? せっかくこんないい眺めなのに、ただ座ってるだけってもったいないよ。すっごく疲れてるんならまだしも……」

「ジェス。確かにお前の言うこともわかるけどね、何回も来てる場所で見飽きるほど見た景色に毎回感動できるジェスの方が特殊だと思う」

「へーぇ、じゃあニックは、たとえばイザベラ教皇の魔法を毎日見れるとしたら、いちいち感動しなくなったりするんですかー?」


「それは……」ニックが詰まる。イザベラ教皇は神官家のトップで、猫神様に一番近しい人間だ。「時と場合……にもよらないかな。うーん、降参」


 ニックが軽く両手を挙げて、海の方に向かって座る。


「よろしい」

「まぁでも、おれがこの景色に今更感動しないっていう事実は変わんないけどね」

「うっわ、これだから心の曇った人間は-」

「うるさいな。……そうだ、イザベラ教皇で思い出した」


 ニックが急に鞄をあさり出す。


「なに?」


 僕はニックの隣に座った。


「あった……ジェス、見て」


 心なしか嬉しそうに差し出されたのは、


「……なぁに? これ」


 刀、のようなものだった。


 長さはニックの手のひらの付け根から中指の先までくらい。黒いけど透明感があって、細かい模様が刻み込まれている。じっと見ていると、ニックがそれを両側に引っ張った。やっぱり刀みたい。黒々としたさやから抜かれた刃の部分は、外側と同じ黒でも、普通の銀でもなく、無色透明に輝いていた。水晶かなにかかな? なんにせよ、安っぽいものじゃないと一目で分かるくらいには……、いや、それどころじゃない。ぱっと見ただけで、不思議な力が宿っているんじゃないかと思うほどの、なにかがあった。


「ニック、これは……?」

「これは、守り刀」

「守り刀?」


 聞き慣れない響きに聞き返すと、ニックは「そう」と笑った。


「おれんちに代々伝わってるんだって。神官家の守り刀」

「え!? じゃあ結構すごいやつなの、コレ!?」


 驚いてもう一度それをのぞき込む。よく見るとさやの真ん中に神官家共通の家紋と、ニックの家の家紋が並んでいた。ほんとだ……。


 ニックは苦笑いしている。


「そんなにすごくもないやつだよ」

「え? そんなことないじゃん」

「ううん、なんか、神器ってわけでもなくて、当主の証みたいなのなんだってさ。それで早いうちに跡継ぎに渡すんだって」


 へぇ、当主の証、なんだ。


 そう返そうとしたのに、なぜだか声が出なかった。


 あれ? と首を傾げて、でもそのときの僕は、特に気にもしなかった。


 妙にあいた間を誤魔化すように、僕はしげしげと刀を見つめた。なんだろう、普通の石より……。


「純粋っていうか……」

「まぁ、昔の神官たちが猫神様の力を借りて作ったって言うしね。ていうかそんなに気になる?」

「だってすごいもん」

「神官家のものがなんでもすごいってわけじゃないぞ」


 仕方ないじゃん、神官家は猫神様とのつながりが強い、すごい人たちってイメージなんだから。それに呆れたように言いながら、ニックもちょっと照れてるし。


「ニックだって、神官家のこと埃に思ってるんでしょ?」

「なんか絶対ジェスの漢字変換間違ってると思うんだけど……でも、そうだな。誇ってないとは言えないけど、埃っぽいと思うこともあるし。ほんとにみんながすごいわけじゃないんだ。聖職者は神の威を借りてるだけだから」

「菜食者? 紙の胃?」

「せいしょくしゃ、ね。それが役割だけど、その役割の上にあぐらをかいた途端に誇れなくなるぞって……これは父さんの受け売りだけど」


 ニックが刀を鞄にしまう。最後のは、意味が分からなかったけど。


「でも、ニックはすごい神官になれると思うよ」

「……そう?」


 僕の親友は照れたように微笑んでくれた。


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