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君に伝えたい気持ち

作者: 山本 司

 愛している。愛しているよ。でも、ずっと一緒にいたら、飽きてしまうのかな。いや、そんなことはないんだ。だって、僕は君のことを、これ以上ないほどに愛しく思っているし、きっと、君だって僕のことを、いつか受け入れてくれるハズなのだから。

「なんでこんなことするの!?」

 君は、その美しい顔を引きつらせて、奇麗な声で叫ぶけれど、なぜと聞かれたって分からない。でも、分かる事だってある、君は今苦しそうだ。足首に嵌められた枷は重そうで、君のその細い足首には紫色の跡が付いているし、今にも折れてしまいそうだ。君が僕から少しずつ後ずさりする度に、枷から伸びている鎖が、じゃらじゃらと音を立てる。僕には、君のその姿が妖艶に見える。いくら君が苦しそうでも、それが艶やかに見える。僕だって苦しいんだ。君が苦しむ姿を見るのは心が痛い、けれど、君が苦しそうなほど、僕の心は満たされていく。そんな矛盾に苦しめられている僕も、また、君と同じだね。

「いつになったら出してくれるの」

 諦めたように君は呟くけれど、何を諦めるっていうんだい。僕は君をここから出す気はさらさら無いのに。最初から期待するからいけないんだよ。期待は毒なんだ。僕が、君の体の中の毒を抜いてあげる。ほら、こっちへおいで。なぜ、おいでっていうと離れていくの。僕が近づいても、君は離れるよね。それが、どれだけ僕の心を傷つけているか、君は知っているのかな。きっと知らないんだ。だって、知っていたら、僕の事を傷つけないでしょう。君の足と手を、僕が貰ってしまえば、君は僕から遠ざからないのは分かっているけど、それはできるだけやりたくないんだ。でも、僕が貰わなければ良いのかもしれない。君を固定してしまえば、君は奇麗なままだ。君はどちらがいいかな。

 あれ、声を出さなくなってしまったね。僕の気に障る事を言ったら、自分が辛い目にあうと思ったのだろうね。でも、僕はそんな事はしないよ。何回も言うのは、少し、気恥ずかしいけれど、君に伝わって欲しいから、何度でも言ってあげる。僕は君を愛しているんだ。今はまだ、少ししか伝わってないかもしれない。けれど、時間をかけて、ゆっくりと、伝えていこうと、僕は思っているんだ。時間ならいくらでもあるからね。

 ああ、君は俯いている。きっとまだ苦しいんだろうね。それもそうだね、君が家族に別れを告げる時間をあげられなかった。僕は焦っていたんだ。本当にごめんね。君の涙は大きいんだね。落ちるときに、コンクリートとぶつかって、パタパタと音がする。少し悪趣味かもしれないけれど、僕は君の泣いている顔も好きだ。その震える長い睫毛に触れたいと思うし、青ざめている頬を撫でたいとも思う。簡単に言ってしまえば、君に触れたいだけかもしれない。そうだ、きっとそうだ。君の事を隅々まで知りたいと思うのだ。けれど、それはまだ、君が僕の愛を全て受け入れてくれるまで待つよ。

 君の背中は、今、コンクリートの壁に付いているね。僕からどれだけ離れていったのか、とても分かり易いよ。君はもう後ろに下がれない。安心して。僕は君を傷つけるつもりはないんだ。君が苦しいのは、僕にはどうしようもないけれど、辛くはさせない。ああ、泣かないで。これ以上泣かれたら、僕はもうどうしていいのか、分からない。君が涙を零す度に、君に触れたくて仕方なくなるんだ。僕にだって、我慢の限界がある。君は知っているのかな。

「やめて」

 どうしたのだろう。僕は君に、何もしていないよ。大丈夫。しない。ほら、そんなに肩で息をしないで。落ち着かないと、駄目でしょう。

「ごめん許して」

 何を謝っているの。君は悪いことをしていない。

「かえして」

 何を。それとも、君を、かな。過呼吸になっている君が苦しそうで見ていられない。やはり、君を楽にしてあげたいと思う。もう君が動かなくなってしまうのは、少し悲しいけれど、安心して。僕の愛は変わらないんだ。

「や……あ……」

 うまく声も出なくなってしまったようだね。大丈夫。苦しいのは一瞬だけだから。


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