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ポチリと拍手、ありがとうございます。

 ドリーを送り出す事暫し。

 時間の空いたマナは畑の生育状況を真剣に眺め、クーは空中をクロールで泳ぎ出し、ルルーは木陰に丸くなって昼寝を始めた。

 そんな呑気な三人の元へ、ドリーが文字通り飛んで帰ってきた。


「マナマナマナ! 大変だよー!!」


 びたーんと、マナの後頭部にドリーが張り付く。余りの勢いにマナの体が前へと傾いたが、根性で堪え。

 マナは後頭部のドリーを摘むと、目の高さにぶら下げた。


「何が大変なの?」

「あのね、精霊が困ってるの。大変なんだよー!!」


 何だそれは。意味が分からない。

 マナは困った様にクーとルルーを見るが、二人共首を横に振る。彼等にもドリーの言っている意味が分からないようだ。


「ドリー。ちゃんと説明して?」

「あのね、精霊が困ってるの。だから大変なんだよ」


 うん。言ってる事が全く変わってない。マナは頭を抱える。


「……マナ……ドリーに任せたのが間違いだったんだよ」

「これはもう、直接聞きに行くしかないにゃ」


 ドリーではなく、アリーに頼むべきだったか。

 マナは項垂れたまま立ち上がる。すかさず、クーとルルーがマナにしがみ付き、マナは一つ溜め息を零すと、ドリーをぶら下げたまま森の出口に向かって転移した。




「と、言う訳で、説明ヨロシク」


 クーとルルーを両肩に乗せ、片手でドリーをぶら下げつつ、もう片方の手をシュタッと上げるマナ。付き合いの良い精霊達は、マナに倣って片手を上げている。

 そんなマナ達をアルフレッドは呆然と見詰め、王子の方は……


「お前、俺様に力を貸せ!」

「「「「「…………」」」」」


 言うに事欠いて『俺様』発言。超上から目線。


 こいつ、なんっっっっにも! 分かってない! 理解してない!!


 この場に居る(王子以外の)人間と精霊達の気持ちが綺麗にハモった。


「この森に住んでいるんだ。俺の国か俺に力を貸すのは当然だ。お前の力を使ってやるからありがたく思え」


 プツン、と、再びマナの堪忍袋の緒が切れる。


「……精霊の森は、どの国にも属さないのに、何故あんたに力を貸してやらなくちゃ(・・・・・・・・・)いけないの」


 マナの口から地を這う様な、低いひくい声が出る。その響きに、精霊達が飛び上がった。


「まままままままままっ、マナ! 落ち着いて!!」

「そうにゃ! 早まっちゃいけないにゃ!」

「うわーーーーーたーすーけーてーーーー!!!」


 両手でマナの肩をぱしぱし叩くクー。肉球でマナの頬をぷにゅぷにゅするルルー。ぶら下げられたまま両手足をばたばたさせるドリー。

 クーとルルーが何をしているかは見えないので分からないが、ドリーの妙な動きに気付いたアルフレッドは緊急事態だと判断し、凄まじく偉そうな王子の頭をド突いた。とても良い音が辺り一帯に鳴り響く。


「いってー!!」

「貴方の頭はカラッポですか! バカですか! アホですか! マヌケですか!! 高位の術士に対する態度を改めろと言ったでしょうが!」

「だ、だから俺は、王子らしく――」

「あるかぁーっ!!」


 ゲンコツが王子の頭に飛ぶ。やはり、王子よりこのアルフレッドの方が(立場が)強いようだ。


「ご、護衛が王子に手を上げるなんて……」

「貴方がアホな事ばかりするからです! 国王より、王子がアホな行動をしたら、どんな手段を使っても良いから止めろと言われております」

「そ、そんな……」


 国王公認の強者だったようだ。

 アルフレッドの強気な言動と態度に納得しながら、マナは上げていた手で額を押さえ、深く息を吐き。

 思わず、天に向かって思いの丈を叫ぶ。


「あー! もーっ! 脳筋俺様王子なんて誰得よっ!! 私には需要なんて無いよっ?!」


 脳筋も俺様もマナ的にはノーサンキュー。乙女ゲームも小説も漫画も、それ系には全く食指が動かなかった。

 つまり、例えイケメンだとしても、この王子とは全くもって関わりたくない。そもそも、マナ好みのイケメンじゃない時点でアウトだ。


「……ノー、キン?」


 マナの叫びにポカンとしながらも反応するアルフレッド。

 その不思議そうな顔を見て、ついついマナの手に力がこもる。


「脳みそが筋肉って事!」

「ノーミソ? キンニク??」


 通じない。この世界には脳みそとか筋肉とかいう概念がないようだ。

 こういう時、何と説明すれば良いのか。


「……あ! うん。頭の中身が使えない、つまりは単純バカの事!」

「なるほど」


 グッと拳を握り締め叫べば、アルフレッドが納得する。それで良いのか、というツッコミは誰からも入らない。

 その一方で。


「うぎゅ?! ま、マナ、ぎぶぎぶぎぶ……」

「うわー!? ドリー!!」

「……ドリーの犠牲は無駄にしないにゃ」


 力のこもったマナの手により落とされそうになるドリーに焦るクー。ルルーは合掌。

 ハッと気付いたマナが慌てて力を緩め、手の平にドリーを乗せるとその姿をまじまじと観察する。


「くふっ……助かった……」

「ドリー、ごめーん。思わず手に力が入っちゃった」

「マナ~。精霊は『でりけーと』なんだから、力加減間違っちゃダメだよ~」

「……デリケート?」


 はて?

 デリケートとは、繊細という意味だった筈……自分の覚え違いだろうか?

 ジッとドリーを見る。ドリーはこてんと首を傾げマナを見上げてくる。可愛い。可愛いが……。


「デリケート? ……ドリーが??」


 幾度となく樹から落っこちて、クーを慌てさせ、マナに治療されているドリーが?

 この精霊の森に住む精霊達の中で、最もマナの治療のお世話になっているドリーが……デリケート?


 マナの呟きに、クーは大爆笑してマナの肩の上で器用にも転げ回っている。かなりにぎやかだが、マナは気にしない。

 ルルーに至っては、ドリーを無言で睥睨するのみ。その目は明らかに『そんな訳ないにゃ』と言っている。

 そして、呟きを落とされたドリーはというと。


「え? え? ぼ、僕だって『でりけーと』だよっ!?」

「……樹から落ちても怪我は擦り傷くらい。大変な状況下で、クー辺りが慌てていてものほほーんとしてるドリーを繊細だ、デリケートだと言うなら、世の中の人間全て、精霊全てがデリケートだよ」

「ひ、ひどいよ、マナ~」


 ガバリっと、マナの手の平の上で蹲り泣き出すドリー。

 だがしかし。

 マナもクーもルルーもそんなドリーを呆れた様に見ているだけ。そんなマナとドリーの様子にアルフレッドの方が焦る、が。

 泣いていると思われたドリーがチラッと顔を上げマナを見る。その瞳は濡れてすらいない。完全に泣き真似だ。

 それに気付いたアルフレッドの頬が引きつる。これが自分と親和性の高い樹の精霊? 他の樹の精霊達との違いに疑問しか浮かばない。だが見える以上、この『ドリー』と呼ばれる精霊は樹の精霊で間違いはないのだろうが……。


「ほらー。そんなんだから、ドリーはマナに『でりけーと』じゃないって言われるんだよ」

「クー! 君は誰の味方なんだー!」

「え? マナ。ドリーもだろ?」

「うっ」


 至極あっさり返された言葉にドリーが口ごもる。

 精霊達にとって、自分を認識でき、大切にしながらも対等に扱ってくれる存在は貴重だ。だからこそマナはクーにとってもドリーにとっても『特別』。


「私もマナが特別にゃよ?」

「ん? うん。ありがとうルルー!」




 自分が認識できない存在と寸劇を繰り広げるマナとアルフレッドの様子に、蚊帳の外に置かれた王子は呆然とする事しか出来ない。

 ここまで自分の存在を蔑ろにされた事はなかった。だがそれは、自分が『大国ダジゲートの第2王子だから』なのだと、漸く理解した。というか、今、理解させられた。

 その『立場』が関係ない者――精霊を前にした精霊術士にとっては、自分は精霊の見えない者でしかない。『精霊』という存在を共有できないのだ。同じ土俵に立つなど、土台無理な話という事なのだろう。


 そう分かっても、のけ者にされているのは気分が悪い。しかも、先程あの精霊術士の少女に言われた事は間違っても褒めてはいないと本能で理解した。だからこそ、余計に面白くない。

 そこで、マナの方をチラチラ見ながら「でもやっぱり……」とか「変わり者なのでは……」とかぶつぶつ呟いているアルフレッドをツンツンと突き、自分に気付かせる。


「どうしました?」

「……」


 自分を放置していた事など大したことではないと言わんばかりのアルフレッドの態度に、流石の王子も眉を寄せ、不快感を示す。

 そんな王子の機微になど全く気付かず、アルフレッドは何も言葉を発しようとしない王子をまるっと放置し、いまだ精霊達と会話をしているマナに声を掛けた。


「あの、すみません」

「ん?」


 マナ達八つの瞳――このうち四つは見えない――がアルフレッドを見る。


「その……ここには、樹の精霊様の他に、何の精霊様がいらっしゃるのでしょうか?」

「うん? 空と闇」

「は?」


 流石にアルフレッドも呆然とする。樹の精霊の他に精霊が見えているのは分かっていたが、精々二種族だけだと思っていたのだ。それなのに……三種族も。


「あの、貴女は、三種の精霊様が見えるのですか?」

「ううん」


 マナは首を振ると、あっさり言った。


「全種族って精霊達は言ってる」

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