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規格外だったようです

半年以上も間が空いてしまい、本当に申し訳ありませんでした。

 面倒だからこの人達放っておいて、このままクーと森に戻ろうかなぁ……。


 そんな事を思いながらマナが箒を拾い上げた途端、それまで呆けていた筈の金髪青年がマナの腕をガシリと掴んできた。

 眉根を寄せマナが青年を睨むが、青年はそれを気にせず、案外真剣な面持ちでマナを見詰めてくる。


「君は……魔法が使えるのか? 精霊が見えるのか?」


 マナが魔法を使い、精霊の事をそして精霊と話しているのを散々見聞きしていた癖に、今更何を言っているのか。

 マナは若干呆れながらも頷くと、掴まれている腕をやんわり外そうとした。――が、しっかり掴まれている為、外れない。

 一体何なんだと不機嫌全開の表情のまま少しだけ目力を込め睨み付けると、青年はハッとした様に腕を掴んでいる力を緩めマナの瞳を真っ直ぐ見据え、息を飲んだ。


「その……」

「何」

「だから……」

「……」

「あの……」

「……」

「えーと……」


「あーもーイラつく! はっきり言えっ!!」

「すまん! その、君は何の精霊魔法を使えるんだっ!?」


 はっきりしない青年に我慢の限界を向かえ怒鳴りつけたら、不思議な事を尋ねられた。

 精霊魔法? 何のって、何?


 意味が解らず首を傾げていると、森から闇色の猫がトコトコと出てきて、箒片手に突っ立っているマナの足に擦り寄る。

 マナは青年の手を(いささ)か乱暴に振り解き、その黒猫を抱き上げ闇色の瞳を覗き込み。


「ねえルルー。この人の言っている意味解る? 解るなら意訳して」

「「マナ……」」


 覗き込まれた黒猫――闇の精霊ルルーとマナの傍に浮かんでいたクーが残念な者を見る様な瞳でマナを眺める。

 その呆れ返ったような瞳と声音にマナは首を傾げ、


「いや、だって……私、この世界の『超』初心者だよ? この世界の常識なんて知る訳ないじゃない」

「うん……そう言えば……」


 何も聞かれなかったから、何も教えてなかったなぁ……と、ルルーとクーは揃って遠くを見遣る。

 魔法関連は色々ぶっ飛んでいたから世界に関しては無知だという事を忘れていた。


「えーと……この世界の魔法には、大きく分けて二種類あるんだ」

「一つが自然魔法。自分の身体に宿る魔力を糧に現象を起こす魔法。マナが普段使っている『いめーじ』に寄る魔法はこれにゃ」

「もう一つが精霊魔法。各種精霊の力を借りて自然界の魔力を糧に現象を起こす魔法。精霊魔法を使うには条件があって、まず、どの属性でもいいから精霊が見える事」

「そして、その『見える精霊の属性』魔法しか使えない事にゃあ」

「自然魔法が自分の魔力を糧にするのに対し、精霊魔法は自然界の魔力を糧にしている。だから、本来なら自然魔法より精霊魔法の方が魔法の威力が上なんだけど……」


 そこまで説明してクーとルルーは深々と溜め息を零す。


「マナの魔力、規格外過ぎ……」

「精霊魔法でも出来ないような事、平気でやっているからにゃあ……」


 森の再生や増殖。空間転移。

 確かに、魔法はイメージ次第。しかし、いまだかつて成功した試しがない魔法がいくつもある。それが普段マナが「やっちゃった」と言って息をするかのように自在に操っている魔法だ。これを規格外と言わずにいられるか。


「うん。私、娯楽に溢れた世界の出身だから仕方ないよ」


 再生だのワープだのは物語の定番と言える。

 そういった娯楽小説、映画、ゲーム等が好きだったマナからすればイメージ出来て当たり前の世界。試してみて何が悪い。イメージ万歳。娯楽最強。


「……おい」


 その時。妙に低い男の声が聞こえ、マナは首を傾げつつ声の方を向く。

 そこには、強引に腕を解かれた金髪青年。マナの態度が気に入らないのか、それとも無視されたのが気に入らないのか、見るからに不機嫌そうだ。


「何」

「……質問、答えてもらっていない」

「そりゃそうだよ。だって、答えを知らなかった(・・・・・・・・・)からね」

「はぁ?」


 低い声音を気にもせずマナはさらっと言うと腕に抱いたルルーをひょいっと持ち上げ。


「今、精霊達に色々教えてもらっている最中なの。だから、暫く黙ってて」

「な――!!」


 怒りの為か顔を真っ赤に染め口をパクパクさせる金髪青年を無視し、マナは再びクーとルルーに向き直る。


「魔法については解った。じゃあ、私は自然魔法と精霊魔法、両方使えるって事?」

「そうだよ」


 浮いているのに飽きたのか、クーがマナの右肩にちょこんと座り頷く。


「じゃあ、私が使える精霊魔法って何?」

「それは……」

「……にゃあ……」


 何故か言葉を詰まらせるクーとルルー。


「え? もしかして、精霊でも分からない?」

「いや、そうじゃなくて……」

「じゃあ、どうしたの?」

「マナはにゃあ……規格外なのにゃあぁぁぁぁあ」

「は??」


 本気で何が言いたいのか分からない。

 疑問符を飛ばしまくりながらマナが眉根を寄せると、左肩に軽い衝撃が。


「マナー!」

「!!」


 目の端にチラッと映り込んだ緑の髪と聞き慣れた声。ドリーがマナの左肩に着地したようだ。

 それと同時に、今まで存在感の薄かった茶髪青年が驚いた様に息を飲んだのが分かった。

 マナが茶髪青年に目を向けると、ドリーがカラカラと笑った。


「マナ。その人、樹の精霊が見える精霊術士だよ。確か、この精霊の森の南にある大きな国、えーと……ダジゲートだったかな? の魔術士で、名前はー……あるばるどアルフレッド?」


 疑問符付きまくりな説明にマナは苦笑するが、それを聞いていた茶髪青年は目を伏せ、その場に跪くと頭を下げた。


「……はい。そちらにいらっしゃる樹の精霊様のおっしゃる通り、私はダジゲートの樹の精霊術士でアルフレッドと申します」


 はい、精霊()扱いきましたーーーー!!!


 ヒクリと頬を引きつらせるマナを後目に、金髪青年が茶髪青年を見る。


「アル。本当に精霊が居るのか?」

「はい王子。その少女の左肩に樹の精霊様がいらっしゃいます。今までの行動を見るに、反対の右肩と腕の中に、私が見えない精霊様がいらっしゃると思われます」

「虚言ではないのか……」


 王子って、虚言って……。


 突っ込みたいトコロありありな青年二人の会話にマナは天を仰ぐ。


「だから言ったじゃないか。普通の人間には僕達精霊が見えないって」

「精霊が見える人間でも、普通は一属性くらいなんだにゃあ」

「え!?」


 ルルーの言葉に驚いて視線を腕の中に戻すと、ルルーがにゃはあと苦笑し。


全種族(・・・)が見え、尚且つ精霊王様(・・・・)と挨拶までしちゃった人間はマナが初めてなのにゃあ」

「へ? 精霊王??」

「マナがソラ爺とこの森に初めて来た時、森の最深部にある湖に行ったでしょ?」

「あ、あの、すっごく幻想的な景色が広がってたとこ!!」


 マナが森に着いた時、ソラ爺に「こっちに来るのじゃ」と連れて行かれた所。

 静かに透明な水を湛えた湖には森の木々と空の青が映り込んでいた。そしてその湖の中央には堂々とした巨木がそびえ、周囲を様々な精霊達が飛び交っていた。

 初めて見た時、空気すらキラキラ光っているように見えた。小説を読んで想像するしかなかったような、映画で見るしかなかったような幻想的な風景がそこには広がっていた。

 息を飲んで見惚れるしかなかったマナの目の前で中央の巨木が光り輝き、そこからゆっくりと成人したくらいの大きさの人影が出てきた。男とも女とも判断の付かない、この世の者とは思えないくらい綺麗なその人はマナに微笑み掛け、言った。


『ようこそ精霊の森へ。異世界からの迷い人よ、貴女を歓迎します』

「え? あ、ありがとうございます?」


 にこにこ笑いながら手を差し出してくるものだから、ついその手を握り返してぶんぶん振ると、その人(?)は楽しそうな笑い声を上げた。


『良いですね! 精霊の友は、このくらいでなくては!』

「は、はあ……?」


 何が良いのか分からないがお気に召したようだ。

 マナがどうしようかと困った様に口を開こうとした瞬間、その人は握っていたマナの手を持ち上げ。


「――!!」


 自然な仕草で手の甲に口付け、悪戯っぽい瞳でマナを見た。


『貴女に祝福を。どうかこの()を役立てて下さい」

「あ、う、ぅぅぅぅうう」


 言葉ではなく唸り声で返事(?)をするマナにくすりと笑うと、その人は現れたと同じくらい唐突に光り輝き、巨木の中へと帰って(??)いった。


「……あれ?」


 そんな事を思い返していたマナは、先程のルルーの言葉とクーの思考の誘導により、はた、と気付く。


「もしかして……あの時会った綺麗な人が……」

「そう。精霊王様にゃあ」

「うえええええぇぇぇぇぇええ!!?」


 絶叫するマナに、青年二人は目を見開き、精霊達はやれやれといった感じで溜め息一つ。


「マナさぁ。精霊王様に『この力』って言われたでしょ?」

「うえ? あ、うん。そう言えば……」


 クーに尋ねられ、驚きは消えないものの思い返しながら頷く。


「あの言葉の意味は」

「マナってば、精霊魔法だけじゃなくて、王魔法も使えるって意味だよー」

「は?」

「な――っ!?」


 ドリーの言葉にマナは首を傾げ、茶髪青年――アルフレッドが真っ青になり、腰を抜かしたのかその場にへたり込んだ。


「おう、ま、ほう……」

「何っ王魔法だと!?」


 アルフレッドの呟きに金髪青年――王子が過剰に反応する。

 そんな人間二人の態度にマナは益々首を傾げ。


「何、それ」


 精霊達に問い掛ける。


「簡単に言うと、『究極の魔法』という奴だよ!」

「全ての精霊魔法を極めた者のみが使える伝説の魔法の事にゃあ」

「極めてないのに使える。だからマナは『規格外』なんだよ」


 ドリーがトコトン楽しそうに言った事をルルーが捕捉し、クーが呆れた様にまとめると。


「へえ~」


 それ以外にどう答えていいか判らず。

 マナは軽い調子で相槌を打つと、困った様に笑ったのだった。

誤字脱字の確認してないので、あったらどうしようかと冷や冷やしてます。

多分、大丈夫、な、筈……。

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