精霊の森を迷いの森にしました
拍手、ブクマ等ありがとうございます。
今回はちょっと短いです。
「マナ!」
「「マナ~!」」
塔の窓から顔を出した黒猫型闇の精霊ルルーと、空から遣って来たクー、木々を飛び跳ねて遣って来た緑の髪と茶色の瞳を持つ樹の精霊ドリーに名前を呼ばれ、マナはポカンと三人(?)の顔を見比べた。
今まで聞いた事も無いような、ちょっと切羽詰った声。珍しい。
「不法侵入にゃ!」
「ルルー……いくら猫型だからといって、語尾に『にゃ』は止めようよ」
「そんな場合じゃないよ! マナ!」
「樹の精霊ねっとわーくに人が引っ掛かった! 森に人間が入ってきた!!」
ルルーの言い方に思わず突っ込んだマナに突っ込むクーとスルーするドリー。
妙に呑気な会話も、意味を理解したマナが目を見開いた事で終了する……筈がない。
「え? 木を伐りに来たんじゃないの?」
「木を伐りに来たんだったら、奥まで入ってくる必要ないにゃあ!」
「ちょっと欲張って大きな木を探して奥に入ったら迷ったとか」
「違うよ。見てきたけど、木を伐りに来る人間とは服装が違ったから」
「あ、そうなんだ」
態々見に行ったのかクー。それはご苦労様。
マナが思わず労る様にクーの頭を指でぽんぽんと軽く叩くと、ちょっとだけ眉を顰めたクーが「えいっやあっ」と言わんばかりにマナの指を掴み放り投げた。
精霊。ちっこいのに力持ち。
「取り敢えず、この森の奥地……マナの塔辺りからは精霊の聖域だから、人間に入って来られるのは困る」
「聖域?」
クーから発せられた言葉にマナは首を傾げる。
「そうにゃ。我等精霊の力の源が集中する場所。それが聖域にゃ」
「力の源?」
「うんと……僕達樹の精霊なら、長老の樹がそうだよ」
「あ、そうなんだ」
ルルーとドリーの説明に対してあくまでものほほ~んと返すマナにクーがキレた。
「もう! マナは事の重大性が分かってない!!」
それは当然だろうとマナは思う。
今まで聖域だの力の源だの説明された事も無いのだから。
「いい、マナ。力の源って僕達精霊の力を維持する大事な役目があるの。もしそれが傷付けられたら、僕達、存在する事が出来なくなるんだよ!」
「人間の毒気に当てられて聖域が穢れても、私達は力を失う事になるにゃー」
クーとルルーから齎された初耳な重要情報に流石のマナも絶句する。
じゃあ、今奥に進んできている人間がここまで来ちゃったら、その毒気とやらに当てられて大変な事になるじゃないか。
「と、取り敢えず、道に迷う魔法を森全体に掛けとく!」
あわあわしながらも指をパチンと鳴らし魔法終了。
「後は様子を見て、ここに近付きそうになったら森の入り口に戻るよう魔法を掛けるね」
「うん! 情報しゅーしゅーは任せて!」
ドリーが嬉しそうに頷いた後、近くの木にペタリと張り付く。先ほど言っていた樹の精霊のネットワークに繋げるようだ。
侵入者の情報収集はドリーに任せるとして、後はどうしようと考え、マナは「あれ?」と首を傾げた。
「ねえ、クー、ルルー……」
「何にゃ」
「どうしたの、マナ」
「うん……」
聞いたばかりの聖域情報を脳裏に呼び起こし、マナはそれぞれの頭を軽く撫でる。
「さっき『人間の毒気』とか言ってたけど……私も人間だけど大丈夫なの?」
「マナは平気だよー」
真面目に聞いたのに軽く返された。
眉を顰めるマナの足をルルーがてしてしと叩く。
「マナはこの世界に来て直ぐにソラ爺に会ってこの森に来たから大丈夫なんだにゃあ」
「あのね、マナはこの世界の人間と一緒にして過ごしてないから、人間達の住む場所に漂っている悪意とか嫉妬みたいな毒を取り込んでないから平気なの」
「だから、人間というより、私達精霊に近いのにゃ」
「つまりは、この世界に来てから人としての負の感情に触れていないから大丈夫って事?」
「そんな感じにゃあ」
「うん、そう」
頷く一人と一匹。
そんなアバウトな事で大丈夫と言ってしまって良いのだろうか?
……まあ、精霊本人が大丈夫って言ってるんだから大丈夫って事で良いでしょ。
マナは深く考える事を止め、ふうっと一つ溜め息を零した。
* * * * *
「頑張るね、あの人達……」
「毎日森に入って来るなんて、何考えてるにゃ」
「いい加減、監視も疲れたよー」
人間が森に遣って来た言われてから三日。
侵入者達は何度森の入り口に戻されても、夜は森の外で野宿し、昼は奥に入ってこようとしていた。
「ねえ、ドリー?」
「ん~?」
「侵入者って……何人?」
そういえば人数を聞いていなかったなぁと思い尋ねると、「二人だよー」と軽く返される。
「二人……男? 女?」
「二人とも男だよ。それがどうかした?」
「うん……」
この三日、侵入者達は森を傷付ける事無く、ただ只管に森の奥を目指しているようだった。
何が目的なのか知らないが、樹を切って精霊を傷付ける者達と比べるとマナの心象は良い。まあ、比較する方が間違っているのかもしれないが。
それはさておき。
このまま放っておいても道に迷って入口に戻るだけではあるが、生来はお気楽な精霊達を監視という非日常でこれ以上疲れさせるのは申し訳ない。
となると、あの人間達がこれ以上森に入らない様、何とかするしかないだろう。
マナはうんと頷くと、窓際に立て掛けておいた箒を手に取り。
「取り敢えず、二人くらいなら魔法でどうとでもなるだろうから、話し付けて来るね」
「へ?」
「にゃ?」
「う?」
クー、ルルー、ドリーの頭上に大きなハテナマークが浮かぶのも気にせず、マナは箒に乗って空へ浮き上がる。
「ちょ、マナ!?」
「にゃんと」
「いってらっしゃーい?」
慌てるクー、目を丸くするルルー、呑気なドリーをその場に残し、マナは一路、侵入者の元へ向かった。