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定番だけど反則だと思います

 マナは我が目を疑った。

 しかし、驚いたのが自分だけではなかった事から、やっぱり現実なのだとも理解した。いや、せざるを得なかった。


「マナ? みんなもどうしたの?」


 いや、どうしたの? と聞かれても……。


「マナ?」


 いつも通り、不思議そうに覗き込んでくるクー。


「あわわわわ」


 途端に、マナは挙動不審となり、視線があちこちをさ迷う。


「マナ?」

「あわわわわ」


 同じ事の繰り返し。ある意味、面白くはあるが話が進まない。

 ルルーは呆れたように溜め息を落とす。


「クー。まずは自分の姿を確認するにゃ」

「自分の姿と言われても……」


 クーはルルーを見て「あれ?」と首を傾げ、ぐるっと周りを見渡す。


「あれ? 僕、飛んでないよね?」


 飛んでいないのに、マナやルルー、ドリー、ソラ爺を見下ろしている。


「あれ?」


 自分の手を見て、クーは忙しく瞬きし。


「僕……大きくなってる?」


 みんなを見渡しながら問い掛けると、全員が一斉に頷いた。そう。クーは、空色の瞳、青い髪、空色のチュニック、ズボン、三角帽子はそのままに、人間の、青年くらいの大きさになっていたのだ。

 見た目も、小さい時は幼い少年という感じだったが、今は立派な青年。しかも、定番も定番。相当、美形な部類である。マジで外見はクール系イケメンである。マナが挙動不審になるくらいには、マナの好みにドストライクである。


「わー……僕ってば、空の精霊王にでもなった?」

「……その可能性はあります」


 クーの疑問に、サーシュが渋々といった感じで頷く。

 すると。クーは満面の笑みを浮かべ、マナの右手を取った。


「やった! じゃあマナ! 僕の生涯のパートナーになって!」

「へ?」

「「クー!?」」

「空の!?」

「「!?!?」」


 ポカンとするマナ。驚くその他。だがクーはとてもイイ笑顔のまま。


「だって僕、空の精霊王になったんだもん! マナに求婚する権利を手に入れたんだもん。これはもう、ちゃんと言わなきゃ損だよね!!」

「意味解らないんだけどっ!!?」


 高校生に求婚とか何を考えているんだとマナは思うが、よくよく考えてみるとこの世界に『高校生』という概念はない。

 つまり、マナはマナ。十六歳の女の子? 女性? である。求婚して何が悪い――と言う事になる、のかな?


「精霊王は体の大きさを自由に変えられるんだ。だから、生涯のパートナーを異種族にするのも可能なんだよ」


 ただし、これまでの精霊の歴史の中で、サーシュ以外の精霊王が誕生した事はない。

 各種族の長にまで上り詰める事が出来た精霊は何かしらの条件を満たせばその種族の『精霊王』になれるとは言われていたが、その『何かしらの条件』は一切不明。精霊術の奥義・同化術と似た様なモノ――と考えられていたのだが。

 マナの存在によりそんな事は吹き飛んだ。同化術を成功させ、どうしてかは知らないが長を精霊王に進化させた。本当に、(精霊にとっては嬉し過ぎる方向で)規格外過ぎる。


「最初は、マナの存在に戸惑って、監視する意味で傍に居たけど……」


 え? そうだったの?


「一緒に生活するうちに、マナと一緒に居ると楽しくて、幸せで……。最近は、僕だけを見て欲しいな~って、ずっと思っていたんだ!」


 え゛?


「という訳で、マナが大好きだよ! だから、生涯のパートナーになって!」


 にっこり笑顔でドストレートに告白ですか……流石は精霊?

 変な事に感心しつつ、マナは自分の頬が熱を持っていくのを感じる。待って待って待って。ちょーっと待ってよ?


「空の! 抜け駆けは卑怯ですよ!?」

「え? 別に卑怯じゃないよ。精霊王様も、言いたければ言えば良かったんだ。変な所でヘタレだから言えなかったんだろうけど」


 クーの言葉に妙なトゲがあるのですが?


「マナ! 私も! 私の生涯のパートナーになって下さい!」

「あああああああーーーーーーーーっ!!!」


 焦ったサーシュがクーの握っていない方のマナの手を取り、マナが絶叫する。


「ちょ!? サーシュ、離してっ!! ソラ爺! ソラ爺が潰れるっ!!!」

「あ!? す、すみませんっ!!」


 サーシュが手を離すのに合わせ、マナは慌ててソラ爺を見る。大丈夫。潰れては――って、平和そうに寝ている?


「……クー?」

「ははは……流石はソラ爺……」


 ソラ爺を見る為、サーシュと同じくマナから手を離したクーは、マナの手の上に居るソラ爺を見遣り苦笑するしかない。魔力が回復したからか、この賑やかな中でソラ爺は熟睡していた。図太い。

 マナはそっとソラ爺の頬を突っつく。あ、ぷにぷにしてる。ちょっと気持ちいいかも?


「――ん?」


 あれ?

 マナはちょっとした違和感を覚え、再び、ソラ爺の頬をぷにぷにする。


 ぷにぷにぷにぷにg。


 あ、やっぱり……。


「……ソラ爺……」


 マナは呆れた様に呟くと、ソラ爺を乗せていない方の手をソラ爺の上へ浮かせ。


「拍手しまーす。5秒前! 4! 3!」

「マナ?」

「2! いー「待つのじゃ」――漸く狸寝入り止めたね」


 マナの奇行に首を傾げるクーを置き去りにしてマナはカウントダウンを続けるが、それに待ったをかけ、やれやれと言いつつ、どっこいしょとソラ爺が起き上がる。

 マナの口からは溜め息が零れ、起き上がったソラ爺に降り注がれる。


「何じゃ。気付いておったのなら、優しく起こしてくれれば良いものを」

「今気づいたの。――優しく揺り動かして、ソラ爺が素直に起きるの?」

「起きる訳ないの」

「……やっぱり拍手」

「ほっほっほ」


 飄々と笑いながら、ソラ爺は周囲をぐるっと見渡す。


「でかいクーに、いつものルルーとドリーがマナの周りに居るのは当然じゃが……。おおおおお、無の精霊王様が居るのぉ。どんな気紛れが起きたのじゃ? ――ん? その人間の男2人は何じゃ? ……ついでに、あの魔力でグルグル巻きにされているのは……どうでもいいのぉ」


 ちょっとちょっとちょっと!?

 のほほーんとしながらも、さらっと新事実を言っているんですが!?

 そして、ついでの様に、宙に浮かぶ男に対し鋭い視線を投げ掛けたソラ爺。それに気付いたマナは口を尖らせた。


「どうでも良くないよ。アレの所為で、ソラ爺が大変な事になってたんだよ?」

「うむ。聞いておったから知っておる」

「え? あれ?? こいつの事を話していた時って、ソラ爺、気絶してたよね!? んんん? 一体どこから聞いてたのっ!? 」

「ほっほっほ」


 ほっほっほじゃない!

 ……ソラ爺、侮り難し。


「それに、無の精霊王って何?」

「む? そこにほれ、突っ立っている精霊王様の事じゃ」


 ソラ爺が指差す方向にいるのは、紛れもなくサーシュ。

 だがしかし。


「……無の精霊って、何? そういう存在、居たの?」

「無の精霊は始まりと終わりを司っておる。その為、精霊王様しか存在せんのじゃ」


 意味不明。


「……つまりは、どういう事?」

「うむ? う~~~~~む……」

「いやソラ爺……そこで悩まないでよ……」


 腕を組み、本気で考え込むソラ爺にマナは脱力する。

 これは仕方ない。自分流に解釈の努力をしてみますか。


 えーと……ああそう言えば。

 元の世界の神話なんかでは、神の国造りとか言って、何もない場所に様々なモノを生み出したとか言われているんだっけ? だから『無』が始まりって事?

 そして『無』とは、何もないという事。つまりこれが、終わりでもあるって事かな?

 で、っと。こんな曖昧なモノを司るのがたくさんいた所で言葉通り意味ない可能性が高いから、サーシュのみにして、替わりがいないんだから精霊王にしておけって感じかな?


 ……何と言う適当な世界なんだ……。

 いや、迷い人を連れてきたのに何の説明もせずに放置する様な世界なんだから、これが普通なのかも?


 マナは深々と、本日何度目かの溜め息を零し、ソラ爺を自分の肩に乗せる。


「も、いいや。面倒な事を考えるのは止めよう。今は……あれ? 何で私、ここに来たんだっけ?」


 本気で首を傾げるマナを見てアルフレッドが叫ぶ。


「マナさん!? 精霊様が消える原因を調べに来たのではなかったのですか!?」

「あ、そうだった、そうだった」


 ぽん、と、マナと精霊達が一斉に頷きながら手を打った。息ピッタリである。


「取り敢えず、元凶っぽいのを偶然にも拘束したから、どこかで徹底的に尋問しようか」

「……そうですね……」


 アルフレッドはがっくり項垂れつつ頷き、隣に立つイクシオンを見る。


「そうだな。城に連れて行き、騎士に遣らせよう」

「分かった」


 マナは頷き、ふと、魔力でグルグル巻きにしている男を見上げ悩む。

 こいつ、ソラ爺を危険な目に合わせたんだよね……。


 ……よし! 決めた!


 マナはにっこり笑うと、男に向けて片手をかざす。


「精霊を危険な目に合わせた罰と~、逃げられない様にする為に、この男の魔力をはく奪するね!」

「は?」

「へ?」

『えっ!?』


 ポカンとするアルフレッドとイクシオン。本気で驚く精霊達。

 そんな大合唱を気にせず、マナはサッサと行動する。『それ』が、今もなお精霊達を苦しめている行為だとは知っている。だけど、今回の『これ』は正しい。


「私は、精霊を傷付ける者は、絶対に、許さない」


 そう。精霊を傷付ける者は許さない。

 だからこそ、二度と傷付けるなんて出来ない様、元を断つ。


 全く笑っていない瞳が男を射抜き、その怒りを感じた精霊達は黙って全てを受け入れた。

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