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ポチリと拍手等々、ありがとうございます。

今回は少し長めです。

 何故か『脳筋』談義で花を咲かせる(?)精霊達を眺めながら、マナは全く関係ない事を考えていた。

 ドリーを表現する言葉、何か他に適切なモノなかったっけ?


「……ゆるキャラ?」

「「「は?」」」


 マナの呟きに、クー、ルルー、ドリーが目をまん丸に見開く。また、初めて聞く言葉が出てきた。


「いやいやいや。ゆるキャラはないか……ドリーは確かにゆるいけど、マスコットキャラと言うには無理がある……」


 精霊達の反応に気付かず、マナは一人呟く。


「え、何? マナってば、何言ってるの? 僕ってゆるい? え?」

「また、どこかに思考を飛ばしてるにゃー」

「こういうのを『とりっぷ』って言うんだっけ?」

「確かそうにゃ」

「マナ語録、増えたなぁ~」

「新しい知識は面白いけどにゃあ……」

「使い方、わかんなくなるよね」

「にゃあ」


 自分の名前が出て焦るドリーに、妙に呑気なクーとルルー。マナが来てからというもの、色々な言葉がマナの口から飛び出し、使い方を教えては貰うが使いこなせていない。

 マナの世界の言葉は難しいなぁと、精霊達はのほほーんと考え込むマナを眺める。


 そんな精霊とマナを、イクシオンとアルフレッドは呆然と見ていた。

 イクシオンは、自分が見れない精霊はいつもこんな感じで暮らしているのかとカルチャーショックを受け、アルフレッドは、自分の知る精霊との違いと、伝説で伝え聞く迷い人とマナの齟齬に混乱していた。


 迷い人――圧倒的な力を持ち、世界の混乱をたった一人で解決した孤高の存在。その殆どは、人嫌いだったと言われている。

 だが、マナを見ていると人嫌いとは違う気がする。確かに、精霊とかなり親密な為、その心根は精霊に近く、態度と言葉を間違えれば敵に回してしまうだろう。しかし……『それだけ』の様な気がする。

 なんだかんだ言いながら、マナはアルフレッド達ときちんと言葉を交わしてくれた。全面的に精霊の味方のようで、このまま言葉選びを間違わなければ、精霊の行方不明事件の調査に乗り出してくれるかもしれない。

 その為には、人間の住む場所に行かなければいけないのだが……マナからはそれに対する忌避感を感じない。まあ、まだそこまで考えが至っていないだけの可能性もあるが。それでも、『人』に対する拒絶はこれまで示していないので、この考えは正しいと思える。


 アルフレッドがそんな推察をしている中、考え込んでいたマナはハッと顔を上げ、手の平に乗っていたドリーと剣の精霊を地面に置いて、肩に乗っていたクーを鷲掴んだ。


「ぐえっ」


 そんな掴まれ方をされた事ないクーが呻くが、マナは気にせず慌てて口を開いた。


「クー! 私がソラ爺に初めて会った時、『迷い人』について『偶然出来た世界の境目に落ちてこの世界へ来た者』って説明されたんだけど!?」

「ああ、その事かぁ~」


 マナの手を押したり蹴ったりして十分なスペースを確保したクーは、ホッとした様にマナの手にぶら下がり、うんうんと頷く。


「この世界に来たばかりの時点で本当の事を言っちゃうと、自分は英雄だとか偉いだとか勘違いしちゃって世界に迷惑掛ける者が居るから、僕達『精霊は』、その人物を見極めてから本当の事を教える事にしてるんだ」

「……『精霊は』?」

「うん。『精霊は』!」

「……なるほど」


 クーの言葉で色々察する。というより、何となくだが察してしまった。

 どこかの物語でもあるではないか。異世界転移して、王族とかに説明されつつちやほやされ、自分は特別なんだーとか鼻高々になって他に迷惑かけ、事が済めば手の平返されちゃう系の残念な人。

 精霊達はそういう系を警戒し、それ以外は考えていない、と。

 人間って残念な生き物というか、学習しているのか疑問というか、きちんとそういう危惧を伝えていないというか……取り敢えずは、精霊と人間の違いがこんな所にはっきり表れたとしか言えない。


「マナは、勘違いしちゃう人じゃないし、英雄願望ないし――」

「あったり前でしょ! 英雄何て面倒そうなもの、なりたくないわっ!!」


 クーから手を放し、握り拳まで作って断言するマナに、クーとルルーが笑う。


「だからマナって好きだよー」

「にゃあ~」

「う? あ、ありがと?」


 マナの腕に抱き付くクーと首に擦り寄る黒猫ルルー。マナが思わず照れながらお礼を言うと、地面に置かれたドリーがマナを見上げ無邪気に笑った。


「マナってば真っ赤~」


 ベシャ。

 躊躇なくマナはパーにした手の平でドリーをつぶす。

 照れ隠しなのはバレバレだが、クーとルルーは賢明にも突っ込まない。マナに教えてもらっていた言葉がある。『口は禍の元』。正に今のドリーの事だと実感する。


「……やっぱりドリーって、残念だよね」

「これがドリーの『きゃら』というやつにゃ~」

「残念……樹の精霊の長が残念……」


 精霊達の呟きに反応したのはアルフレッド。樹の精霊と親和性の高い彼は、長という最高位に居る精霊の性格を目の当たりにして多大なるショックを受けていた。無邪気ではあるけれど、思慮深さをみせる樹の精霊の長が残念系。……本気で泣ける。

 心の中で滂沱の涙を流すアルフレッドをよそに、マナは地面とキスしているドリーをペシペシと軽く撫で叩きながら、人間の住む場所から来たであろう精霊達を見る。


「貴方達のお仲間さんは? 行方不明になってるの?」


 その言葉に、剣の精霊をはじめ、布、火、水等々。イクシオンやアルフレッドの持ち物に宿っていた精霊達が表情を引き締めてマナの前に躍り出た。


「我みたいな剣の精霊や布の精霊といった『人工物に宿る精霊』は無事なのだが……」

「火や水等、『自然に宿る精霊』は姿を消している者が多いです」

「そうなんだ……どのくらい行方不明になっているか把握している?」

「いえ、申し訳ないのですが……」

「私達も、余り力が強くないので……」


 他を把握する事は出来ないという事か。マナはそう判断すると、うーんと唸る。

 この精霊達をこのまま人の住む場所に戻して大丈夫だろうか? 保険の意味も兼ねて、何かしら守りの魔法を掛けておくべき?

 うんうん唸るマナの肩を誰かがポンポンと叩く。


「何っ!?」


 この場に居て、マナの肩を大きな手(・・・・)で叩く事が出来るのはイクシオンとアルフレッドの2人のみ。

 考え事の邪魔するんじゃないと思いながら振り返ったマナの目に映ったのは意外な――人?


「え……? あ、あれ??」


 ポカンと見上げた先。その美しい人(?)は綺麗に微笑んでいる。


『精霊王様っ!』


 その場に居た精霊達が一斉に頭を下げ、異口同音に叫ぶ。

 それにより、マナは正気に返り、思い掛けない大物の登場に、イクシオンとアルフレッドは絶句し固まった。


「何で?」


 マナが疑問を口にすると、精霊王は微笑んだまま軽く言った。


『いえいえ。私も貴女に、名前を付けて頂こうと思いまして』

「……は?」


 え? このタイミングで現れてソレですか!?

 あれ? 精霊王って天然なの? それともKYなの?


 混乱する頭で失礼な事を考えるマナに気付いているのかいないのか。

 精霊王は友好的な微笑みを浮かべたままマナの正面に回り込み、その両手をギュッと握った。


『勿論、きちんと理由はありますよ? 種族精霊の長達が羨ましかった訳ではないです。ええ、羨ましくなんてありませんよ』


 本音はそれかーい!

 白銀の髪に金の瞳を持つ美貌を眺め、マナの頬が引きつる。

 精霊王はマナのそんな表情を見て、ぶっちゃけ過ぎた自分の発言に漸く気付き、誤魔化すようにコホンとひとつ咳払い。

 そんな王を……精霊達は生温かく見守っていた。


『そ、それよりも。貴女は、精霊への名付けが、精霊術士と精霊の間を絆で結ぶ、ある種の契約である事はご存知ですか?』

「は?」

『へ?』

「にゃ?」


 マナと精霊達の疑問の声が重なる。

 そんな精霊達を見て、ああ、これは初耳なんだなと気付いたマナは、爆弾発言をしたのであろう精霊王を見ながら握られている手をぶんぶん振りつつ首を傾げる。


「どういう事? 精霊達も知らないようだけど?」

『まあ、そうでしょうね。この世界の歴史において、精霊に名前を付ける事が出来た精霊術士は存在しませんから』


 存在しないのに、何で契約だーとか知っている??

 マナと一緒になって首を傾げる精霊達を見回し、精霊王は微笑まし気に目を細める。


『何故、存在しなかったのに私が契約(そう)であると知っているかといいますと、それが世界の(ことわり)だからとしか言えませんね』


 話がややこしく――というより、面倒な方向にいっている気がする。

 マナはふーっと深く息を吐くと。


「良く分かんないけど、分かった。取り敢えず、小難しい『理』とかそんな話はいいから、絆? を結ぶとどうなるの? どうして精霊王は名前が欲しいの?」

「「マナ……」」


 バッサリと話を切り上げ、自分の質問を優先するマナに、クーとルルーが何とも言えない瞳でマナを見遣り。精霊王は少しだけ苦笑すると、再びにこやかに微笑んだ。


『私が精霊王なのはご存知ですね?』

「……さっき、クー達に聞いた」

『……先程、ですか……』

「そう」

『……私、そんなに存在感ありませんか? 精霊王に見えませんか?』

「……精霊なのは分かってた」

『……』


 精霊王はがっくりと項垂れる。

 が。気を取り直した様に顔を上げると、マナの手を握る手に力を込め真っ直ぐ見詰めた。


『精霊と精霊術士の絆とは、力の交換量の増加に繋がります。心が通じ合うからこそ、それまで使えなかった強力な精霊術を行使出来るようになります』

「うん。何となく、分かる」


 マナはあまり精霊魔法を使わないが、精霊達に名前を付ける前と後では、明らかに魔法の行使の楽さが違った。

 何と言えばいいのか……名前を付ける前は、水の膜を超えて魔法が具現化されていた感じなのが、名前を付けた後は、その膜がなくなり、簡単に魔法が具現化されている感じ。

 落とした物を拾う時、水の中か地面の上かで抵抗が違う感じというか。抵抗がなくなれば、その分行動は楽になる。まあ、そんな感じである。

 マナの返事に精霊王は頷き。


『貴女――マナ(・・)は、自然界に居る精霊、人工物に宿る精霊に関係なく、全ての精霊が見え、出会った全ての精霊に名前を付けました。それにより、マナ自身が”全ての精霊達の主”にまでなってしまいました』

「は? いやいやいや! 私、精霊の主になんてなってないよ!?」

『残念な事に、この世界からすると、貴女の意思は関係ないようで……』

「……迷い人の事といい、世界がおーぼーだー」


 項垂れるマナをクーやルルーが一生懸命慰める。

 曰く、「マナと繋がりがあって、僕は嬉しいよ!」とか、「マナだから、精霊は文句なんてないにゃ!」らしい。


『確かに、この世界は横暴ですね』


 精霊王が認めちゃったよ!?


『ですが、その横暴のお蔭――というのは語弊がありますが、マナが精霊達の主になったからこそ、私は貴女と繋がりを持つ資格が出来ました』

「は?」


 顔を上げたマナは、ポカンと精霊王を見る。

 そんなマナに精霊王は今までの比ではないくらい嬉しそうな微笑みを浮かべ。


『貴女に名前を付けてもらえれば、私は貴女との間に絆を持つ事が出来、尚且つ個として貴女の傍に居る事が出来る』

『え゛!?』


 傍に居る事が――と精霊王が言った途端。全ての精霊が精霊王を見遣り、驚きとも非難ともつかない声を上げる。


「ちょっとまって精霊王様! これからマナは、もしかしたら人間の住む場所に行くんだよ? それなのに、精霊王様が一緒に居るの!?』

『いけませんか?』

「精霊王だよ!? 精霊の頂点だよ!? 人間の世界に行くのヤバくない!?」

『普通の人間が私をどうかするなんて不可能ですよ?』

「そうだけど! そうじゃにゃくて! マナの傍には私達が居るにゃ!!」

『私一人くらい増えても、何も問題ないでしょう?』

「「「マ、マナの傍は譲れないっ!」」にゃっ!!」


 クー、ドリー、ルルー。ほぼ常にマナと一緒に居る精霊の長達が必死の声を上げ、マナにしがみ付く。

 例え精霊王でも――自分達の上司でも、マナの傍に居る権利は渡さない。

 精霊王はそんな三人を涼し気に見遣り。


『決めるのはマナですよ?』


 そう言って、マナを見詰め。


『私と絆を結べば、行方不明になった精霊達の捜索が楽になりますよ?』

「「「!!」」」

「どういう事?」

『私は精霊達の頂点――つまり、自然界の力、全てを司ります。精霊の力が関わらない違和感(・・・)を見付けるのは得意です』

「つまり、精霊達が行方不明になるのは……人為的な力(・・・・・)の可能性がある、と?」

『……後にも先にも、それ以外の理由で精霊が突然消えた事はありません』


 何となくそんな気はしていたが、精霊のトップにこう断言されては何も言えない。

 マナは深々と溜め息を零し。


「精霊王は、男なの? 女なの?」

『一応、人の性別としては男になります』

「そう……」


 マナは金の瞳をジッと見詰め、暫く色々吟味した後。


「……サーシュ」

『はい?』

「精霊王の名前! サーシュでどう?」


 精霊王が自分の名前だと認識した途端。その体が白い光に包まれ、明滅を繰り返す。


「え? なに? なんなの?」


 手を握られている為、逃げる事も出来ず、マナは狼狽えながら精霊王が明滅するのを見守る。

 マナにしがみ付いていたクー、ルルー、ドリーの三人は、涙目のまま諦めた様に光を見詰め、無言のままマナにしがみ付く力を強め擦り寄った。


「どうしたの?」

「絶対、傍に居る」

「マナが良い」

「ついて行くにゃ」

「え? うん? ありがとう??」


 何が言いたいのか分からないまま礼を告げるマナの前では、白い光の明滅が次第に収まり、精霊王――サーシュの姿がはっきりとその場に現れ出す。


「――あれ?」


 異変には、一番近くに居たマナがいち早く気付いた。

 それまで希薄だった存在感が――増した?


「――マナ」


 呼び掛ける声も、声音は変わりないのに何かが先程までと違う。


「私の唯一。私の世界。どうか、傍に居て下さいね?」


 白銀の髪に金の瞳。その人外染みた美貌はそのままに、サーシュは何故か実体化(・・・)していた。


「……は?」


 ポカンとするマナの前でサーシュは妖艶に微笑み。


「ふふふ。これで、一緒に何処へでも行けますね」


 これはもしかして……やらかしちゃいました?

<蛇足>


精霊王――サーシュが実体化したのを見た精霊達は。


「あああぁぁぁぁぁ……」


 クーが項垂れ。


「むうっ」


 ドリーが膨れ。


「……面倒な事になったにゃ」


 ルルーがもふふわな手で己の額をペシッと叩く。


 ……精霊達は気が付いていたのだ。精霊王がマナをかなり『気に入っている』事に。

 ソラ爺の案内とはいえ、初対面の迷い人の前に姿を現すなど、今までなかった。

 その有り得ない事が起こった時、精霊達はマナよりも精霊王を警戒した。

 絶対、絶対!

 ぜーーーったいに! 何かをやらかすだろうと。


 まさか実体化して、マナを『一人占め』しようとするとは思ってもみなかったが。


「い、一番仲良しの座は譲らない!」


 クーが涙目のまま宣言し。


「マナの癒しは僕のものっ!」


 どこかズレた思考のドリーが、意味の分からない独占欲を示し。


「やれやれ、にゃあ……」


 唯一の女の子ポジなルルーが男共の嫉妬丸出しな行動を見て溜め息を吐いた。




何となく、書きたくなった蛇足文。

精霊達、マナが大好きなようです。

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