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2.

1人だけ、私に手を差し伸べてくれた男の人だけがずっと私から目を逸らさない。妹たちと再会できた感激を噛みしめながらも、何でこうも見られてるのかと彼を横目で観察して……で、すぐに理解する。

簡易な胸当てに、腰に刷いた剣。太い腕は衣服に隠れててもわかる筋肉を示す。護衛さんなんでしょう。

だったら、ええ、確かにこの状況で私から目を離すわけにはいかないはず。


前でゆるく結んで仮止めしておいたバスローブをいったん脱ぐ。手に持ったシャツは土の上。吸湿がメインのキャミソールがそれに続いた。恥ずかしいとか戸惑いは、今は感じちゃ駄目だって全本能に言いつけて、タイトスカートとストッキングを脱ぐ。ガン見してる彼と目を合わせたまま、まるで目を逸らしたら負けだって宣言してるみたいにあっさり下着だけになった。

手が震えるのは仕方ない。膝も。

けど、妹たちの関係者の前でおねぇちゃんがみっともない真似、できますかってのよ。


ローブはありがたいことに膝を超す丈だった。多分ね、このローブの持ち主は男の人なんだろうな。だって肩がすごく余る。見頃も。だから袖丈も着丈もこんなに長い。


「もういいわ。ありがとう」


ざっと髪をかきあげながら振り返る。妹たちは座ったままだった。こんな短いあいだに顔が真っ赤になってる。それぞれ男の人に抱きかかえられて。ああ、嫌がるそぶりもなく、ごく自然にその距離なのね? …………そう。


そう。


メイドさんから渡されたタオルで口を覆って深呼吸。ねぇ、まだよ。まだなの、私。

一方的な推測で安心したあげくに号泣なんて油断しちゃダメ。幸せだって言質までをとるの。今すぐ。

安堵に揺らぐ暇を、私は、私に許した覚えはない。


「答えなさい。正式な立場なの?」

「「はい」」

「……そう。…………子供は」

「「いません」」

「……そう?」

「「っ、うぅぅ」」


ばつの悪そうにお腹をこすって見せる二人を見れば答えなんて聞くまでもない。

つまりこの子たちはこちらに来て、『そういう意味で』保護されたってこと。どういう経過までは聞かないとわからないけど、きちんと相愛で、正式に婚姻も結んでる。

ずだぼろに泣いてる妹たちを驚かせないように、メイドさんがそっとお茶を出し直してくれる。カップは5個。護衛さんなら飲まないだろうから、アレはきっと私の分。

少しだけ遠巻きに建物の内外に人が集まってる。10人てとこかしらね。その、誰もが心配そうな顔をしてる。気遣うような。


ああ、神様。神様。


「……あのね、あなたたちがいなくなった後、なんとなく私も『こう』なるかも知れないと思って、もしも私までいなくなったら、その、それからは伯母さんに任せるよう、公正証書にしてあるの。あなた達の大事なものを、ごめんなさいね」


一歩を、ようやく踏み出した。テーブルの向こうで耐えかねたように二人が号泣を始める。いいえ、いいえ、と頭を振る二人の頭をそれぞれの伴侶の方から受け取って、そっと抱きしめて。


「…………神様に、感謝するわ」


ぼそりと一言が、精一杯だった。両親が死んだ時から止めていた、誰ともない感謝の言葉の重さは、この子たちだけに伝わればいい。それで十分。


だってほら、この子たちの鳴き声が号泣から大号泣にグレードアップした。


「この子たちの保護に感謝を。信頼を得ている様子に祝福を。私の目が行き届かない場所で、滞りない庇護をしていただいたと、期待してもよろしいのでしょうか」


私まで泣いてしまう前に、と最後の確認をする。

この子たちの旦那様は、もちろんいい人のはずだ。私は駄目男が嫌い。だからその手の人を妹たちも選ぶはずがない。知ってる。

そんなことは、骨身に沁みてても。


我ながら目がぎらついてる自覚はあったんだけど止められなかった。不遜に塗れた自分勝手な言い草を、寛容にも彼らは許してくれたらしい。上の妹にくっついてた男の人が目をくるりと回した。

口を開いたのは下の妹にくっついてた方。きらびやかな服を着ている肩をすくめて、笑わない口調で宣言してくれた。



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