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乳母日傘のセイヴュアー2

 ヒュォオオ、と風を切りながら颯爽と渓谷を一匹のワイバーンが飛行する。乱反射を繰り返す川に抵触するかのところで絶妙に飛ぶそれは、ゴウゴウと音を立てる滝に至る手前で高く空へと舞い上がった。ピィ――……と高木の枝で、指笛が鳴る。


「やぁ、久しぶりだね。お前」


 手前で翼を畳むワイバーンに、大木に腰掛ける少女が笑いかけた。グルルル、とワイバーンが目を細めて喉を鳴らす。


「……へぇ、東の森に」


 猫目を細めて、少女は幹に手を当てて枝に立った。水飛沫を含んだ風が一吹する。


「面白そうじゃん」


 薄い雲から顔を出した太陽から光が強く差し込む。照らされた木の枝に少女はもう居なかった。


   +++


『近頃店の方が凄いことになってるようじゃないか』

「あ、やっぱりそう思います?」


 バッジから映し出されたアムダさんの映像を正面に、僕は控え室にて彼と話をしていた。普段は特に使用用途のないバッジだけれど、たまにこうして城内にいるアムダさんと会話をするために用いることがある。

 ちなみに、このバッジを通してアムダさんはお店の様子を見れるわけだが、今までのやり取りでどうも四六時中様子を伺っているわけではないことが分かった。……まぁ、国王だもんね。そんなに暇じゃないか。


『大丈夫かい? 害があるようなら遠慮なくうちの勇者使って駆逐していいのだからね』

「いやぁ……。思いのほか常識的で逆にこっちが驚くぐらいです」

『常識的ねぇ』


 僕の言葉にアムダさんは一瞬不思議そうな顔をした。


『とは言え、今の状況は有り難くもあるかな』

「? どういう意味です?」

『いやね。そっちで面倒見て欲しい勇者がもう一人いるのだよ』

「……保育所じゃないんですから」


 アムダさんの言葉に僕は呆れた声を出した。『いいじゃないか、もう一人ぐらい』と対する彼は全く悪びれていない様子だ。


『散々城に来るように召集かけているというのに、人嫌いをこじらせてちっとも現れようとしない。全く困った子だよ』

「え、そんな子を雇わせるつもりなんですか?」

『国内よりはマシだろう?』

「それはそう、なのかなぁ」

『そうとも』


 自信満々に頷くアムダさんはてこでも動かない風だ。僕は諦めの溜め息をついた。


「どういう子なんです?」

『さぁ、何分人前に姿を現さないからね。こちらとしても情報が足らない。ただ――』


「ねぇー店長いるー?」


 アムダさんが何かを言いかけた時、店の入口から声がした。知らない子供の声だ。


「え? あぁ、はい!」

『大変だね』


 急いで立ち上がってフロアへ向かおうとすると、その前に控え室の扉が開かれる。後ろから「お、おやめください!」とミーシャの声がした。


「この店から人間追い出して欲しいんだけど……ってうげ、何でここにあんたがいんの?」


 入ってきたのはショートの金髪が煌く女の子だった。勝気な瞳がバッジ越しのアムダさんを捉えて不快そうに歪む。


『おや、噂をすれば何とやらだね。マティ』

「アムダさん、もしかして……」

『お察しの通りだよ。ジョージくん』


 僕の言葉にアムダさんは肩を竦めた。そのまま「丁度いい」とマティと呼んだ女の子に話しかける。


『今日からこのお店で働きなさい』

「はぁ~~!?」


 拒絶の意志を込めてマティが声を上げる。


「信じられない! 嫌に決まってんじゃん!」

『言っておくけど君に拒否権はないよ。これでも十二分に譲歩しているのだからね』

「うっさいハゲ!」

『黙らっしゃい! ハゲてないわ! それにハゲって言った方がハゲなんだぞ!』

「僕ハゲてないし! 老眼もこじらせてんじゃないの?」


 ……子供の喧嘩か。


「あの、すみません。話が見えないのですが……」


 話に入ってきたのはミーシャだった。毛先がカールした艶やかな桃色の髪を弄り、居場所がなさそうに立っている。

 ミーシャの言葉にアムダさんは咳払いを一つする。


『あぁ、なに。今日から仕事仲間が新しく増えるということだよ』

「ちょっと、勝手に決めないでくんない!?」

『……よく吠えるなぁ』

「はぁ? 喧嘩売ってんの?」


 アムダさんの言葉にマティはどんどん機嫌を悪くしていく。売り言葉に買い言葉というやつだろうか。アムダさんも結構辛辣だからなぁ……。もしかしなくても、二人は相性が悪いらしい。


「取り敢えず、さ」


 二人の間に入るようにして僕は言った。


「お茶にしよっか」


 今の時間帯、全くの暇であるかといえばそうではない。ミーシャに「後は頼んだ」とアイコンタクトを送ると、無言のまま頷いて彼女は部屋をあとにした。


   +++


「あの子を預かればいいんですね?」


 厨房に入ってから、僕は不機嫌そうなアムダさんに向かって言った。マティは控え室にて待機させている。


『やけに乗り気じゃないか』

「……いい歳して拗ねないでくださいよ、もう」

『別に拗ねてない』


 そう言うアムダさんは仏頂面で、完全に拗ねている。その姿は部屋に置いてきたマティそっくりで、きっと同族嫌悪なのだなと思った。


『それはそうと、あの子今時珍しい精霊使いだから』


 話題を変えたアムダさんが人差し指を立てた。


「何ですか、精霊使いって」

『何と言われてもだね。説明が難しい上に、異世界人の君には実感の湧かない話になると思うよ。どうしても知りたいなら本人に聞いたほうが早いんじゃないかな?』

「またいい加減な……」

『詳しい手続きの書類はトーラに持って行かせるから。後は頼んだよ』


 そう言ってアムダさんの残像は消えた。こうなってしまったらしばらくは返事がない。


「相変わらず丸投げするなぁ」


 そう呟いた僕は適当なデザートを見繕い、控え室へと向かった。


「はい、有り合わせのもので悪いけど」


 持ち出してきたジェラートをマティの前に差し出すと、不機嫌だった顔色がみるみるうちに明るくなった。


「ショボい店なのにいいもん出すじゃん!」

「……はは」


 褒めて……いるんだろう、これで。スプーンで苺のジェラートを掬って口に含み、満足そうに「ん~~」とマティは唸る。


「それでなんだけどさ」


 機嫌が直った頃を見計らって僕は話題を切り出した。


「この店で働いて「やだ!」……即答ですか」


 光速でやってくる拒絶に僕はがっくりと肩を落とす。マティが「あんたもあのハゲの仲間なわけ?」と煙たそうな瞳を向ける。うう、めげるな! 僕! 折れそうな心を叱咤して僕は口を開いた。


「きっと楽しいよ?」

「別に今のままの生活でも十分楽しい」

「で、でも色んな人と触れ合って見聞を広めるというのも……」

「人間は嫌いだ。客と従業員、加えてあんたも魔物になるってなら考えてもいいよ」


 取り付く島もないとはまさにこのこと。途方に暮れる僕をよそに、マティは顔を反らす。


「……大体、僕は勇者じゃないもん」

「え、本当?」


 ポツリと溢した言葉に僕は驚いた。この世界において勇者の素質は先天的なものであるからだ。それに先のアムダさんもはっきりマティのことを「勇者」と言っていた。


「うっさいなぁ!」


 癇癪を起こしたようにマティが苛立った声を上げる。


「とにかく。勇者じゃない以上、あんな胡散臭い嘘つきの言うことなんて聞かなくていいの! あんまりしつこいと友達と一緒にこの店潰すよ?」

「それは困るな……」


 高圧的に脅すマティに僕は考え込んだ。また何か抱え込んでいそうな子を……とアムダさんに文句を垂れたい気持ちに駆られるが、今はそれどころではないだろう。考えろ、考えるんだ僕――この事態を打開する方法を!

 目の前で興奮しているマティはまるで野生の猫のよう。相手に対する疑心がうずめいているのが見て取れる。……そういえば、僕もへそを曲げるとこんな感じだった。相手が全く信用できなくなるのだ。そしてこんな時にお袋はと言うと――


『全く、穣治ってばそんなに怒ってどうしたの?』


 あれはいつの日だっただろうか。縁側で蝉が鳴いていた、幼い頃の記憶だ。


『どうしたもこうしたもないよ! 親父ってば、僕の夢を笑うんだ!』


 初めて自分の店を持ちたいと言って、結果一笑にふされることとなった僕は縁側にて不貞腐れていた。それを見つけたお袋が穏やかな笑みを浮かべている。


『おやおや。お父さんがそんなことしたの』

『そうだよ! きっと自分のお店を繁盛させることしか考えてないんだ!』

『それは災難だったね、穣治。冷えたスイカを出してあげるから一緒に食べましょう』

『……食べる』


 胸のわだかまりにやきもきしながらも、僕は頷いた。そう、それは紛れもない僕の記憶で――別のある日『どうしてお袋と話すと怒った気持ちが和らぐんだろう』と問いかけた僕に対して、お袋はこう言った。


『怒っているのはね、不幸せだからよ。だから幸せな気持ちにしてあげればいいの。そしてね、穣治。人を幸せにする一番の方法は――』


 ――美味しいご飯よ。


「……このお店で働いてくれたら」


 俯いたまま、僕は口を開いた。


「何、くどいんだけど?」


 マティの瞳が細められる。言葉を止めるな! 言い切るんだ!


「毎日おやつとまかないを出す」


 マティの眉が一瞬動いた。よし、今だ!


「今の時期なら桃が美味しいよね。パリパリなパイ生地の中に蕩けるカスタードに甘い桃。隣に添えたレモンのスウィートソースに絡めれば甘くも酸っぱい夏にピッタリな味になること間違いなし!」

「………」


 マティが迷う素振りを見せた。あともうひと押し!


「夏といえばやっぱりトマト! 生のまま切ってサラダにしても良し、ワインや砂糖と漬けてコンポートにしても良し、ソースにしてムースにした鶏肉にかけて食べても美味しい。工夫次第で味も形も様々に変えるトマト料理も、このお店のイチオシだよ?」


 どうだ!? 緊張の沈黙が室内に流れる。しばらくして、マティが口を開いた。


「……一週間だけなら」

「ありがとう! マティ!」


 その言葉に僕は心から喜ぶ。マティは「ふんっ!」と横を向いた。


「つまんないと思ったらすぐ帰るんだからな!」


 偉大なるかな、母の知恵。こうしてお店にまた一人勇者がやってきたのだった。


   +++


「ということで、新しくマティがお店で働くことになったからね」


 店仕舞いが一段落着いた頃、僕はみんなにマティを紹介していた。


「一週間だけだけど、よろしくね。僕はマティ・モスターン」


 僕の言葉に釘を刺しつつ、マティが挨拶をする。


「俺はアルファ・ソルジーク。よろしくな」

「ミーシャ・エレスペルだよ。はじめまして」

『ズィータ・ラングーストだ。一緒にやっていこう』


三人もそれに倣って返礼をする。自分よりも一回り小さいマティの存在にみんな興味があるみたいだ。

 三人ともまだ若いとは言え、アルファとミーシャは僕の世界じゃ高校生ぐらいだし、ズィータは大学生くらいだろうか。それに比べてマティは中学生くらいの若さだ。少し戸惑うのも仕方ないかな。


「ところでさ」


 自己紹介も一通り終わり、アルファは視線をマティの後ろに移動させた。


「後ろにいる魔物たちは何だよ」


 その言葉にミーシャとズィータも無言ながらも肯定する。そう彼女、マティの後ろには――おびただしい数の魔物たちがいるのだ。ネズミのように小さなものからクマほどの大きいものまで。控え室に収まりきらない魔物はフロアで待機しており、今や店内は半分動物園と化していた。


「何って、僕の友達」


 心外だと言わんばかりにマティが答える。瞳の下にある雫のような模様が特徴の一匹の鹿がマティに擦り寄った。

 その様子を見ていた三人がそれぞれポツリと呟く。


「クラウンディアー……。人を惑わし森に遭難させるモンスターですね」

『最近数が増えて森の生態系にも影響を及ぼしているため、各地域から駆除の依頼が絶えない魔物だな』

「……斬りてぇ」

「三人とも、抑えてね?」


 物騒な言葉たちに僕は冷や汗を流した。客人としてやってくる魔物たちを倒すことができない鬱憤が溜まっているのか、三人とも気を緩めばすぐにでも襲いかかりそうな勢いだ。

 抑えても漏れ出る三人の殺気を感じ取り、マティの後ろの魔物たちが怯え出した。


「ちょっと、人の友達いじめないでよ!」


 マティが魔物たちを庇うように立って怒る。その言葉に三人は一斉に目を逸らした。「あのさ」と僕はふと思いついた疑問を口にする。


「マティはこれからどこに住むの?」


 彼女は三人と違ってヒロニクルの寮に部屋をもらっていない。どうやら話によると西にある山岳地帯からワイバーン(コウモリの羽にヘビの尾を持つ、二足のドラゴンだそうだ)に乗ってやってきたらしいけど、毎日そんな通勤を強いるわけにはいかないだろう。


「え、野宿でいいけど」


 対してマティの返事はあっさりとしたものだった。


「いやいやいや! 危ないから!」


 僕は慌てて却下した。マティが「何で?」と心底疑問そうな顔をする。


「女の子が森で、しかも一人で夜を過ごすなんてとんでもないよ! 凶暴なモンスターや怖い人に襲われたらどうするの?」

「返り討ちにすれば済む話じゃん」

「逞しい!」


 ケロッと言うマティに僕は成す術もなく三人に意見を求めたが、三人とも「そりゃそうだ」と言わんばかりに頷いている。あ、この考えは共通認識なんだね?


「でも外で寝泊りするのはあんまり良くないから、良かったら私の部屋においでよ」


 困り果てた僕の代わりにミーシャが助け舟を出す。その言葉にマティは露骨に嫌悪感を出した。


「やだ。あのうすらトンカチ白髪頭の国には行かない」

「うすらトンカチ……」

『白髪頭……』

「……ぶふっ」


 アルファが吹き出したのを始めにして二人も肩を震わせる。一方僕は気が気じゃない。仮にも一国の王になんてことを! あれでも一応王様なのに!


「んで、結局どうすんだよ」


 ひとしきり笑ったアルファが話を元に戻した。


「だから野宿でいいって」

『それはやめたほうがいい』


 頑ななマティをズィータが止めた。


『その数の魔物と一緒に野宿をすれば、すぐに街の人々が気付く。いくら君の友達とは言え、市民の依頼を受ければ俺たちは彼らを殺さなくてはいけない』

「そうだよ。中には駆除対象の魔物も含まれているし、なるべく人目を避けて寝泊りをするべきじゃないかな」


 ズィータの言葉にミーシャが援護射撃をした。アルファ、君もするんだ! そんな期待を込めて僕は彼に視線を送る。アルファが頷き、口を開いた。


「ついでになるべく俺たちの視界からも遠ざけてくれると嬉しい」


 違うよ!? ……どうやら思いは伝わらなかったらしい。勇者たちとの歩み寄りにはまだまだ時間がかかることを思わぬ形で思い知らされることとなったよ。


「ま、そこまで言われちゃしょうがないか」


 んー、どうしよ、とマティは腕組みをした。そして思いついたように手を叩く。


「じゃあここに住む」

「えぇ?」


 その言葉に僕は驚いた。野宿を止めておいてなんであるが、この店にこれほどの魔物たちと共に寝泊りをするスペースなどない。


「あぁ、その手があったな」


 アルファが納得したように言う。ズィータも『いいんじゃないか?』と頷いた。


「ちょ、ちょっと待ってよ。ここにそんな場所ないって」

「無いから新しく作ればいいじゃん」


 事も無げにマティは言うと、そのまま控え室の扉へと歩いていった。ドアノブを両手で包み、目を閉じる。


空隙(くうげき)の精霊カオス……出ておいで」


 途端に、部屋の空気が変わった。張り詰めた緊張感は神聖さを纏い、気付けば魔物たちが揃って額づいている。キィィ……と甲高い声を上げて、黒い何かが扉から出てきた。


「これが精霊……」


 ミーシャが驚いたように声を漏らした。他の二人も声こそ出していないが同じ気持ちだろう。


「ねぇ、お願い。いくつかの空間を歪めて欲しいんだけど」


 マティの言葉に黒い(もや)が右往左往する。まるで回りを見渡しているようだ。そしてカオスは僕の存在に気付いたようで、一瞬にして距離を詰めてくる。


「っ!?」


 突然のことに驚く僕は、叫ばないように咄嗟に口をふさいだ。そのまま周囲を囲むように靄の範囲が広がる。……な、なんだろう。


「カオスがあんたのこと気に入ったって。良かったじゃん」


 マティの言葉に僕は苦笑いを浮かべる。気に入られたのか、これに。嬉しいような怖いような……。

 暫く僕の回りを回っていたカオスだったが、やがてマティの元に戻る。そしてマティから一言二言貰ってから、扉の向こうへと消えて行った。瞬間に、部屋の空気が軽くなる。


「んー、どうなってるかなー?」


 軽い手つきでマティがドアノブを回すと、その先に広がるのは店のフロア……ではなく、コテージの室内だった。


「ばっちし! ありがとね、カオス!」

「……凄い」


 扉の向こうに手を出して、戻す。……確かに扉の向こうは違う空間に繋がれているようだ。


「ま、これで一件落着だな」


 あー疲れた、と肩を回すアルファの言葉に、ミーシャとズィータ、そしてマティも頷いた。


「これってどうなってるのかな?」


 扉を閉めて、また開くと今度は実れたフロアが広がる。「それはですね」とミーシャが口を開いた。


「通常空間は一続きでしかないんですが、歪めることによって扉を分岐点に異なる空間に行けるようにしたんですよ」


 そう言われて僕は転移魔法の一種なのかな、と納得する。


「でも、この短時間でここまで綺麗に出来るのは凄いです……。私でも詠唱しないと無理なのに」

「マジか、そりゃ大変だな」


 ミーシャの言葉にアルファが他人事のように言った。


「ミーシャは魔法が上手いの?」


 隣にいるズィータに聞くと、彼は無言のまま前髪でほとんど隠れた顔を縦に動かした。僕にだけ見えるように小さな文字をちょこんと現して意思を伝え始める。


『本人はそう思われるのが嫌で隠しますけど……魔法の技術面で言ったらこの国では一番です』

「そうだったんだ……。じゃあアルファとズィータはこの魔法使えないの?」

『はい、点と点で結ぶ転移魔法が限界です。とは言え、一応これでも上手く扱える方には入るみたいですね』


 皮肉とも自嘲ともとれる笑みをズィータが浮かべる。


「そうだ。俺たちも部屋からここ来れるようにしてくれよ」


 向こうでアルファがマティに提案した。ドアの向こうに魔物たちを移動させ終わったマティが「はぁ~?」と眉根を寄せる。


「僕の友達は便利屋じゃないんだけど?」

「いいじゃん、ついでだと思って」

「私も、さっきのもう一度見たいな!」


 アルファに続いて、珍しくミーシャが身を乗り出してマティに迫った。その瞳は知的好奇心に溢れている。


「な、なんだよ……」


 二人にせがまれたマティが照れたように顔を背けた。きっと三人が打ち解けるまでそう時間はかからないだろう。


「最初はちょっと心配だったけど、問題無さそうだね」

『そうですね』


 僕の言葉にズィータが肯定を示す。こうして一日が終わろうとしていた。

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