まだしらない、こいのはなし
前作の「みにくい、しっとのはなし」とタイトルが似ておりますが、これっぽっっっっちも関係ありません。
気にせずお読みください。
「・・・お前ってさ、考え方乙女すぎじゃね?」
からかうような、呆れたようなその口調に、頬が熱くなった。
* * * まだしらない、こいのはなし * * *
「・・・ど、どういうことよ」
「だからぁ、両想いであれば必ず結ばれるとかー、世界のカップルはみんな幸せだーとか思ってんだろ?」
いっつもそう。身長の高いコイツは、しゃべるときだって上から目線だ。
「思ってないわよ! なんでそういうことになったわけ!?」
「そうは思えねーけどなー。恋に恋するお年頃か? ん?」
「・・・うっざ! 何お前うっざ! あんたと私は同い年でしょうが!」
「いやぁ、そういうお年頃には個人差があるじゃん?」
「知ったこっちゃないわよ! つかさっきの質問の答えになってないし!」
にっと、楽しげに見下ろす顔がうざったい。
コイツを見上げなければならない自分の身長に嫌気がさす。
「わ、私だって、みんながみんな幸せじゃないことぐらい知ってるし」
「でも、自分がやる恋愛はそうじゃないって?」
「誰もそんなこと言ってないでしょ!? 勝手に心を代弁するな!」
「え、じゃあ心の中で思ってたわけ?」
「そういう意味じゃないわよ! あぁーもう、あんたと話してると声枯れるわ!」
「いや知らねぇし・・・それ俺のせいじゃねぇだろ・・・」
何でだろう。最近の帰り道は、恋愛について話すことが多くなった。
・・・話題の発端は・・・私か。なんか口をついてでるのだ。
そしていつも、バカにされるという。
「・・・そもそも、恋って何よ。恋愛って何よ」
「そう考えるのが乙女だっつーの」
「何でよ! 誰でも抱く疑問じゃないの!?」
「抱いたとしてもそれを聞くことはないと思うが」
「じゃあどうしてんの!? この疑問は放置!?」
「そのうち好きってのがわかんじゃねぇの?」
「はぁ!? 何それ全っ然意味わかんないじゃん!」
「ふつうに恋するの待てってことだろ」
「だからその恋って何なのよ!」
「うるせぇなしらねぇよ! つか叫ぶな!」
「私だって好きで叫んでんじゃないわよ!」
「じゃあ叫ぶなよ! ただでさえ目にうるせえのに声までうるさくしてどうすんだよ!」
「目にうるさいって何よ! どういう意味!?」
「そのまんまの意味だちょろちょろチビがうるせーっつってんだよ!」
「チビ言うなこの・・・! ・・・この・・・」
「はっ、浮かばねぇのか? 語彙貧弱乙〜」
「ああぁぁあぁむかつく! うっざ! 超うっざ!」
私が恨めしげに見上げると、コイツはいつも楽しそうに笑うのだ。
いじめて楽しいのか・・・ドSめ・・・。
だけどまぁ・・・コイツと話すことで、恋愛に対する他人の考え方が若干わかる。
恋愛経験ゼロの私にとって、そういう・・・いわば「勉強」をできるのはありがたいことだった。
「まぁお前の語彙の貧弱さは元からだから置いておくとして」
「何回言えば気が済むのよ・・・!」
「いやぁこれをネタにこれからからかっていこうかとね?」
「・・・次言ったら張り飛ばす」
「おーやってみろ。届くもんならな」
「・・・届くわよ・・・! 去年に比べて1.5センチ伸びたんだから!」
「・・・ちょ、おま・・・いや、まじやめてっ・・・あ、ふは、はははっ、」
「笑うな!」
「小数点まで・・・っ、細かく覚え、てるとかっ」
「何を言うか! 0.5センチって重要なんだから!」
「も・・・もうやめ・・・殺す、気・・・か」
「・・・勝手に死んでればいいんだ」
言い争いも、何もかも勝てない。
いつも私が悔しい思いして、恨めしげに見上げて。
そしてコイツが楽しげに笑って。
「・・・ふ、笑った・・・」
「もういいわよ・・・好きなだけ笑ったらいいわよもう・・・」
「いやー、昔から思ってたけどさ、お前ってほんと身長伸びねぇよな」
「・・・だから何よ」
「怒んなって。なんなのそれ? 遺伝か何か?」
「・・・お父さんもお母さんもあんまり身長大きい方じゃないから」
「じゃあ遺伝なんだ・・・ふ、」
「・・・また笑う気?」
「いや、これ以上笑ったら死んじゃうわ」
「ご自由にどうぞ」
「ひっど」
返せるのは、たいして強くもない言葉ばかりだ。
コイツの方が一枚も二枚も上手。言い争いで勝つことなど元々諦めていたけど、何か腹立つ。
「なぁなぁ、じゃあさ」
「何よ」
「背ぇ低い奴と、背ぇ高い奴が結婚したらどうなるん?」
「・・・は? 何が?」
「いや、だからその子供の身長さ。低くなんのかね?」
「・・・いや、知らないし・・・ていうか何突然・・・」
「ふと思っただけだけどさ。何か気になんね?」
「・・・別に・・・遺伝の勉強とかすればわかるんじゃないの?」
「あ、ごめん俺勉強嫌い」
「・・・だいたい察する。私も好きじゃない」
「やっぱ、そういうのは実証から入った方が楽だよなー」
「・・・実証? 実験ってこと?」
「んーまぁそんなん?」
「・・・意味わかんな・・・実証のしようがないでしょ・・・」
「そうでもないだろー? 身近にあんじゃん?」
「・・・背の高い植物と低い植物をかけあわせるとか?」
「・・・待って、何で植物」
「植物じゃなかったらどうすんのよ」
「そんなの簡単じゃん?」
割と遠回しな態度。小馬鹿にするような言い方。全部腹立つ。
私よりは頭よくないくせに・・・。
何を自慢げに言うのやら。
「俺とおまえが結婚すればいいだろ?」
「・・・・・・・・・・は?」
私、耳が遠くなっただろうか。
今何か、ちょっとあり得ない言葉が聞こえたような。結婚とか何とかって・・・。
「は? じゃねーよ。そのまんまの意味だろ」
「・・・そのまんまの意味、って」
「うわー察し悪いなお前・・・」
コイツは・・・何を言っているんだろう・・・。
いつも通りのうざったい笑顔で、自慢げに、説明をする。
地球が逆回りしてもおかしくないようなことを言っておきながら、いつも通りの振る舞いだ。
「だから、俺は見ての通り背ぇ高いだろ? でお前はチビと」
「・・・・・・」
「あれ、チビ言うな! って言わねぇの?」
「・・・・・・ちょっとそれ言うほど頭に余裕がない・・・」
「いやお前、動転しすぎだろ」
「う、うるさいな・・・!」
そうなったのはコイツのせいなのに!
意味わかんない! やっとさっきの言葉を理解し始めたけど、何でコイツそういうこと言い出してんの?
バカなの? 死ぬの?
「た、たとえ話にしてはタチ悪すぎ・・・! 何考えてんのよ・・・」
「・・・たとえ話、ねぇ・・・」
静かで怪しげな声音に見上げると、私を見下ろして楽しそうに笑う顔があった。
いつもとは少し違うように見える・・・?
なんだろう、これ。
考えた瞬間、言葉が口をついてでる。
「変態!」
「ちょい待て人の顔見て言うことそれ!?」
「変態! 変態変態!」
「なんなのお前! 何が言いたいの!」
「け、けけけ結婚とか・・・何考えてんの!? 変態! 何が実証よ!」
「いや実証だろ! しかも今お前たとえ話って自分で言ったばっかりじゃん!」
「〜っ、知らない知らない知らない! とりあえず変態! 何でそういう発想なのよ!」
「とりあえずって何だ!? あと今一般の皆様が通る道路だから! あんま変態って叫ばないで!」
「よっしゃ叫んでやる! 変態変態! バカ!」
「最後何!?」
け、結婚!? 遺伝とかって、その・・・そういうことでしょ!?
その発想が出てくることが変態だと思う! しかもなんで私なわけ?
もっと・・・いやもっとはいないけど・・・背が低い女子ならいるじゃん! 私以外にも!
なのに、何で・・・よりにもよって、私なの!?
ていうか私、何でこんなに動転してんの?
「・・・お前、顔真っ赤」
「っ」
いい加減声がかすれて黙っていると、上から面白がるような声。
慌てて頬に手を当てる。顔赤いなんて、そんなわけ・・・。
いつもより熱を持っているような気がする・・・いや気のせいだ・・・大丈夫・・・。
「何お前全力で頬こすってんの」
「顔赤くなんてないから! 赤くなってるのこすってるせいだから!」
「・・・無理あるなその理由・・・」
そうだ、赤くなってるのはこすってるせい。熱を持ってるのは摩擦熱だから。
大丈夫大丈夫・・・。
隠すためにずっとこすっていると、その手をぐいっと引かれた。
「いい加減やめろって。後で痛くなんぞ?」
思ったより強い力で引かれた腕。目が合う。
捕まれた部分が、かっと熱くなった。
「は、離して」
「・・・いいけど・・・またこすんなよ?」
「・・・もうしないわよ」
何で突然、コイツは心配するような口調になるのよ・・・。
突然優しくなった。さっきまで私のこと全力でからかってたくせに!
もう、コイツの考えていることは意味が分からない。
今なんてほら、無言だ。沈黙だ。
自然と足が速くなる。
「おーい、歩くの早いって」
「・・・うるさい」
「何だよ急にー冗談だろー?」
「・・・うるさい」
「ちょっとからかっただけじゃんよー」
「・・・うるさい」
「いつも通りじゃんかー」
「・・・うるさい」
・・・うるさかった。まだ私は落ち着けてないって言うのに!
前々からそうだったけれど、私はコイツの言葉一つ一つに無駄に怒ったりして、翻弄されてる。
それがきっと、悔しいんだ。いらいらする。腹が立つ。
「・・・ったく、ウブな反応だよな」
呆れた声音。
「ほんっと、乙女だわ」
恥ずかしくなった。頬が、隠しようがないほど、さっきよりも熱くなる。
「・・・乙女じゃないわよ・・・!」
「意識しすぎじゃん?」
「う、うるさいわね・・・知らないわよ、落ち着かないのよ!」
「あの発言だけでそんな反応示さんでも・・・」
「あの発言だけって、け、けけ、け結婚、なんて・・・!」
「・・・あーもう純粋天使。なんなのお前、乙女どころの騒ぎじゃねぇよ」
考えすぎ、とコイツは笑う。苦笑する。
何でそんなに平気でいられるの? あんな発言しておいて恥ずかしくないわけ?
意識しすぎ、って、私は何も・・・意識、なんて。意味わかんないし。
「そんな反応されっと、緊張するし」
「き、緊張って何よ今更! あんな話しておいて緊張とかないわよ!」
「いーや、緊張するね。もしかしてさーーーーー」
そこで言葉を切り、ソイツは動けない私にゆっくりと近づいてきた。
耳元に口を寄せ、ささやく。
ーーー俺に気があるんじゃないかって、な
「ーーーっ!」
その言葉に、息をのみ、後ずさる。ついでにソイツを突き飛ばす。
悔しいことに、コイツは少し笑ってよろめいただけだった。むしろリバウンドで私の方がよろめいた。
「ほら、そういうところがな」
「な、ん・・何言って! んなわけないでしょ!?」
「うわー、むっちゃウブな反応だな・・・乙女だわ・・・」
「いい加減乙女乙女言うのやめてよ! 気が、気が・・・あるなんて、そんな訳ないじゃん!」
「わーかってるよ、冗談だって」
あっさりとコイツは笑った。
意味が分からない。いつも通りの笑顔でいられるなんて。
あんな恥ずかしいこと、言った方も照れるものじゃないの!? 何でコイツはいつも通りなのよ!
私が変みたいじゃない! 何でこんな動揺してるのよ!
自分の鼓動がうるさい。むしゃくしゃする。
「なぁお前さ」
「今度は何よ!」
「お前さっき、俺に恋って何かって聞いたよな」
「それが何!」
「想像でいいんだけど、お前は恋ってどんなもんだと思ってんの?」
「・・・知らないわよ。知らないから聞いてるんでしょ」
「ふ、答えになってねぇぞ?」
「うっさい!」
「漫画とかではあれじゃん? すっげぇドキドキしたりときめくーとか言ってるよな」
「だから何だっていうの?」
「でもやっぱ恋の形は人それぞれだよなぁ」
「・・・突然なんで語り出すのよ」
「お前が聞いたから答えてやってんだろ」
「・・・・・・続けなさいよ」
「おう。・・・ちなみに言うと、俺の恋の形もそんなロマンティックなもんじゃねーぜ?」
「・・・あんたの恋なんて興味ないんだけど」
「文句言わずに一種の恋の形を勉強しろよ」
「はいはい・・・ロマンティックじゃなかったら何よ。早く言ったら?」
「うーんそうだなぁ・・・なんかさ、いじめたくなるんだよな」
「・・・・・・・・・は?」
「いや、だからいじめたくなるんだって」
「・・・それ恋って言うの?」
「さぁな。ただ俺が勝手に思ってるだけかも」
「・・・あ、そ」
「でまぁ、ついいつもいじめてんだけどさ」
「・・・・・・いじめてたらふつう逃げるもんじゃないの」
「いや、それがそうでもないんだよな! ドMなのかもしんねぇけど」
「・・・逃げてないってどうしてわかんのよ?」
「聞いて驚け、そいつはいつも一緒に帰ってくれるんだぜ!」
「あ、そ・・・」
・・・どういうことだろう。
ここ最近、コイツと一緒に帰ってるのは私だ。
混乱の域を通り越し、頭が考えるのを放棄する。
相変わらずコイツの言っていることがわからないから、当たり前と言えば当たり前だ。
「・・・で、その子逃げないんだ」
「そ。全然逃げないし、逃げるどころか恨めしげに見上げてくるし!」
顔を見上げると、やっぱりコイツは楽しげに、いつも通りに笑うだけだ。
「ふーん・・・全然思い当たんないけど、そりゃすごい子だね」
「だろ? あの恨めしげな顔を見るともっといじめたくなってなぁ!」
「・・・ドS・・・」
考えることを放棄した頭を再起動させようとしても、ごちゃごちゃな思考を自覚した瞬間再び放棄になる。
自分の鼓動は相変わらずうるさい。頬だってまだ、熱を持っているような気もして。
全部全部コイツのせいだ。
・・・コイツは、恋にはいろんな形があるとか言ってたっけ。
こいつ自身の形ーーーいじめたくなるってのはちょっと理解しがたいが、そう言われると何となくわかったような気がした。
ちらりと見上げると、目が合う。
コイツはいたずらっぽく笑って、私に問いかけた。
「なぁ、お前はそいつのこと、どう思う?」
私は少し目を細めて言った。
「相当な物好き、かな」
「ひっど」
コイツは変わらず、いつも通り笑って。
いろんな形があるのならば。
今日の中で現れたこの感情も。
コイツの顔を見て浮かぶいらつきも。
恋というものなのだろうか?
恋と言えるのだろうか?
まだ全然わからないから。
しばらくはまたコイツと話して、「勉強」させてもらおうと思う。
* * * END * * *
いかがでしたでしょう?
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