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3)分かりづらい反抗期と、見て見ぬ振りの対価

世で言う思春期。

私は自他共に認める『変わり者』だった。

そんな『変わり者』に、目だった反抗期は無かったが、ある意味その存在そのものが反抗期だったのかもしれない。




その頃の私は、とにかく『身を護るため』に醜く在ろうとした。

可愛いと危険、ならば危険を伴うものを無くしてしまえばいい。

あの時の、子供の頭で必死に考えた結論。

例え浅はかでも、当時の自分はそれが最良だと思い込んだ。



だから


大好きだった可愛いものも、憧れだったステキなものも、衣服も、化粧も、持ち物も、ステキだと思った髪形も、魅力的だと思える体型も、全て自分には有り得ないもの、相応しくないと思い込んで、相応しくなろうと努力することを諦めた。

流行のメイク、流行の髪型、流行の服……。

全部興味ない振りをした。



学生時代を終えて、社会人になったとき、そういうスキル一切皆無な私は、いろいろとヘマをやらかした。

そういうものを学ぶことができるはずの時期に何もしなかった対価といってしまえば、対価なのかもしれない。



そもそも、それを身につける術を教えてくれる人は誰も居なかった。

母親も、そういう面にはあまり興味の無い人で、今までにそういう話をしたことは一度もない。

「少しは気にしろ」と心配してくれる人はいたが、ただそれだけ。

更に、自己流で押し通せるだけの自信もない。

「かわいい」「美しい」「魅力的」……。

女性を賞賛する言葉は全て、私には恐怖に繋がる禁句だった。

だから、そういう言葉が繋がるものは、興味はあっても、全て怖くて近づけない。



手入れもしない顔は日に焼けて、目に見えて比較対象にされるほどに色黒く。

つやもなく、ぼさぼさ伸ばしっぱなしの髪は見苦しく、周囲の大人に事あるごとに短く切れといわれ。

短くしろといわれたから、ベリーショート並に短くしたらしたで「こんなに短くするのは女の子らしくない」と矛盾極まりなく。

粗野な仕草、乱暴な口使い、男性のような歩き方、誰もが『太っている』と判断するような身体つき。

誰もが顔を顰める性格であるように、比較対象になるときは必ず悪い例にされるように気をつけた。


ほったらかしで肩まで伸びた髪を、無造作に髪ゴムでまとめたら、「気持ち悪い」と私をそう評した女の子がいたらしい。

へぇ、私にどうしろと?


小さい頃、髪が伸びたら一度やってみたかった。

実際は、ある程度伸びる前に、男の子みたいなショートカットが好みの祖母にさっさと切られていたため、幼少時にそれが出来るほど伸びることは無かったのだが。

高い位置でのツインテール。

ある時「可愛いね」と、ツインテールをしている同級生を誉めたら。

「あなたはやらないでね。気持ち悪いから」

言い放った本人はもう覚えていないだろうけれど、私は一生忘れられない。


年下の女の子に乞われて、その子の髪をツインテールにしたことがあった。

無邪気に「こうして!」とお願いできる彼女が無性に羨ましかった。


それでも一度やってみたくて、誰も居ない自分の部屋でようやく伸びた髪をいじり、こっそりやってみたことがあった。

『似合う』『似合わない』と自分で思うより以前に、『似合うはずがないんだ』とすでに思い込んでいる。

そうしてすでに諦めている。

そんな自分が痛かった。

鏡に映った自分は、とても痛かった。

他人にどう見られても、似合わないとすでに決め付けている自分には『痛い』しかなかった。

だから、もう二度と出来ない。




周囲の『大人』に「もっと女の子らしく、こうしなさい」と何度も注意された。

ただ、両親だけは、頑なに聞き入れようとしない私を見て、何かを感じ取ったのか、途中から何も言わなくなった。

『大人』がいう「女の子らしく」は、『型』を決めた人間のただの自己満足だ。

それをすることに私は恐怖を感じている。

だから、できない。しない。

別に、他人にそれを理解してもらわなくてもいい。

なぜそうするかを理解してもらうには、また痛い己の傷を他人にさらさなければならないから。

そうすることで少しは自分の身の回りが変わるかもしれない。

でも、己の傷を『大人』や『他人』が知ったとき、どれだけ己があの集団の中でさらし者にされるかも想像がつく。

さらし者にされて耐えられるだけの強さは、私には微塵も無い。

あんな思いするくらいなら、このくらいの叱責は安いものだと思っていた。


だから、私はあの『大人』たちのなかで『得体の知れない子』になった。


そもそも、表向きだけのきれいごと教育論しか口にしない教育者たちに、この傷を見せるわけにはいかない。



他人に、例え親兄弟にすら理解してもらえない、もらえるはずが無いと、最初から諦めている。



さて、そうして生まれた、幼い頃のトラウマを未だ引きずる、独り身の年増女が一人。

自分が作り上げた己の世界の貧しさに気付き、本当はそんな世界を望んでいたわけではないと、今更あせってももう遅い。




赤いスカート。

ヒラヒラ。

フワフワ。

キラキラ。


私のなかの『女の子』の象徴、意図的にずっと逃げてきた世界。


私のトラウマ。



これではいけないと、克服しようと足掻いてみた。


その成果か、ようやくこの歳になって、ずっと否定してきた『赤い』衣服を、自分で選ぶことができるようになってきた。






私は、少しは前に進めているのだろうか。



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