今どき希少なプロドライバーさん
朝のことだった。
私が高速道路のサービスエリアから本線へ合流するための加速車線に出て、右ミラーを見ると、後ろから1台の大型トラックがやって来ていた。
私も大型トラックである。
荷物を満載していることもあって、加速が遅い。
後ろから来るトラックが、左ウィンカーを出した。
『譲るから前に入ってください』の合図である。
『へぇ!』と、私は思った。
明るい朝の逆光の中、ちゃんと前の車のミラーに映るようヘッドライトをつけて、合流する私にスピードを合わせてくれる。
私はしっかり加速して、前に入らせてもらった。
滅多に使わない、心から『ありがとう』と思った時にしか使わない『サンキューハザード』を短く出した。もちろんだがサンキューハザードを出すことに気を取られてアクセルを緩めてしまうことなんてせず、流入してからもしっかり加速をした。
昔、私の運転の師匠が言っていた。
「流入して来る車がいたら、まずは加速してるかどうかを見ろ。おまえは俺が教えた『鳥瞰視点』が身についてるからスピードも見えるはずだ。加速してないようなら追い越せばいいが、きちんと加速してるようならまずは譲ることを考えろ。その際、ちゃんと意思表示をするんだ。左ウィンカーを出して、半分左の加速車線を走り、『譲ります』という意思表示をしろ」
普段見ていて、これの出来る車は滅多にいない。
みんな流入車を見た途端、加速具合も見ずに、サッサと右車線へ移動する。
そしてよくそのまままた左へ戻っている。流入車のほうが速くなって、かすりもせずに戻るのだ。
これで後ろから来ていた乗用車さんに急ブレーキを踏ませている大型トラックなどもよく見る。
自分の前に出てくる車はなんでも『邪魔』だと思うのか──
あるいはスピードが見えていなくて余裕がないのかは知らないが、とてもプロとは思えない。
大型トラック、トレーラーなどの『プロ』と呼ばれるドライバーさんの9割以上がそんな運転をしている。
時速1キロ差で前のトラックに追いついたらサッサと追い越しに出る、前のトラックが時速10キロ差でさらに前の車に追いついて、右ウィンカーを出しても構わず時速1キロ差でノロノロと迫ってくる。
『譲る』なんて考えはないようだ。
他の車はすべて『敵』とでも思っているのか、ブロックするかぶつけるかの選択しか彼らにはない。
師匠が言っていた。
「昔のトラック乗りはプロが多かった。リミッターがなかったから今より飛ばしてたけど、仁義みたいなものをわかってた。今は邪魔し合いの世の中だけど、昔は譲り合いの世の中だった」
私はその時代を知らない。
師匠は生きていれば今、八十歳ぐらいになっているはずだ。
しかし今が『邪魔し合いの世の中』だという言葉にはうなずいてしまう。
少なくとも大型ドライバーの運転を見ていると、深くそう思えてしまう。
私はといえば、師匠に教わった通り、流入車を見たらまずは加速具合を目測する。
流入してきたのが乗用車さんだったら基本的に譲っている。左ウィンカーを出し、半分加速車線に車体を入れる。
しかし、これが『譲りますので加速してくださいね』という意味だとわかってくれない乗用車さんが多い。
煽られてるとでも思うのか、逆にブレーキを踏んでがっつり減速してしまうドライバーさんがよくいる。
中には威嚇するように、いきなり急ブレーキを踏んでくるひともいた。おかげで荷物が崩れてしまったことが三回あった。
まぁ、それだけ今は流入車に譲る大型トラックが珍しく、意味がわからなかったのだろう。加速してくれないので車間が詰まり、怖がらせてしまったのかもしれない。
この場をお借りして拡散しておきたい。
左ウィンカーを出す大型トラックは譲っているのです。譲られたらするべきことは『邪魔にならないようにしっかり加速すること』だけです。サンキューハザードなんかいりません。出してもいいですが、それに気を取られて加速がおろそかになるなら加速のほうを優先してください。
ちなみに大型ドライバーで『譲ります』の意味をわかってくれずに急ブレーキを踏むような車はさすがに今までにはいなかった。
そのくせ本線を走っていて流入車を見たらハンドルとウィンカー同時操作で右側へ車線変更する大型ばかりである。右後ろの死角にバイクでもいたら大事故になってしまう。
今どきの大型ドライバーといえば、自分のことしか考えていない下手くそばかりである。『乗用車は邪魔、高速道路走んな』だの『俺ら大型ドライバーって運転うまいよなぁ』だのと勝手なことを言っている下手くそばかりだ。合流の下手さを見ていればそれがわかる。
とりあえず朝に出会ったあの大型トラックドライバーさんはプロだと思った。
今どき希少なプロドライバーだと思った。




