待合室で
雨降り 夕がたの待合室
いつもは隙間もちらほらで 順番待つ人たちで窮屈に埋まっている
何列も並んだ 長椅子
珍しいな 今日はガラガラだ
良かった 余り待たずに診て貰えそう
呼ばれた人がすっと立ち上がって診察室へ姿を消すと
待ってるのは 私一人
正面 端っこに据えられてる液晶テレビには
某局春の新ドラマの見どころが映し出され
すきすきの待合室に
出演者とインタビュアーの音声が
ぼそぼそと流れてる
ぼんやり その画面を眺めながら
ボーっと音も聴き流し
名前が呼ばれるのを待つ
ウィン、と自動ドアが開いた
外のヒンヤリ湿った空気が一瞬だけ流れ込み
待合室に満ちた緩慢な空気を
ぐっと引っ張って 混ざり合う
どやどや、という感じで二人連れが来院した
紺のジャージ上下の男子中学生と保護者らしい男性
親子?多分親子、だろうな
男性はガタイがかなり良くてストリート系のいで立ち
キャップを被ったまま スマホを片手に
ずかずかっと威勢よく入室すると
待合室の一番テレビ寄りの長椅子 最前列に
ドカッと腰を下ろした
息子らしい男子も その隣に中腰になった
そのとき 彼は私の方をほんの一瞬
チラッと振り返り
下ろしかけた腰をまた浮かせて
父親らしい男性に ぼそっと言った
「ここ、よそ。うしろ行こ。」
「なんで」
ぶっきら棒に息子に尋ねた父に彼は返答せず
一つ後ろの長椅子へ移ろうとして また言った
「もういっこ うしろ」
彼は前から3列目の席に座り
男性もその隣に腰を下ろした
ジャージの彼はスマホを取り出して
黙って画面を見始めた
父親らしい男性も 隣で片腕を背もたれに投げ出し
足を組んで座って スマホを見始めた
テレビには 二人とも一瞥もくれなかった
男の子は 私がテレビを見ていた(みたいだった)から
それを邪魔しないように 後ろの席を選んだんだ
さり気なく父を そっちへ促したんだとわかった
父親はきっと 全くそれに気づいてなかった
息子は そのことを説明したりしなかった
私はちょっと その関係性に不思議な感覚と
息子君の本当にさり気ないふるまいに
とても感激していた
別にテレビを一生懸命見てたわけじゃなかったけど
ありがとう きみ、やさしいね!って
すごく言いたくなった 言わなかったけど
もしもそうじゃなかったらバツ悪いし
ヘンな人!って思われちゃいそうだし(笑)
すぐに名前が呼ばれて
黙って座ってる親子の背中をあとに 私は診察室へ
入れ違いか 会計時に二人の姿はもうなかった
スリッパ脱ぐと外はもう薄闇 しとしとと降り続く雨
けど なんか心はホカホカしたまんま
傘を広げた




