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銀の伝承  作者: 銀の伝承
第四章「ザラハート王国編」
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第66話「弱者の一撃」

荒れた地面。爆裂した土煙。崩れたテントの残骸と、焦げついた血の匂い。

その中心で、二人の人物が激しくぶつかり合っていた。


「ハアッ!!」

カリスの絶叫と共に、地を這うような黒影が走る。


黒い魔力の影が螺旋状に渦巻き、グロイの巨体を狙って炸裂した。

地面が割れ、爆煙が巻き上がる。

しかし―


「……ったくよ。これで何度目だ?」

煙の中から現れたグロイは、口元に余裕の笑みを浮かべたままだった。


腕にはいくつかの焦げ跡、だが致命傷どころか、掠り傷すら負っていない。

「頑張ってんな、カリス。けどよ、の程度じゃ俺の皮も剥げねぇぜ?」


カリスは内心、息を呑む。

影を纏う強化術、闇雷を帯びた強撃、急所を狙った連打。

持てる技を尽くしても、グロイはまるで試合のつもりで応じているかのようだった。


周囲には、数え切れない魔族兵たちが円を作って二人の戦いを囲んでいた。

彼らは剣を抜くこともなく、笑いながらその死闘を見物していた。


「ほら、いいとこ入ったな!」

「グロイ様、今のフック綺麗すぎだろ!」

「カリスっての、しぶてぇけど…どうせもうすぐ潰れるな」


殺し合いを、戦争を、娯楽として嗤う彼ら。

自らも魔族のカリスだが、心底彼らを軽蔑していた。


そしてその中心にいる、グロイ。

この価値観そのものなんだと、なぜ帝国を憎むのかを再認識した。


カリスは再び構え直す。胸の内で、何度も浮かび上がる声。

(ここで、なんの成果も出さない訳には…!)


足元の影が波打ち、爆発的に広がる。

影穿えいせん四連刻断!!」

地面から跳ね上がるように影の刃が四本、同時にグロイを襲う。


一撃一撃に、魔力の極限が注がれていた。

グロイの目が一瞬細まる。


「ほう…今のは、ちっと痛ェぞ?」

片腕で二撃を弾き、もう片方で三撃目を砕く。

だが、四撃目が腰に命中し、黒き血が飛び散った。

魔族兵たちが一斉にどよめく。


「おっ!? 今のは当たったぞ!」

「マジかよ、あの野郎、グロイ様に傷を…!」


グロイは、しばし無言でカリスを見据える。

そして、ニヤリと嗤った。

「やるじゃねぇか。けどよ……」


バッ!!

突如、グロイの両腕から魔力の衝撃波が発せられる。

「お返しだッ!!」


爆風がカリスの身体を吹き飛ばす。地面を転がり、影を纏った防御を以ってしても、吐血するほどの一撃。

「がッ…!」


「俺の番だ、カリス。次は、楽しませてもらうぜ?」

間合いを詰めたグロイの拳がカリスの胴を抉った。

刹那、空気が砕け、カリスの身体が宙を舞う。


地面に叩きつけられ、土煙とともに背中から大地にめり込む。

呼吸ができない。全身の骨が悲鳴を上げていあ。


「おいおい、もう終わりかよ?裏切り者がよぉ…」

グロイが歩を進めるたび、大地が重く沈む。


それを取り囲む魔族兵たちは、半ば狂ったように笑いながら見ていた。


「いいとこまでいったと思ったんだけどなー!」

「まぁ、帝国から逃げただけの魔族なんざ、こんなもんさ」


(…まだ…まだだ…!)

血を吐きながら、カリスは拳を握る。


歯を食いしばり、動かぬ脚を無理やり起こす。

(俺の命なんかで、この戦が止められるなら―それでいい…!)


血を吐き、腕が砕けようとも、カリスの意識は燃えていた。

視界が赤く染まり、骨の軋む音が耳を満たす。


それでも止めることはできない。

目の前にいるこの男グロイを、今ここで止めなければ、ザラハート王国が征服され、ミスリルも奪われ、目撃したとんでもない存在の復活が早まってしまう。


カリスは、魔力を自らの腹部一点に集束させる。

その魔力の密度は、すでに人間やエルフの許容量をとっくに超えていた。


地面が鳴る。空間が歪む。空気が焦げ始める。


「てめぇ、まさか!」

グロイが瞬時に理解して、反応しようとしたが、すでに遅かった。


「喰らえ!俺も貴様も道連れだッッ!!!!」

魔力が凝縮され、爆裂の印が浮かび上がったその瞬間―


ズオオオオオオオンッ!!!!

カリスを中心にして巨大な魔力の爆発が起きた。


爆発音というには重すぎる、地の底を揺るがすような爆破衝撃が走った。

その一撃は、もはや“技”ではなく―魔力の爆心地そのものだった。


土が盛り上がり、地面がクレーター状に抉れる。

数百メートル内のすべてが吹き飛び、熱と爆風と魔圧が渦を巻く。

周囲にいた兵士たちも全員吹き飛ばされる。


この技はカリスが隠密部隊に所属していた時に習得したもの。敵に捕まり、機密情報を漏らす前に敵を巻き添えに自爆するという、捨て身の技だった。


「なっ…!?」

「グロイ様が…ッ!」


観戦していた魔族兵たちが悲鳴を上げ、爆風に吹き飛ばされる。

グロイはその中心で、爆心にさらされていた。


「ぐっ…ぉぉぉおおおおおおお…ッッ!!」

鋼のような肉体が、大きく焦げていた。


ジュウウウウという焼ける音を発しながら、彼の肉体は大きく損傷。

筋肉が千切れ、血が噴き出し、彼の身体に初めて恐怖の色が宿った。


「テメェ…!」

グロイが地を這うように睨みつける先には、全身を焦がし、蒸気を上げながら立つカリスの姿があった。

その場に膝をつき、崩れる寸前でカリスはつぶやく。


「これが……お前が…笑って殺した……弱い奴らの…怒りだ……!」

だが、カリスの体はもう限界だった。

全身からおびただしい量の出血をしていた。焼け焦げた、ボロボロのカリスは崩れ落ちた。


だが、グロイはまだ立っていた。

明確なダメージを負っていながらもまだ倒れる様子はない。

「クハ…ハ、ハッ…ハハハッ…!もう少しで届きそうだったかもなァ。惜しかったぜ、カリス…だがな、てめぇはここまでだ」


刃が抜かれる音が響く。

グロイが背中の大剣、長さ2メートルを超える黒鉄の刃を、血の滴る爛れた腕で無理やり引き抜いた。


「仲間想いぶって…死ぬ時だけ格好つけやがって」

ゆっくりと剣を持ち上げ、刃先をカリスの胸に向ける。


「せめて、内臓ごと砕いてやるよ。死んだあとで“立派だった”なんて言われたら、腹立つからなァ…」


剣が振りかぶられる。

その影が、血に濡れたカリスの顔を覆う。


だが―

一閃。風を切る赤い稲妻が、空間を裂いた。


視界がぐらつく。気づけば、グロイの剣は、黒髪の戦士により途中で止められていた。


「残念だったな。こいつを殺すには、お前はちょっと遅かった」

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