表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銀の伝承  作者: 銀の伝承
第四章「ザラハート王国編」
66/84

第65話「運命が交わる刻」

ザラハート王国。


王都全体が圧迫感に包まれていた。いよいよ彼らも出陣の時だったが、兵士たちは空を見上げ天を仰いでいた。


風が吹いていないにも関わらず、旗が揺れていた。まるで、何かがこの大気そのものを揺らしたように。


「しかし、あの感覚、なんだったんだ…?」

王女の側近たちも顔を見合わせ、誰一人として言葉にできなかった。

その時、門番の一人が慌てて駆け込んできた。


「報告ッ!西方より、旅人が二名!!」


「今、誰か来る……?」


「城門前に旅人二名、通行許可を求めています!…ひとりは、女性の魔導師。もうひとりは―剣を背負った戦士の男です!なんとも、ブリシンガーと言う男の仲間だとか……!」


ヤシーンの目が鋭く光る。

「すぐに通せ」


門番は思わず一歩退きながら口を開いた。

砂塵を伴って現れたのは、一人の金色の髪の女性と、長身の黒髪の少年。


バルダーとシスティーン。

どちらも衣服は旅の汚れをまとうが、ただの旅人ではないと誰もが直感した。


システィーンの歩みに合わせて風が巻き、バルダーの背には圧力のような覇気が立ち上っていた。

二人からは、ただならぬ力が発せられている。


「何者だ!」

鋭い声が広間に響いた。警備の兵たちが剣に手を掛け、魔力の気配が緊張感を孕んで立ち上がる。


だがその瞬間、システィーンが一歩前へ出た。

その仕草は丁寧でありながら、堂々とした威厳を湛えていた。


「驚かせてしまい、申し訳ありません。私たちは敵ではありません」

彼女の声はよく通る、澄んだ音色だった。

そして、フードを脱ぎながらゆっくりと頭を下げる。


「私は、システィーン・メイルフィと申します。グランヘイム王国より参りました、魔術師でございます。そしてこちらは―」


隣に立つ、黒髪の青年が口を開く。

「バルダー・ガインルフだ。俺達二人は、ブリシンガーという男の弟子だ」

その名が告げられた瞬間、広間の奥、側近の一人がわずかに息を呑んだ。


総督ヤシーンの表情にも、微かに驚きの色が浮かぶ。

「ブリシンガー……」

偵察班の報告から聞く、イシュカダル帝国内でよく出る名前―彼らが最大の脅威と見なしているであろう存在。


「先程、凄まじい魔力の存在を貴方がたは感じたはずです。私達はその力の主が誰かを知っています!彼らがどれほど恐ろしい存在を呼び起こそうとしているか、すでに答えが見え始めています!」

「お願いです。私たちの話を、どうか聞いてください。この戦いは、もはや一国の問題ではありません。世界の命運に関わるのです」


バルダーは一歩前に出る。

その無駄のない動作、剣を抜く気配すら感じさせぬ佇まいに、兵たちは警戒を強めた。だが彼は、丁寧に膝をつく。

システィーンもバルダーの隣に膝をつき、低く頭を垂れる。


騒ぎを聞きつけた兵が広間に集まる中、避難され、軍しか居ないザラハート王都の広場の奥の、玉座に座すザラハート王のアリ・ハザールがゆっくりと身を起こした。


その瞳には、威圧ではなく探るような静かな光が宿っていた。

「……話してみよ、旅の者たち。貴公らが我が城に突然現れた理由と、その“ブリシンガー”の名を語る真意を。貴公らの言葉に耳を貸そう」


ヤシーンが言葉を続ける。

「この気配、確かに“ただ事ではない”。私も先ほど、空気の揺れを感じていた」


王は深く頷くと、静かに告げた。

二人が立ち上がる。その姿には、誠実な意志と確固たる決意が宿っていた。


「私はグランヘイム王国の西側にある、ファルデン村を拠点として旅を始めました。彼バルダーは元々ヴァルハイト王国の戦士でした。そこで出会ったのが、ブリシンガー・ヴァルディアという戦士です」


再びざわめきが起こる。


「その名、イシュカンダル帝国内では、何度も出ている。“ブリシンガー”という人物を帝国が警戒しているという情報は、我々の諜報網にも届いていた。ただ、どの報告もその人物の正体や素性までは掴めていない」

王は静かに勲章を手に取り、重々しく頷く。


「敵が恐れる者……ならば、我も一先ず信じよう。語れ」


システィーンが一歩前へ出る。

「イシュカンダル帝国は、ミスリルを利用して大陸各地に魔力を集めています。それは兵器や国家の繁栄のためではなく―ある脅威の“復活”のためです」


「復活?」


「はい。かつてブリシンガーが命を懸けて倒した“災厄”―ガウレムという、強大な存在がいました。あの存在が、再び目覚めようとしているのです。その存在が、私達が今朝感じた大きな力の根源です」


広間にどよめきが走る。

ヤシーンが静かに口を開く。

「我がザラハートも、その魔の手に晒されているという訳か」


ヤシーンは続ける。

「それに対し、我々も応戦の準備を進めている。だがその最中、我らの間者―魔族のカリスが、帝国領内への偵察任務を買って出たきり、いまだ戻らない」

「彼もまた、人間と魔族の狭間に立つ者。己の信念のため、単身で帝国の城に潜入していった。そして―今朝の異常な魔力の波。それが何を意味するか……そなたたちの話と、あまりにも合致しすぎている」


王が玉座からゆっくりと立ち上がる。

「ブリシンガーの名に連なる者として、これより我らと並び立ち、力を貸していただきたい」


その時だった。

ズシンッ……!!!!

地が鳴った。


一瞬、全員が言葉を止める。振動が地面を確かに震わせた。

地面の砂がわずかに舞い、噴水の水面が揺れる。


「いまのは……地震か……?」

一人の兵が眉をひそめる。


「違う……!」

ヤシーンが真剣な表情をする。


「これは、戦いの衝撃だ。しかも尋常な戦いじゃない。まさか、カリス……!?」

周囲が一瞬静まり返る。誰もが、その名に息を呑んだ。


次の瞬間、バルダーが立ち上がる。

「俺が行く……!偵察に行ったやつなら、死なせるわけにはいかねぇ……!」


システィーンも即座に立ち上がる。

「バルダー、私も行く。あの魔力の揺らぎ……尋常じゃないわ。あれは、尋常じゃない戦闘」


バルダーとシスティーンの会話を聞いたヤシーンらは反応する。

「それなら今すぐ発とう。だが、ここから時間は多少かかる」


それを聞いた二人が真剣な表情で伝えた。

「俺達は高速で移動出来る。あんた達は大軍を連れてそういう訳にはいかないだろ?なら、身軽な俺達二人だけでも先に行って加勢してくる!」


ヤシーンが最初は躊躇した表情をするが、すぐに鋭い眼光で頷いた。

「わかった、だが我々もすぐに追いつく」


王が一言だけ頷いた。

「行け。今は一刻を争う。そなたたちの足に、我らの未来を託す」


バルダーはすでに跳び出ていた。

脚力を解放し、気配を察知するままに地上へ向かう。


システィーンは掌をかざし、風の光を纏いながらシスティーンは宙を翔けた。

その背には、魔法で作られた大きな天使のような羽が羽ばたいていた。


空を裂き、地を蹴って、二人の若き戦士が戦いの元へと向かっていた。


(すまねぇブリシンガー……三柱と直接対決するなという約束、守れそうにねぇ)


バルダーが額に汗を垂らしていた。

向かう先には、カリスが孤独に抗っている、黒煙と狂気の戦場が待っている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ