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銀の伝承  作者: 銀の伝承
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第51話「竜は笑う」

その姿は、炎のような赤と金の鱗をまとい、巨大な尾が山々を揺らしながら降りてくる。

まるで天を支配するかのように、悠然と空を飛びながら地に降り立つその姿。

圧倒的という言葉では足りない。

その存在感に、誰もが言葉を失った。


突風と共に降り立ったドラゴンはふっと視線をブリシンガーに向けた。

「貴様は…ブリシンガー。小僧、またここに来ることになるとはな」


“小僧”という単語にブリシンガーの眉毛がピクリと反応した。

「俺、多分お前より年上―」

「黙れ小僧!!」

その様子を見て、バルダーとドゥガルは思わず顔を見合わせる。

「まさか、ブリシンガーが小僧って言われるなんて」

初対面ではないように見えた二人。ドゥガルが恐る恐る二人に問いかける。

「お、お前たち、顔見知りなのか…?」

それを聞いたブリシンガーとドラゴンは同じタイミングで「初対面だ」と答える。

「フン、ドラゴン属でブリシンガー・ヴァルディアの名を知らぬ者などおらぬわ」

ドラゴンの声は低く、話す度に地面が響く程の迫力だった。

「伝説のドラゴン属の間で有名人なようで、誇らしいな」

少し皮肉交じりにブリシンガーがドラゴンを見上げて話す。

「安心しろ、4,000年前のガウレムの誕生―我はガウレム反対派だった。全てを力で無理矢理ねじ伏せて支配しようとする姿、愚かなり。だが我々反対している者は、彼の圧倒的な力で何も出来なかった。ブリシンガーよ、彼を退治してくれて感謝しよう」

「だが―」

彼の声が途端に更に低くなる。

「ここに来たからには目的は知っている。ミスリルだろう?貴様の剣はガウレムとの戦いで砕け散った」

「ああ、そうだ」

ブリシンガーは他に何も言わずに、静かに真剣な眼差しで彼に答えた。

「その金属は我々にとっても貴重なもの。やすやすと渡すわけにはいかん」

「そこでだ、貴様の強さを改めて知りたいのだ。ブリシンガーよ、ここを通れば確かにミスリルは存在する」

「だが、まずは我と戦え。ガウレムを倒した貴様だ。きっと実力は我の想像すらも超えているだろう。実際にこの目で見て体験したいのだ。我等ドラゴンすら超える、貴様の力をな」

その言葉が空を震わせるように響いた瞬間、空気が一変した。


先ほどまで軽口を交えていたブリシンガーとドラゴンの間に、静かだが張り詰めた緊張が漂う。

ドラゴンの眼が鋭く細められ、その巨大な体に宿る魔力が、徐々に空間に満ち始める。地面がかすかに震える

「こ、これは…!」

バルダー、システィーンとドゥガルはドラゴンの身体から漲る魔力に絶句した。

今まで感じた、どの力よりも遥かに強大だった。底が見えない真っ暗な穴を除いているような、底知れない圧が場の空気を支配した。

(この力…今までの連中とは、比べ物にならねぇ……!)

バルダーの手が震える。以前精霊の泉で戦った魔族二人と、グランヘイム王国の魔族を合わせても足元にも届かない。

まさに、他の種族を遥かに凌駕する、生態系の頂点。

ドラゴン一体で一つの国を安々と滅ぼせるのは間違いではないと、そう感じさせる。


ブリシンガーは無言で一歩前へ進み、振り返らずに三人に向かって言った。

「お前たちは、できる限り後方へ下がれ」

その声には、普段とは異なる鋭さと重みがあった。

「何重にもバリアを張れ。一瞬たりとも解くな。どれだけ守りを重ねても足りない。この戦い、お前たちを完全に巻き添えを喰らわない保証はない」

バルダーが一瞬だけ言葉を失った。

「…やべぇな」

ブリシンガーの周囲にわずかに金色の光が溢れ出していた。


バルダーとドゥガルがシスティーンを抱えて、魔力で脚力を強化した状態で二人が戦う広場を見下ろす崖まで高く飛び上がった。

システィーンは詠唱に入る。バルダーも今まで学んだ防御魔法を詠唱し、システィーンのバリアに追加の補強を入れる。ドゥガルは大きな斧を地面に突き立て、少しでも飛んでくる物を遮蔽出来るようにした。


ドラゴンが鼻息を一つ吐く。まるで山がため息をついたかのような音だった。

「フム…やはり、立派な戦士の目だ。ならば、遠慮は不要だ。来い、神の戦士よ。何千年を経た今なお、この地を震わせるほどの力を見せてみよ」

「望むところだ」

その言葉と同時に、地面が砕け、ブリシンガーの姿が一閃する。

瞬間、空気がねじれ、音が追いつかないまま視界から姿を消した。

システィーンたちがその動きを捉える暇すらなかった。まるで空間そのものを裂くかのように、風が逆巻き、空がうねった。

そしてその刹那。空高く、ブリシンガーの姿が現れた。

遥か上空、太陽を背にしながら拳を振りかぶるその姿は、まるで太陽神。

彼の身体を包むのは、金色の爆炎のごときオーラ。

「はッ!」

振り下ろされたその拳は、音速を幾重に超え、さらにその先へ。

風が千切れ、空気が焼け、大気の壁を貫く。

衝突。

拳がドラゴンの額に叩き込まれた瞬間、地面が唸った。

轟音。地響き。天地が崩れる。

その一瞬だけの行動でも反応が出来ていて、空を飛ぼうとしていたドラゴンの巨体が、まるで流星のように地上へ叩き落とされる。

幾重もの岩盤を突き破り、大地に深くめり込む。

爆発的な土煙とエネルギーの波が周囲に広がり、周囲が一瞬で吹き飛んだ。

丘の上から見守っていたシスティーンたちは、なんとかバリアで持ち堪えていたが、衝撃波に思わず腕で顔を庇った。

「なっ……!」

最初に声を漏らしたのはバルダーだった。

「今の…一撃で…!?あの巨体を…!」

「いや…待て…」

ドゥガルの声が、かすれた。

土煙の中から、巨大な影がゆっくりと、しかし確かに立ち上がってきた。

その姿は、ほとんど傷一つ見えない。

「嘘…あれほどの攻撃を受けて…無傷…?」

システィーンが信じられないというように呟く。立ち上がったドラゴンは、鼻息を一つ吐き、笑った。

「素晴らしい一撃だ」

口元が歪み、笑みが浮かぶ。

「小僧、貴様、手加減をしているな?竜を甘く見るなよ」


ドラゴンが地を踏み鳴らした瞬間、岩盤が砕け、地面ごと跳ね上がるようなエネルギーが炸裂する。それを見たブリシンガーの姿が再び閃光とともに空へとジャンプして舞い上がった。

だが、追いかけるように、強大な翼を羽ばたき、ドラゴンは空を裂いて飛翔した。

一回羽ばたいた瞬間、凄まじい衝撃波が発生し周囲の岩山が、まるで石粒で出来ているかのような勢いで吹き飛んだ。

数十メートルもあるドラゴンの巨体が、ブリシンガーを追いかけるように空へ向かっていた。

山脈を吹き抜けていた風が、まるで息を呑むように沈黙した。

大気が、彼らの存在を畏れて震えていた。

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