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銀の伝承  作者: 銀の伝承
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第23話「守った者、守られた者」

二人が周囲を警戒しながら進む。この場所は、霧の渓谷でも特に魔物が出現する頻度が高い場所のようだった。

だが、周囲を警戒するだけでは足りない。脅威は、足元からもやってくる。

ゴゴゴ……と、霧の谷の奥から、地の底を擦るような音が響いた。

次の瞬間、足元の地面が、わずかに震え始める。

「な、なに……!?」

「揺れてる……これは、地震―?」

次の瞬間、周囲の岩がボコボコと脈打つように動き出した。

足元の岩盤が割れ、霧を突き破って何かが立ち上がる。

大地がうねり、巨大な石の巨人が二人の前に姿を現した。

「ゴーレム……!?くそっ、こんな時に……!」

その身長は十メートルを超え、全身は苔むした黒岩に覆われていた。胸部にはかすかに古代文字のような紋章が刻まれている。

「まずい……!」

「バルダー、動ける!?」

「無理だ、逃げきれねえっ!」

ゴーレムが、鈍い唸り声のような振動を発しながら拳を構える。

山のような岩の塊が、ゆっくりと振り上げられた。

「来る……!!」

二人は反射的に身を寄せ合い、目を閉じた。

(これで……終わるの?嫌だ……まだ、何も……!)

ズシイイイイン!!!!

だが、その拳が落ちることはなかった。

凄まじい衝撃音が、場を裂いた。二人の目の前で、ゴーレムの拳は止まっていた。

岩の拳を、片腕で受け止めていた男がいた。銀の髪が揺れている。

茶色のマントが翻り、その背中はまるで壁のように二人を守っていた。

「遅くなった、すまない」

その低く、静かな声に、システィーンの目が見開かれた。

「ブリ……シンガー……」

バルダーは唇を噛みながら、微かに笑った。

「……ったく、ヒーローは……ギリギリに来るもんだよな……!」

ブリシンガーは答えない。ただ、ゴーレムの拳を受け止めたまま、もう片方の手をゆっくりと上げ―

「砕けろ」

その一言と共に放たれた拳が、ゴーレムの拳ごとその上半身を木端微塵に吹き飛ばした。

まるで雷鳴のような衝撃音が響き、霧の中に石片と風が舞う。

二人を脅かした巨大な脅威は、もはや存在すらしていなかった。

ゴーレムの巨体な下半身が崩れ落ち、霧の谷にようやく静けさが戻った。砕けた岩の破片が、かすかに転がる音だけが響いている。

ブリシンガーはその場に立ったまま、二人を振り返る。

「大丈夫か?」

その声は、いつもの冷静さを保ちながらも、どこかに心配の色を含んでいた。

システィーンは胸に手を当て、震えた声で頷く。

「……うん、でも……バルダーが……!」

ブリシンガーはすぐに彼へと歩み寄り、膝をついた。

バルダーの肩に深く残る傷を一瞥し、すぐに右手をそっと翳す。

「動くな。すぐに済む」

淡い金色の光が、彼の掌から溢れ出した。傷口に触れるようにして光が浸透し、切り裂かれていた肉がゆっくりと繋がっていく。

痛みが消え、熱が冷めていくのを感じながら、バルダーは目を見開いた。

「……すげぇな。これが……本当の回復魔法……」

「まだ少し痛むはずだ。無理はするな」

そう言って、ブリシンガーはバルダーから目を離さず、静かに続けた。

「……よく、システィーンを守ったな。お前がいたから、彼女は無事だった」

その言葉に、バルダーは一瞬目を丸くした。けれど、すぐに笑って首を振る。

「いや、違う。俺だけじゃねえよ」

システィーンが小さく目を見開く。

「……システィーンも、俺を守ってくれた。俺達が落ちている時、俺が倒れた時、雷でクロアを倒してくれたのも、応急処置をしてくれたのも……全部、彼女だ」

ブリシンガーは、その言葉を聞きながら、ゆっくりと彼女の方へ視線を向けた。彼女は恥ずかしそうにうつむき、けれど瞳だけはまっすぐにブリシンガーを見返していた。

「……ほんの少しだけ、頑張っただけです」

「……いや」

彼は静かに、そして確かに頷いた。

「十分すぎるほどだ。……よくやったな、システィーン」

その言葉に、彼女の瞳がふるりと揺れた。目尻に光がにじみ、それでも彼女は笑った。

「ありがとう……ブリシンガー」

胸の奥に溜まっていた不安と恐怖が、その一言で、ようやくほどけた気がした。

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