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銀の伝承  作者: 銀の伝承
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第1話「ヴァルハイト王国」

「クソッ!離せ!」

一人の男がいた。年齢は40代後半ぐらいだろうか。半裸の姿で強制的に鎧を着た兵士たちにレンガで出来た廊下を連行されていた。手首は縄で縛られており、兵士たちも彼が暴れないように押さえながら歩いていた。

「ええぃ!大人しくしろ!お前は死刑になることが決まったのだ!お前は人を殺しすぎた!」

そう、この男は街で噂になっていた連続殺人犯なのだ。噂によれば、多額の借金をギャンブルで溶かした後に、借り主から返済を迫られた後に惨殺。その家族や関係者まで手にかけたのだった。捕らえられた後の裁判で満場一致で死刑が決定し、彼は今からそれが行われる場所まで移動されていたのだった。


ここはヴァルハイト王国。大陸エアリンデルに存在する比較的小規模な国だ。歴史は浅いが、軍事力は高い武闘派な国である。この国では己の物理的な実力が物を言う文化があり、弱き者は人権が保証されない抑圧的な風習がある。

そんな王国で、民衆を楽しませる方法も過激だ。この男のように死刑が決定した者はコロセウムで戦士か魔法使いと戦わされる見世物として扱われる。貧相な、剣とはおおよそ呼べないナイフを片手に、重装備の戦士、或いは高度な魔法使いと戦わされるのだ。このコロセウムではこういった公開処刑以外にも戦士同士の訓練の場として機能しており、時には王国で最も強い者を決める頂上戦も開かれる。とにかく、強き者が栄光と権力を勝ち取るのだ。

そんな中、死刑囚の男の手首を縛っていた縄が解かれ、コロセウム広場に放り出される。中央には彼が取るべき武器である短刀が置いてあり、彼は渋々それを手に取った。観客は満席で、彼の登場と共に苛烈なブーイングが飛び交っている。

彼がその武器と呼ぶにはあまりにも頼りない短刀を手に取った瞬間。向かい側の鉄格子の門が開かれる。


そこには身長は軽く180cmは超えるであろう長身の男が登場した。年齢は不詳だが、見た目からして10代後半だろうか。真っ黒な髪の毛と、真っ赤だが感情を宿さない真紅の瞳が特徴的だった。彼は真っ黒なローブに身を包み、腰の左側にロングソードを携えていた。見た目からしても只者ではない。彼の周囲には目に見えない威圧的なオーラがあった。

「こ、小僧……!こ、これ以上近付くんじゃねぇ!こ、殺すぞ!」

死刑囚の男は涙目になりながらへっぴり腰で剣を構えていた。情けないという言葉はこういう時の為に作られたであろうと思わせるほど、男は哀れだった。

「来るなぁあああああ!!!!」

男は恐怖のあまり、涙と鼻水でグシャグシャになった顔のまま、執行者の男に向かって走り出した。少年は表情を一切変えず、ひたすら無表情のまま剣を抜いた。次の瞬間―


シャキィィィィィン!!!という鋭い金属音が会場を木霊し、眩い一閃が死刑囚の男の身体を縦に通過した。執行者の剣の一振りだ。常人ではとても目に終えない速度の斬撃は男の身体を真っ二つに両断した。両断された死刑囚の男の身体はバタンとマネキンだったかのように倒れた。

「うおおおおおおお!!!」

歓声がコロセウムに響き渡った。

「やっぱり、流石アイツだな……!ヴァルハイト最強の戦士なだけはあるぜ!」

観客の一人が興奮した様子で語る。この少年に実は名前は存在しない。故に呼び方は決まっておらず「執行人」や「漆黒の戦士」というあだ名で呼ばれることが普通である。どうやら幼少期から戦っていたようだが、王国の人間で彼の素性を知る者は少ない。民衆が知る彼はこうやって罪人を処刑する時や他の戦士との試合、戦争に参加した時に大きな戦果をいつも持ち帰ってくるということだけだ。戦う姿しか知らないのだ。

彼はもともと捨て子として何もない荒野を彷徨っていた。そんな中ヴァルハイトの兵士に拾われ、王国の戦士として迎え入れられた。だが、彼を待っていたのは人間らしい生活ではなく、幼少期から徹底的にありとあらゆる戦闘技術と魔法を叩き込まれたスパルタ教育だった。彼は王国の為に戦い、王国の興行の為に存在する機械だったのだ。故に名前は持たない。彼は負けることは許されず、敗北したら王国から捨てられるという過酷な運命のもとに育ってきた。故に感情を持たず、ただ相手を倒すだけの存在として君臨する。

「…………」

彼は常に仏頂面だ。他の戦士や罪人がコロセウムでいくら挑発しようとも、彼が怒りを見せることは一切ない。まるで戦う為だけに生まれた機械かのように、彼は淡々と剣を振るう。

「やはり、彼は優秀な戦士だな」

コロセウムの特等席からその様子を見ていたのはヴァルハイト国王であるゼノファレス。彼が鋼の拳でこの国を収めている。まだ小さい王国ではあるが、戦争を行う回数は非常に多く周辺国からは恐れられている。既に近隣の小さな国を手中に収めており、今後もより植民地を増やして規模を拡大していくつもりだ。


そんな王座から見ていた彼だが、横から側近が彼に耳打ちする。

「ゼノファレス様、ご報告がございます」

「何だ、教えろ」

「街中で不審な人物がいるという通報が先程ありまして、長身の大柄な男性が衛兵に捕らえられたとの報告がございます。どうやらパン屋で盗みを働こうとしていたとか、一人でブツブツ離しながら歩いていたとか……」

それを聞いたゼノファレスは口角が緩む。

「今日に続いてまたこの興行が見れそうだな」

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