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銀の伝承  作者: 銀の伝承
第八章「神域決戦編」
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第170話「ハルディヴァーを超えし者」

宇宙空間に、突如として光が生まれた。

それはいつもの金色ではない。太陽の輝きですら足元にも及ばぬ、宇宙のあらゆる闇を無効化する白光。

眩しさすらも超越し、存在そのものが光源となった男の姿だった。


纏っていた鎧は荘厳で神聖。

形状こそ中世の騎士のようでありながら、その表面は宇宙の摂理そのものを彫刻したかのような紋様で覆われていた。


その一線一線が、銀河を生み、星々を巡らせ、命を芽吹かせる創造の律。


彼の背には翼がある。

惑星一つを丸ごと包めそうなぐらいの大きさだった。

空間そのものが折り重なり、光を紡いで虹色の半透明の翼の形を成している。


一歩踏み出すたびに、宇宙の基盤そのものが彼の足元に道を創り出す。


そして何より、彼の瞳はかつてのブリシンガーのものではなかった。


人の憤怒でも、正義でもない。

すべてを背負ったその目は、もはや英雄ではなく全て者たちの希望そのものだった。


銀髪は腰まで伸び、光を帯びながら風もない宇宙空間に揺れている。

それは星屑の川。

その流れが通るだけで、周囲の時空が清められたかのように澄んでいく。


この姿こそ、第二の創造神ハルディヴァー。

ブリシンガーに託されたその欠片は、この瞬間に、彼を神格を超えた存在へと導いた。


しかし、彼の意思はなおブリシンガーのままだ。だからこそ、彼はただの神ではない。

破壊神ガウレムのように理の外側に生まれた存在すら、理ごと越える力を持つ、「理の外側を創り出す者」。


因果をも超越する再創造の力。


ガウレムは、宙に浮かび、白光を放つそれを見上げていた。彼の顔には、恐怖も怒りもない。ただ高揚と歓喜。

破壊神である彼が、初めて目にする創造の極み。全ての理を超え、神すら凌駕する存在。

彼は、喉の奥から湧き上がるように高らかに笑った。


「ハッ、ハッ、ハァーッハッハッハッハッハッ!!」


宇宙がその咆哮に軋む。星が震え、時空が揺れるほどの歓喜の笑い。


「見よ……見よ!これが、これこそが……!!」


漆黒の巨体が、翼を広げる。


「創造主すら超えし、真なる頂!それでこそ……それでこそ貴様だッ!!」


指を突きつけ、声が爆ぜる。


「それでこそブリシンガー!それでこそ、神に創られし戦士!それでこそ……我が生涯唯一の好敵手だ!!」


その眼には、崇拝すら混じっていた。しかし、狂喜の中で、彼はふと気付く。その光に、僅かに宿る儚さを。


「……だが、貴様のその姿。長くは保たぬだろう?」


静かな、しかし明確な事実。その問いに、ブリシンガーは静かに、穏やかに、頷いた。


「……ああ」

彼の声は、透き通っていた。


「これは……俺の命と引き換えに辿り着いた姿だ」

「創造神ハルディヴァーが託した“神の欠片”。その最後の力を、今この一度きりに、全て賭ける」

「この姿で……すべてを終わらせる」


ガウレムは、咆哮した。

それは宇宙創世の初音に等しく、万象を震わせる咆哮。


破壊神は、両腕を天に掲げる。

全身から暗黒と紅雷を混ぜ合わせた世界崩壊の魔力が膨れ上がる。


「見せてやる……我こそが因果の外より来たる破壊の権化!理の頂より降る、全ての終わりそのもの!!」


その背後、空間が千の層に分裂する。

一層ごとに違う宇宙の記憶が走馬灯のように映り、砕け散っていく。

それを“砲口”とし、放たれた一撃。


「アナイアレイション・ゼロ!!!」

宇宙の理そのものを押し潰す一閃。光でも闇でもない、概念の奔流。

当たった瞬間に、存在という存在は「無」へと還る。


だが。その全てをブリシンガーは、ただ、片手を、静かにかざしただけだった。


「……」

何の力も入れていない。ただ、空間の一部に手を伸ばしたかのような、無垢な所作。

ガウレムの技が消えた。


消滅ではない。無効化でもない。概念すら否定されたのだ。宇宙の運命にすら等しい破壊の奔流がただの風と同じ存在になった。


「なっ―!?」


そして次の瞬間。

「―がッ……!」


驚愕する間すら与えられなかった。

彼の胸部に、見えざる衝撃が炸裂した。


ズドン、とも、グワンとも形容できない音と共に、目には見えぬが絶対的な衝撃波が、ガウレムを貫いた。


直後、太陽系が消し飛んだ。

水星、金星、地球、火星、天王星、海王星全てが、衝撃で一瞬で消し飛んだ。太陽系という概念そのものが、白い閃光と共に無となった。


だが、まだ終わりではない。

ガウレムの巨体が、その衝撃波に貫かれ、銀河を突き抜けた。


銀河そのものが、真っ二つに裂けた。


暗黒の宇宙に、真白き光の裂け目が走る。幾多の星々が崩れ、ただその光の余波に飲まれた。


遥か彼方、銀河の果てにまで吹き飛ばされたガウレムは、なおも崩れきらぬ巨躯を震わせながら、静かに呻く。


「……ハァ……ハァ……ッ。なん……だと……」


彼は、初めて恐怖という感情を抱いていた。破壊神である彼が終わりを感じていた。


対するブリシンガーは、何も言わず、ただ静かに空に浮かんでいた。


「……フ、フフ……ハ……ハハハ……」

「ハハハ……アハハハハハハハハハハハハハハァッ!!」


劣勢になってもなお歓喜の色を帯びた哄笑。


「もはやどうでもいい……!神を超えしこの身体も……、世界の理を超越するこの力も……!」


顔を上げたその瞳に、竜としての威厳も、神としての矜持もなかった。

ただ、紅蓮のように燃え盛るひとつの執念だけが宿っていた。


「私は、ガウレムは……!」


宇宙の深奥で、咆哮する。


「もう、頂点などいらぬッ!!神を超えたなどと、もうどうでもいいッッ!!」


両の腕を広げ、彼はその巨体を無理やり立ち上がらせる。


「この魂が、この渇望が、叫んでいるッ!!たった一人の、ブリシンガーッ!!貴様だけだ……この私の前に立ちはだかる、“唯一”!!」


かつて世界の頂にいた竜。

誰よりも誇り高く、誰よりも強く、誰よりも孤独だった存在が、今やその全てをかなぐり捨てて、一人の戦士に勝つことだけを目的にしていた。


「……この命、全てを燃やしても構わんッ……!!私はッ!貴様に……勝つ!!!」


彼の背後に、無数の魔法陣が咲き乱れる。それは天球のごとく回転し、星の軌道すら狂わせる魔力の渦。崩れかけた翼が再構築され、尾が刃のように鋭利に変容していく。


「ブリシンガァアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」


竜を超え、神を超え、それでもなお「ただ一人に勝ちたい」と叫ぶこの存在こそガウレムという怪物の、最も純粋な姿だった。


その巨躯は加速する。ブリシンガーへの、最後の突撃が始まった。

並の宇宙ならば一瞬で崩壊するであろうその攻撃群が、怒涛の勢いで殺到する。


「………………」


ブリシンガーは、一歩も動かない。

まっすぐ、ただその蒼い瞳でガウレムを見据えていた。

全ての魔法が、光に触れた瞬間、音もなく、痕跡も残さず消えた。


「……何……っ?」

ガウレムの目が見開かれる。


魔力の奔流が、雷鳴の咆哮が、神を討つと謳われた禁忌の呪文が何も起こらなかったかのように空間から消滅していた。


「馬鹿な……っ!!」


さらに新たな攻撃。それでもブリシンガーは、ただ右手を軽く上げるだけだった。

その瞬間、すべての攻撃や行動が概念ごと破壊された。


魔法陣が砕けるのではない。その魔術が存在したという事実そのものが消え失せた。


「な、なぜだ!? なぜ……!?」


ガウレムの表情に、初めて恐怖が浮かぶ。

進化の果てに手にした神すら砕く力が。目の前の男の前では、無に還される。


「理解不能か?」

ブリシンガーが、静かに口を開いた。


「これは、無効化ではない。創造によって上書きしている」

「お前が理を超えたなら、俺はそれを定め直す側に立った」


「……っ!」


「その技がいかなる絶技であれ、お前がいくら世界の外側に存在していても、俺がその外側の全ての編集者である限り、お前の力は存在できない」


彼は一歩、虚空を踏む。


今の彼は「ゼロ」そのもの。

全てを消し去り、創造する概念を越えた存在。


例え無限でも、それを超える存在だとしても、その掛ける対象が「ゼロ」の場合は全て無と帰す。

全ての法則、更にその外側の概念ですらも、彼の手足の延長上に過ぎない。


ブリシンガーが静かに語る。


「次は、こちらの番だ」

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