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第十一章 狂気の廃墟と虚構の戦場

廃墟ビルに、男の喜びの声が響く。


気絶していた男は、その声で目を覚ます。ぼんやりと周囲を見渡す。


ああ、そうだ……鈴木を脅した後、変な服を着た金髪の男にやられて、それから記憶がない。


手を見ると、血がべっとりとついている。

「なんだこれ……」と、我に返る。


血の流れを辿ると、そこにはナイフで自分の身体をズタズタに切り裂いた男が倒れていた。

「おーい、お前、何してるんだよ!」

焦る声と共に、男はスマホを手に取る。早く助けを呼ばなきゃ。


遠くから、声が聞こえる。

「おーい、お前ら!助けてくれ!」


声の方向へ駆け寄ると、そこには異様な光景が広がっていた。


一人は喜びに満ちた表情で、壁に頭突きを繰り返している。頭からは血が流れ落ちる。

残りの二人は、喜びながら互いにプラズマナイフを振り回し、切りつけ合っている。


「わああああ!」


狂気に満ちた歓声が、廃墟ビルの中でこだまする。

街中に反射しサイレンが光った



♦︎


薄暗い取調室。机の向かいには、鋭い目を光らせる冷静で美しい赤髪のカレンが座っている。


「……で、お前が見たものってのは、何なんだ?」


男は手を見つめ、震える声で答える。

「あ、あれは……狂気……いや、何か……」


カレンは静かに前に身を乗り出す。

「もっと具体的に。できるだけ詳細に話してくれないと、わからないわ」


ガラス越しにシロウが黙って話を聞いている。


その時、取り調べ室のスライドドアが静かに開いた。

颯太が入ってきて、声を少し震わせながら口を開く。

「シロウさん……昨夜の事件で、僕の学校の生徒が被害者って……本当ですか?」


シロウは静かに頷き、事件の概要を語る。

「被害者は五人。

一人は自分で体を切りつけて死亡。

二人は互いに切りつけ合い、重症でまだ意識が戻らない。

最後の一人は、壁に頭を打ちつけ続け、精神的に不安定な状態だ」


シロウは颯太を見つめながら問いかける。

「君はこれをサイバーヴァンプの仕業だど思うか?」


颯太が言う。

「いままでの彼らの行動は、一般市民の命を奪ったことはありません。今回の件が、そもそもサイバーヴァンプ以外の仕業かもしれない……見つめ直す必要があるかもしれません」


ガラス越しに、カレンの怒鳴り声が響く。

「その場にいた人間は、他に誰がいたんだ!」


男は声を震わせながら答える。

「男で……髪の毛は金色、目の色は鮮やかなグリーンだった。後変な服装で喜と書かれていた。」

男は必死その日をことを思い出す

「あー! あともう一人、俺たちと同じ学校の…名前は確か…」

次の瞬間言葉が途切れ、力抜かれたように男は顔を強く伏せる。徐々に男は天井を見上げ、次第に表情が狂気じみていった。

そして、かすれた声で笑い出す。


「ははは……ははははは……!」


笑い声は次第に大きくなり、取り調べ室の静寂を破る。

颯太もカレンも、思わず息を飲む。


「……どうした、落ち着け!」

ガラス越しでみてた颯太もシロウも、思わず息を飲む。


「緊急班、ただちに対応を――」

カレンが無線で告げると、医療班が取調室に駆けつけ、男を別室へ運んでいった。


カレンは取調室を出て、シロウと颯太のもとに駆け寄る。

「……一体、何なんだ、本当に……」

苛立ちと戸惑いが混ざった声だ。続けて、彼女は問いかける。

「シロウ、一体どう思う?」


シロウは顎に手を当て、眉間に皺を寄せて考え込む。


「今のサイバー技術は、便利さや兵器として進化してきたものがほとんどだ。でも、もしかしたら心理操作までできる新しい技術が出てきたのかもしれない。現場の異常行動には、何かしらパターンがある気がするんだよね。もしかすると、サイバーヴァンプ以上の強敵が動いているのかもしれない」


少し間を置いて、シロウは軽い笑みを浮かべ、ふざけた口調で付け加える。

「まあ、あくまで仮説だけどねー」


カレンはシロウのふざけた口調にため息をつく。颯太は二人のやり取りを微笑みながら見つめ、軽く頭を下げて言った。

「カレンさんもお疲れですね」


シロウは一瞬だけ軽く笑った後、表情を真剣に変え、颯太を見つめる。

心の中でそっとつぶやいた。

(あの男は最後に、『同じ学校』って言ってたな。颯太くん、気をつけるんだぞ)


颯太はカレンと話してた、二人の会話に微笑みを浮かべたまま。

シロウは颯太の背中を見つめていた。  




♦︎


みさきは椅子を引いて立ち上がり、声を張った。

「じゃあ――今回のバトルステージの作戦会議、始めるよ」


俺と雫は、やる気のない声をそろえて返す。

「はーい……」


ファミレスのテーブルに並んで座りながら、ふと思った。

最近になって分かったのだが――雫は学校内でも女子の中で群を抜いていた。

身体能力、戦闘能力、どちらも授業ではトップクラス。


……まあ当然か。定期的にバケモン相手に命懸けで戦ってるやつにとって、学校の授業なんて甘すぎる。


「じゃあ私は――」

みさきが資料を取り出し、いつもの調子で淡々と説明を始める。

過去のバトルステージのデータを分析した内容らしい。

どうやら、案外こいつは努力家らしい。


俺と雫はというと……相変わらずぼんやり聞き流していた。


夕方になった頃、雫が席を立つ。

「じゃあ私、帰るから。……頑張ろうね」


そう言い残して去っていった。


――頑張ろうね?

雫の口からそんな言葉が出るなんて、正直驚いた。


「みさき」

俺は隣の彼女に声をかける。

「俺たちも、そろそろ帰ろうぜ」


ファミレスを出て、俺はみさきに別れを告げた。

「今日はありがとう。まあ、なんとかなるでしょ」


街の大通りを歩いていると、

「CYBER ARCADE」

とホログラムで浮かび上がる看板が目に入る。ガラス張りの建物の内部には、まるで別世界のような光景が広がっていた。


俺は自然と足を止め、吸い込まれるように中へ足を踏み入れる。


扉が開くと同時に、電子音と歓声が混ざり合った熱気が体を包み込む。薄暗い室内の壁一面には、LED広告が躍動的に切り替わり、プレイヤーの華麗な勝利シーンを映し出している。


通路を歩くと両側にはUFOキャッチャーがずらりと並び、どこか懐かしさもあるが、筐体の上には立体映像が浮かび上がり、景品が宙に飛び出すように見える。奥に進むと、ホログラムシューティングゾーンが広がっていた。


立体映像の敵が四方八方から襲いかかり、プレイヤーたちは光線銃を構えて次々と撃破していく。観客は手首のバンドを操作し、試合の難易度を上げたり、応援エフェクトを送ったりできる。どうやらこの世界では今、大人気のコンテンツらしく、生中継で動画サイトにも配信されているようだ。


近くで、フードを被り首にヘッドホンをかけた一人の女の子が、集中した表情でプレイしている。周囲には観客の群れが取り囲み、歓声と応援エフェクトの光が入り混じっている。


女の子の手元は驚くほど正確で、敵の攻撃をかわしながらも、一体一体を確実に撃ち抜いていく。

光の軌跡が次々と炸裂し、画面の敵は鮮やかに消えていく。


悠人はその光景をじっと見つめ、思わず息を呑む。

「……すげぇ……本物の戦場みたいだ」

最後の一体を撃破終わると観客が盛り上がった。

フードの女の子が言う

「喉乾いた」

飲み物を買い行く。彼女のプレイが終わると周りの観客も散ってた。悠人は言う

「ちょうど学園祭の本番も近いし慣らしするか。スカウターも使ってみるか。」



難易度は「おまかせ」にした。どうやら、おまかせを選ぶとAIが自分の力量に合わせて敵の強さを調整してくれるらしい。


「未来が見えるスカウター……使うのは反則か? でも本番も近いし、そんなことも言ってられないな」

悠人は片耳にスカウターを装着した。


立体映像の敵が四方八方から出現する。悠人はスカウターの情報を頼りに慎重に狙いを定め、最初の敵を撃破。すると画面に次の攻撃パターンが次々と表示される。


「なるほど……予想以上に動きが速いな」


悠人は敵の軌道を読みつつ連続でヒットを決め、立体映像の敵は光の軌跡を残して次々と消えていく。周りの観客がどんどん集まり、歓声と応援エフェクトの光で空間が華やぐ。悠人はゲームに集中しすぎて、その熱気には気づいていなかった。


最後の一体を倒した瞬間、画面に「CLEAR」の文字が大きく輝き、観客から拍手と歓声が巻き起こる。動画サイトのコメント欄も盛り上がり、ランキングが表示されると――なんと悠人が一位になっていた。


「……え、俺、一位?」

恥ずかしそうに後ずさりしながら、悠人は近くの観客に声をかける。


「あ、あの……このランキング、一位ってすごいんですか?」


観客は笑いながら答えた。

「坊主が選んだ難易度はおまかせだろ? あのモード、連続キルすると一気に最高難易度に上がるクソ仕様なんだよ。坊主は一回もミスしてないからな」


観客はまだ興奮冷めやらず、熱気でざわついていた。

「一位きたぞ!」「坊主やるなぁ!!」


奥から低くため息まじりの声がした。


「……ちょっと何、この馬鹿騒ぎ」


フードを深く被った女の子が、人混みを押し抜けて進んでくる。

「ちょっと、どいて」

男たちが道を譲ると、その少女と俺の視線がかち合った。


雫とはまた違うタイプ――特徴的な青色の髪、少し口下手そうな空気をまとっているが、透明感があって顔立ちは整っている。


彼女は一瞬だけ俺を見て、わずかに目を見開いた。だがすぐに視線をそらし、スコアボードをじっと見上げた。


周囲からヤジが飛ぶ。

「おい蒼空ソラ! お前のスコア、越されたぞ!」

「一位の座、奪われちゃったなぁ!」


観客たちの笑いとざわめきが混ざる中、蒼空ソラは無言でスコアボードを見つめる。

ほんの一瞬、口元がわずかに動いた。



「……なんでここにあなたがいるのか知らないけど。いま一位なの、悠人?」

そして、ちらりとこちらに目を向けて呟いた。


「えっと……俺たち、どこかで会いましたっけ?」

戸惑いながら尋ねる俺。


ソラは少し目を伏せて、小さく吐き捨てるように言った。

「私、あなたとは関わりたくないから」


だが、そのあとほんのわずかに声の調子が変わる。

「……でも、元気そうでよかったわ」


それだけ残し、ソラは背を向けて去ろうとした。

周りからヤジが飛ぶ。

「おい、逃げんのかよ!」

「ここで戦えよ! どっちが本物の一位か決めろ!」


その声に、蒼空ソラはぴたりと足を止めた。

背を向けたまま、わずかに肩が震えている。


やがてゆっくりと振り返り、俺をまっすぐ見つめる。

その口元は、子供みたいにむくれたように膨れていた。


――逃げると言われるのが、よほど気に入らなかったらしい。


ソラは一歩前に出て、低く、しかしはっきりと告げた。

「バトルモードで、どっちが一位か決めましょう」


一瞬の静寂。

だが次の瞬間、観客たちが大きく沸き立つ。


「うおおおおー! そうこなくちゃ!」

「やっぱ蒼空引かねぇな!」

「面白くなってきたぞ!」


熱気はさらに高まり、俺と蒼空を取り囲むようにして観客の輪が狭まっていった。


俺と蒼空はそれぞれの定位置に立った。

周囲の観客の歓声が耳に届くが、気にせず目の前のスクリーンに集中する。


「……どうやら、バトルモードは仮想空間に飛ばされるらしい」


体がふわりと浮く感覚に襲われ、目を開けると、現実の街の景色は消えていた。

目の前に広がるのは、巨大なステージ――暗く冷たいコンクリートの壁、無数の水門と排水路が複雑に入り組む空間。天井は高く、床から天井まで柱が連なっている。光のグリッドが床に無限に続いているかのように輝く。


空中には立体映像の障害物や浮遊する足場が点在し、光の帯が鋭く交差する。まるで現実とゲームの境界が溶けたかのようだ。


蒼空も同じ仮想空間に立っていた。フードの影から覗く鋭い青い瞳が、冷静にこちらを見据える。

お互いを見つめ、わずかに頷き合ったその瞬間――


バトルモードが正式に開始された。


周囲の観客の声や実況は仮想空間でもはっきり届き、電子音と歓声が重なり合って戦場の緊張感を一層高めている。

「今回のバトルモードは、単純なタイムアタックや撃破数競争じゃない。相手の体力ゲージがゼロになったら勝ちだよ。ステージには敵も出現して、敵を撃破するごとにポイントが加算される。連続ヒットや特殊コンボでボーナスもある」


悠人は軽く頷いた。

「なるほど……逃げ続けてもダメってわけか」


AI実況者は続ける。

「最初に、3枚のカードを選んでもらうよ。特殊アイテムとして使えるんだ。でも相手も同じ条件で使えるから、駆け引きが勝負を左右する。気をつけてね」


「じゃあ、カードを選んで」


目の前に、100枚ものカードがずらりと並ぶ。悠人は目を見開いた。

「おいおい……これ、全部読んでる暇ないぞ……しかも制限時間30秒じゃねーか!」


慌ててカードをめくってみるが、結局最初の10枚しか目を通せない。

「ダメだ……」


仕方なく直感で、3枚をぽちぽちと押した。


「……終わった……」悠人は思わず深いため息をついた。


AI実況者声がステージ上に響き、同時に観客の盛り上がる歓声が耳に飛び込む。

「準備はいいか――?」


頭上の巨大モニターには、生放送のコメントが流れ、世界中の視聴者の反応がリアルタイムで見える。


そして――


「レディー、ファイト!」


実況者の合図とともに、ステージが震えるように光りだした。悠人はカードを握りしめ、ステージ上の蒼空をじっと見据える。


蒼空もフードの影から鋭い青い瞳を光らせ、悠人をまっすぐに見返す。


スタートと同時に、悠人は柱へと駆け出した。蒼空は手元で二枚のカードを展開する。一枚目は二丁拳銃、二枚目はスピードアップだ。


蒼空は柱を蹴り、二丁拳銃の連射で悠人を狙う。壁や柱を飛び回り、仮想空間内を縦横無尽に動くその速度は、未来予知をも無力化するほどだった。悠人は思わず呟く。


「こいつ、スカウターの存在、知ってるのか……」


同時に、ステージ内に現れた立体映像の敵も巻き込み、仮想空間全体は光と弾丸の弾幕で覆われる。


「くっ……!」悠人はスカウターを頼りに、ぎりぎりで光の筋をかわす。「くそ……速すぎる!」


スカウターの表示が赤く点滅し、悠人の予測線も追いつかない。未来予知がわずかに遅れ、弾道を見切る間もない。


蒼空は空中で体をひねりながら二丁拳銃の連射を続ける。柱を壁に見立てて蹴り飛び、ステージ全体を駆け巡るその姿は、まるで光の流れを切り裂くかのようだった。


気づけば、体力ゲージは半分減っていた。


悠人は息を整え、ゲージをチラリと確認する。


「もう半分か……」


蒼空の弾幕で、思った以上にダメージを受けていた。しかし、焦るわけにはいかない。ここで慌てて動けば、蒼空の狙撃に一発で当てられてしまう。カードの効果が切れるまで待つしかない。


柱の影に身を潜め、悠人は状況を見極める。蒼空は空中で滑るように移動し、二丁拳銃の弾幕を乱射し続ける。まるで光そのものが攻撃しているかのようだ。


「考えろ……」


悠人は柱の陰に身を潜め、脳内CADで仮想空間の全体を解析し始めた。光のグリッド、浮遊する足場、立体障害物の配置を瞬時に把握する。弾道、蒼空の動きの軌跡、敵キャラの出現パターン――あらゆるデータを重ね合わせ、最適な行動ルートを割り出す。


「くそ……ここからどう動けば、弾を避けつつ反撃できる……」


悠人はスカウターを通して蒼空の動きを予測する。しかし、蒼空の速度は常識を超えており、未来予知ラインがわずかに遅れる。通常のCADルートでは間に合わない。


「待てよ、敵と環境をうまく使えば……」


閃いた悠人は、柱や光の足場を利用して一時的な遮蔽と反撃ポイントを組み合わせる戦略を描く。敵の弾幕を誘導しつつ、カードの使用タイミングも計算に入れる。


「ここだ」


悠人は深呼吸し、脳内CADで算出した最短ルートに沿って動き出した。柱と光の足場を巧みに踏み、敵の弾幕を誘導するように位置取りを変える。立体映像の障害物を盾に、蒼空の連射をぎりぎりでかわす。


「反撃のチャンスができた」


ステージの構造と敵の動きを完全に把握した悠人は、カードの使用タイミングも計算済みだ。残りの体力ゲージを見ながら、一瞬の隙を狙う。


蒼空は空中を滑るように移動し、二丁拳銃の連射を止めない。その速さに悠人のCADでも限界が近い。しかし、柱や浮遊足場を使うことで、わずかに安全圏を確保できる。


「……よし、これだ」


悠人は心の中で小さく呟き、ついにカード一枚目を発動した。


青い光の球体が悠人の周囲に現れ、瞬時に堅牢なシールドバリアを形成する。蒼空の二丁拳銃の連射は弾かれ、火花を散らす。


悠人は息を整えつつ、ステージ全体の状況を冷静に分析する。柱や足場の接続部分、光のグリッドが微かに歪んでいる箇所――蒼空が飛び回るたびに、地形の一部が脆くなっていることを確認する


「……ここだ」


悠人は意識を集中させ、チャージショットを解き放つ。

放たれた光弾は一直線に飛び、柱と柱の接合部を直撃した。


次の瞬間――轟音と共に巨大な柱が崩れ落ちる。

連鎖するように足場も次々と砕け、岩なだれが

蒼空を襲った。


観客の盛り上がりと、ステージ上のコメント欄の熱気が目に入る。

悠人は小さく息を吐いた。

「勝ったか……?」


柱が崩れ、煙が立ち上る。ヒリヒリとしたオーラが、こっちに向かって迫ってくる。この感覚……神楽とカレンが病院の廊下でぶつかり合ったときのオーラに似ている。煙の中に青い瞳が光った。明らかに怒りに満ちている。その視線は、ホワイトタイガーが獲物を狙うかのように悠人を射抜いていた。


徐々に煙が晴れ、蒼空の姿が浮かび上がる。片手にはハンドガンではなく、鋭く研ぎ澄まされた槍が握られていた。まるでホワイトタイガーの爪のように獲物を捕らえるために作られ、蒼空自身のオーラと同化して威圧感を倍増させている。振るうたびに光の尾を引き、空中で旋回するたびに槍先から青白い閃光が飛び散る。


悠人はルールを思い出す。敵を撃破するごとにポイントが加算され、連続ヒットや特殊コンボでボーナスもある。くそ……あの二丁拳銃の弾幕で敵を倒したときのボーナス武器か。


悠人は即座に確認する。蒼空の体力ゲージは、赤ゲージにまで減っていた。


その瞬間、蒼空は最後のカードを使った。ホログラムカード――最初は三体だった分身が、瞬く間に五体、さらに十体に増殖する。


蒼空の声が、煙の中から響く。

「第二ラウンド、開始ね」


蒼空の分身が舞い上がり、悠人を取り囲むように空間を埋めていく。槍を握った本体とホログラム分身が同時に旋回し、光の尾を引きながら迫る光景は、まるで十頭のホワイトタイガーが一斉に獲物を狙うかのようだった。


「ど、どうする……」


残っているカードはあと二枚。は一枚使うしかない――大煙玉だ。説明には「一定時間ステージ全体を煙で覆う」(能力が弱いためあと二回使えます)と書いてある。カードを使いステージ上が煙だらけになった

悠人はとりあえず柱の陰に逃げ込み、次の一手を考えた。


そして、もう一枚のカードの効果を読み込む。――もしかしたら、このカードを使えば勝てる可能性があるかもしれない。悠人の中で、小さな希望の光が見え始めた。


だが、悠人に考える暇を与えまいと、煙の中から蒼空の分身たちが襲いかかってくる。

悠人はすぐさま二度目の煙玉を使用。さらに視界を奪い、スカウターの解析を頼りに一体、また一体と分身を撃ち抜いていく。


槍の斬撃を紙一重でかわしながら、反撃の弾丸を叩き込む。

肩を裂かれ、脇腹をかすめられながらも、必死に分身を削り取っていく悠人。


煙が薄れ始めたとき、残っていた分身は十体から四体にまで減っていた。


「……やっと、ここまで削ったか」

だが悠人の額には汗が滲み、体力ゲージは黄色。


悠人は迷わず、最後の煙玉を切った。


「……どいつが本物だ」


白煙が再びステージを覆い、視界を遮る。だが悠人のスカウターがかすかな軌跡を映し出す。

襲いかかる分身――悠人は華麗に槍の一撃をかわし、ハンドガンで撃ち抜いた。

二体目も同じように制圧したが、反応が追いつかず肩を裂かれる。それでも歯を食いしばり、三体目を撃ち倒した。


残るは一体。煙の奥から蒼空の声が響く。

「お互い……あと一発でゲームエンドだね」


その瞬間、悠人は声のする方向へ引き金を引いた。

蒼空は迫る弾丸を数発撃ち落とし、さらに槍で弾を弾く。


「マジかよ……!」悠人が唸る。


静寂。煙の中、互いの気配だけが張り詰めていた。

そして、煙がわずかに晴れたとき――悠人の腕が先に伸びる。


「もらった!」


だが、蒼空は反射的に槍を突き出した。

悠人は咄嗟に最後のカード《タイムディストーション》を発動。

世界がわずかに歪み、蒼空の動きが遅れる。


「これで終わりだ……!」悠人は引き金に指をかける。


そのとき――蒼空の瞳が赤く染まった。


「なっ……お前……サイバーヴァン……!」


次の瞬間、時間の遅延をものともせず、槍の穂先が悠人の胸を貫く。実況の声が響く。

「勝負ありっ!!」


現実世界に戻された俺は、仰け反るように尻餅をついていた。

肩で息をしながら周囲を見回すと、観客たちが歓声を上げている。

「うおおおお!」「最高だぜ!!」

その熱気が肌に突き刺さる。


スクリーンには、勝者の蒼空の姿が映し出されていた。

堂々と槍を構えるそのシルエットに、会場のボルテージはさらに上がる。


「……あともう少しだったのに」

俺は悔しさを噛み殺す。


すると蒼空が歩み寄り、無言で手を差し伸べてきた。

一瞬迷ったが、その手を取る。蒼空は軽々と俺を立ち上がらせる。


「ナイスファイトだったよ、悠人」

真正面から放たれる笑顔に、観客の歓声がまたひときわ大きくなる。


その直後、スクリーン上のランキングが切り替わった。

蒼空の名前が再び一位に躍り出る。

歓声がさらに膨れ上がる中、蒼空はふっと俺の顔を見やり、勝ち誇ったように口元を歪めた。


「へっ……」


挑発めいたその表情を残して、蒼空は背を向ける。

俺は胸の奥でざわつきを覚えた。――あの瞬間、蒼空の瞳が赤く染まっていた。


「そ、そうだ……蒼空!」


思わず声を張り上げる。


振り返った蒼空は、一瞬だけ沈黙した。

そして冷ややかに言い放つ。


「あなた……噂通り。何も覚えてないんだ」


その言葉を残し、蒼空はステージの奥へと歩き去っていった。

そのバトルは、動画サイトを通じて世界中に生中継されていた。

コメントが滝のように流れ、視聴者たちが熱狂する。



♦︎



その中で――画面にかぶりつくように身を乗り出している、小さな悪魔の姿があった。


喜怒哀楽を司る四体の悪魔のうち、「哀」を象徴する存在――ラース。

スクリーンに映る悠人の姿から、目を離そうとしない。


「あーっ! 映像で見た男の子だ!」

ラースはぱっと立ち上がる。

「よし、今すぐ会いに行くぞー!」


隅のソファで寝ていたガーディアンが、びくりと飛び起きる。

「は、はいっ!? い、今からですか!?」

慌てて靴を突っかけ、ラースの後を追いかけた。


こうして――ラースの「ゲームセンター生活」が幕を開けるのだった。


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