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第12話 あなたに仕えます

「うむ……。これは……なんと、いうか……」


 エクイテスさんの目が、右へ左へ泳いでいる。

 いまの感情がわからないというか、言葉を探してるというか……。

 そんな印象の所作。


「……美味しいですか?」

「あ……うむ。美味しい……という感覚かもしれないな、これは。頬の内側が疼いて、きゅう……と勝手に萎む」

「それは『美味しい』ですよっ! わたしも……あ、いえっ、人間みんなそうなりますからっ!」

「ふむ……そうか。まだ貰ってもいいか?」

「もちろんです、どうぞっ! はいっ……あーん!」

「あ、あーん?」


 口を縦に広げたエクイテスさんへ、指でつまんで食べさせてあげる。

 正直、ちょっと楽しい。

 身長差あるから、軽くつま先立ち。

 軽く屈んでもらえるとうれしいけれど、この人は、その背後にある巨大な世界樹の一部……あるいは分身、化身。

 女性への接しかたを知らないのは、無理もなし。

 樹木ってまず、屈むことないですし……。

 ところでお食事をするのなら、やっぱりテーブルが欲しいかしら?

 エクイテスさんを着席させて、わたしは給仕。

 そばに立ってお食事が終わるのを見守り、そしてたまには一緒に……なんて。

 でも、この聖なる丘へ立ち入れるのは、世界樹警邏隊の人たちが出動するとき以外、基本わたしだけ。

 だとすると、テーブルも椅子も、抱え上げてくるのはわたしということに……。

 ……………………。

 や、やっぱりなくてもいいかも。

 アハハハ……。


「……ふむ。人間の食事……悪くない。いまの俺の姿、やはり人間の感覚を備えているのだろう」

「あのぉ……。もしかしてエクイテスさん、元は人間だったり……しますか?」

「それはない。俺は自我を持ち始めたころから樹木だ。この姿を創れるのは……人間たちの信仰心が、あるがゆえだな」

「信仰心……ですか」

「人間には古来、巨大なものを崇める習性がある。巨石信仰、巨山信仰、そして……巨樹信仰。人々からの敬い、畏れ、そして信仰対象との対話を望む想いが、こうしておまえと話せる体を創っている」

「へええぇ……。それじゃあエクイテスさんって、神様みたいな存在なんですね。と、いうことは……神様に仕えているわたしは、もしかして……聖女っ!?」


 聖女。

 この世に神話はいくつかあるけれど、そのほとんどに神様からの宣託を承る伝言役……聖女がいる。

 いずれも高貴、神聖な存在とされ、豪族や貴族の娘はもちろん、一国の王女、姫君よりも高位とされる存在……それが聖女。

 もしかしていまわたしに、その聖女になれる好機が……訪れているの!?


「あ、あの……エクイテスさんっ! やはりわたしは、あなたに仕えますっ!」

「ん……? いや、いい。確かに人間の食物は美味しかったが、なくて困るものでもない。おまえは、いままでのおまえの暮らしを続けるがいい」

「ですがあなたが、そのお姿を得ているということは……。やはりわたしたち人間の暮らしを、多少なりとも理解すべき……というこの土地、この都市の意思かと! そのお手伝いをば、ぜひにわたしへっ!」

「ん……んん? 確かに、俺が人間の姿を得られるということは、人間の暮らしを少しは理解せよ……という、意味があるのかもしれないが……」


 おおっ……脈ありっ!

 もう一押しっ!


「ですよねですよねっ! せめて放課後……学校が終わってから日没までの、ほんの数時間だけでも……。どうかわたしを派出婦として、しばらくおそばにっ!」

「ん…………」


 男の人へここまで食い下がるの、生まれて初めて。

 エクイテスさんが人ならざるものだから、自分を素直に出せているのかもしれない──。


「……わかった。おまえの言い分には理があるし、正直いまの食物は、まだ食べたい。おまえを派出婦に……と都市中へ喧伝けんでんした、俺にも責任がある。好きにするがいい」

「あ、ありがとう……ございますっ!」


 や……やったぁ!

 これでわたしは実質、聖女と同等の立場!

 寝取られ令嬢が、ほんの二日で聖女へ成り上がり──!

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