表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/20

7話  『森の少年』

 翌朝、まだ日が昇りきらない早朝に、俺達は旅を再開した。

 辺りは木々に囲われ、客車に木漏れ日が差す。

 耳に響くのは微かな小鳥のさえずりのみで、森は静寂に包まれていた。


「ここから半日ほど進んだところに、小さな村がある。

 今日はそこまで行こう」


 エーデルが前を向きながら、手綱を引く。

 今日も長い旅路になりそうだ。

 それにしても、実にのどかな旅日和。

 こんな日には、空でも見上げながら朝寝を貪りたい。

 俺はそう考えながら、うとうとと眠りに落ちた。


 ■ ■ ■ ■ ■


 ガタンッ

 突然の衝撃で目を覚ます。

 到着したかと思えばそうでは無い。

 馬車は道の途中で止まっている。

 様子が気になり前を覗いてみると、大きな岩が道を塞いでいた。

 土砂崩れか、落石か...どちらにしても通れそうにない。


「困ったな...一旦経路を見直すか...」


 困り顔のエーデルに、リュナが地図を手渡す。


「正規のルートではありませんが、森をこのように抜ければ着くはずです」


 リュナが地図を指でなぞり、経路を示す。

 道なき道を歩む事になるが、他に手立てがあるわけでもない。


「よし、じゃあそれで行くか」


 再び馬車を走らせ、森の中へと進む。

 木々が生い茂り、道は険しさを増していく。

 俺は顔をしかめながら、客車の外を覗き込んだ。

 木々の枝が容赦なく馬車の外壁を打ちつけ、ギシギシと不穏な音を立てていた。


「本当に大丈夫かよ...」


 俺の嘆きを他所に、エーデルは馬に拍車を掛けた。


「きっと大丈夫ですよ。エーデル様が無事に連れて行ってくれます」


 リュナが優しく微笑む、

 俺は小さく息を吐き、再び木々の間に視線を戻した。


 ── その時、再び馬車が止まった


「...おい、誰だ?」


 彼の言葉に、俺とリュナも身構える。

 静かに馬車を降り、木々の隙間に目を凝らす。

 すると、そこには一人の少年が立っていた。

 小さな身体を震わせ、涙で顔をぐしゃぐしゃにしながらこちらを見つめている。


「迷子なのか?」


 俺の問いかけに少年は小さく頷く。

 この辺りには何も無い。恐らく俺達が向かう村の子供だろう。

 

「君は、この先の村の子か?」


「うん...川に沿ってここまで来たら...道がわからなくなって...それで、それで...」

 

 言葉を詰まらす少年は、ついに泣き出してしまった、

 仕方ない。俺も昔迷子になった時には、人生の終わりを感じるくらい心細かった。


「大丈夫だ。俺達が連れて帰ってやる」


「本当......?」


「本当だ」


 その言葉を聞くなり、少年は泣き止み、こちらを見上げて笑顔を見せた。

 そうして俺達は少年を乗せ、4人で旅を再開した。


 ■ ■ ■ ■ ■


「そういえば君、名前は?」


「カイルです...」


「そうか、よろしくな、カイル。

 俺達が無事に帰してやるから安心してくれ」


「ははっ、ありがとうございます」


 先の泣き顔から一転し、元気になったようで何より。

 いつ頃着くかは分からないが、あまり遅くなってもカイルの親が心配する。


「エーデル、頼んだぞ」


「ああ、分かってる」


 エーデルは馬を軽く叩き、その足取りに拍車を掛けた。


 ── ふぅ...俺ちょっとかっこよくないか?

 

 そんな自惚れに浸りつつも、まぶたは重くなる。

 連日の疲れが、今になって響いてきた。


「眠いなら寝て良いんですよ。着いたら起こしてあげますから」


「ああ...悪いな」


 リュナの言葉に甘えて、俺は静かに目を閉じた。



 ■ ■ ■ ■ ■



「エーデル様、着きましたよ」


「やっとか...って、あれ?」


 頭の下が妙に暖かい。

 それに、なんだかリュナの顔が近い。

 俺は思考を巡らせ、状況を理解した。


 ── 膝枕っ...!?


「なっ、何してんだよ!」


「えへへ...随分と気持ちよさそうに寝てましたね」


「っ...」


「私の足、そんなに寝心地良かったんですか?」


「....うるさい!」


 俺は勢い置く起き上がる、

 リュナは悪戯に笑った。


 くそ...俺したことが...。

 無意識のうちに膝枕されるとは。

 だが、良い。すごく良いぞ。


 そんな事を考えていると、エーデルが声を上げた。


「夫婦漫才も良いが、荷物降ろしを手伝え」


「ああ、すまん...って誰が夫婦だ!」


 まったく...ニヤけてしまった自分が憎い。



 ■ ■ ■ ■ ■


 カイルの両親と無事に再開し、礼を言われた俺達は村の宿へと案内された。

 宿と言っても、空き家を使った簡素な物で、寝室にはシングルベッドが一つ、ダブルベッドが一つ置いてあった。

 俺とリュナがダブル、エーデルがシングルをつかうことになった。

 リュナと寝床を共にするのは、正直少し気にかかったが、泊めてもらった身の上、文句を付けるわけにも行かない。

 俺は仕方なく彼女と共にベッドへ入った。


「エーデル様、私のこと襲わないでくださいよ?」


「するかバカ」


 リュナはくすっと笑い、布団に潜る。

 俺もそれに続いた。


 今日も長い一日だったが、旅路はまだ半ば。

 明日は野宿になるだろうから、今のうちに暖かな寝床を味わっておこう。


 ──そうして、俺の一日は幕を閉じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブクマ・ポイント評価お願いしまします!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ