6話 『はじめての野宿』
さて、謎の声に従いアスタリオン王国への旅を始めた俺達。
かなりの距離を移動し、遂には日が暮れてしまった。
これ以上の移動は危険とのことで、今日はここで休む事となった。
「その箱、取ってくれ」
エーデルが指を指すのは、馬車に積まれた一つの木箱。
俺がその箱を手渡すと、エーデルは封を開けた。
中に入っていたのは数本のスープ缶。
薪を焚べ、火を付ける。
ある程度煮立って来た所で、俺達は焚き火を囲んだ。
「ほらよ」
そう言って彼は、俺達に数枚のクラッカーを投げ渡した。
「スープにつけりゃ、絶品だぜ?」
スープによく合う至高の一品。
早速スープを飲んでみると、口の中にクリーミーな香りが広がった。
細かく切られたじゃがいもに、クラムチャウダーの舌触りがよく合う。
ある程度食べ進めた所で、クラッカーに手を付けた。
スープにディップし、口に運ぶ。
単体ではパサパサで素朴な味も、スープと絡めば最高だ。
「ふう……ごちそうさま」
「ごちそうさまでした!」
リュナが俺を真似るように手を合わせると、エーデルは軽く微笑んだ。
その後、腹を満たした俺達はしばらくの間談笑をした。
「お前らがアスタリオンへ向かう理由はよく分からないが、俺がしっかり連れて行ってやる。お前ら放っておいたら道端でくたばっちまいそうだしな!」
「助かるぜ……」
「それにしても、お前ら夫婦か?」
”夫婦”と言う言葉を聞き、俺は思わず吹き出しそうになった。
誤解されるのも嫌なので、俺は必死に弁明した。
「違う違う!こいつは俺の代理魔女!決してそんな関係じゃねえ!」
「ははっ、そうだったのか。妙に距離感あったしな」
俺がこいつと夫婦とか、絶対ありえねえし!
第一こいつは俺を2回も殺したサイコ野郎だし!
■ ■ ■ ■ ■
そんな文句を垂れている間に、気付けば時間が過ぎていた。
「さて、俺はもう寝るとするよ」
「おやすみな!」
「おやすみなさい」
「……お前らもあまり夜更かししすぎるなよ?明日の朝は早いからな」
その言葉を最後に、エーデルは寝袋へと潜った。
そうして俺達は二人きりとなった。
俺はまだ眠れそうにない。
何せ、ここ2日で色んな事がありすぎた。
脈略も無く転生し、兵士に追われ、酒場でリュナと出会い旅に出る。
まったく、何を生き急いでるんだか……。
「それにしても、得体の知れない謎の声に従いここまで来てしまいましたが...アスタリオン王国に着いて、本当に何か変わるのでしょうか...?」
── 提案したのお前だろ!
というツッコミはさて置き、俺はリュナの問に答えた。
「確かに、怪しい部分もあるにはあるが...あの声は俺を騙そうとしているようには聞こえなかった。それに、リュナの言う通り他に行く当てが有るわけでもないしな」
俺をアスタリオン王国へと誘うあの声は、どこか哀愁を帯びていて、強い願いのように感じられた。
正直、疑問は残るばかりだが、行って損は無いだろう。
この世界を知る事にも繋がるし、良い経験にもなる。
何しろ、転生勇者の冒険譚に、旅は付き物だしな!
「さて、俺達ももう寝よーぜ」
「あっ、はいっ……」
簡素なマットを並べると、俺達は毛布へ潜り込む。
星空を見上げ、俺は静かに目を閉じた。
── 明日はどこまで進めるだろうか。




