3話 『初陣凡者は二度死ぬ』
「あ、起きましたか?」
── うう...頭が痛い。
そうだ、俺昨日こいつに酒を飲まされて...。
ったく、酒は一生飲まないって決めてたのに。
「兄ちゃん、大分酔いつぶれたみてぇだな!」
「あの程度のお酒で熟睡とか...弱いにも程がありますよ」
「うるせえ...」
まったく...転生初日から兵士に追われ、挙句の果てには酒を飲まされるとか...不運にも程があるだろう。
まあ、とはいえ、代理魔女を獲得したのは中々に良い成果だった。
あれ?というか俺何も考えずに契約したけど、まさか契約金とか無いよな...?
「さて、早速ですがお金の方を...」
俺はその言葉を聞くなり、猛スピードで首を横に振った。
俺は正真正銘の一文無し。いや、正確には金はある。だが日本円だ。
「ええ!払えないんですか?」
「その通り」
「『その通り』じゃないですよ!お金も無いのに契約したんですか!?」
── いやあ、まったくおっしゃる通りで...。
「はぁ...仕方ないですね。
それなら、一先ず【冒険者ギルド】へ行ってみてはどうですか?」
【冒険者ギルド】...。実に異世界らしい響きだ。
クエストを受けたり、パーティーを組んだり...冒険者にとって活動の拠点となる場所。
それが【冒険者ギルド】だ!
「よし、冒険者ギルド、行くか!」
「おお、その意気です!」
そうして勝手に盛り上がる俺達を前に、バルガンが口を開いた。
「あんたら、もう行くのか?」
「ああ、バルガン。本当にありがとな!」
「おう、またいつでも来てくれよ?」
「必ず来るよ!」
そんな言葉を交わし、バルガンへ手を振ると、俺らは酒場を後にした。
冒険者ギルドに代理魔女...。俺の異世界生活も、やっとそれらしくなってきた...!
「それじゃ、行きましょうか」
そうして俺らは、ギルドへ向かい歩き出した。
■ ■ ■ ■ ■
少し歩くと、一軒家ほどの建物が見えてきた。
扉は開かれ、中の様子がよく見える。
酒を飲み談笑する者に、クエストの掲示板を眺める者。
カウンターにいる女性は、恐らく受付嬢だ。
「着きました!」
「それで、どうやってクエストを受けるんだ?」
「まずは受付です。ほら、行ってきてください」
俺は代理魔女に背中を押され、受付カウンターへと足を進めた。
カウンターの前に立つと、受付嬢がにこやかにほほ笑む。
「冒険者登録証はありますか?」
「冒険者登録証...?持ってないな」
「それなら、お作りしましょうか。登録手数料として、12ゴールド頂きます」
げっ...マジかよ。
俺は後ろにいる代理魔女に、助けを乞う視線を送った。
そんな俺の意図を汲み、彼女はこちらへと近づく。
「まったく...このお金も後できっちり請求しますからね!」
頬を膨らませながらこちらを睨む代理魔女は、懐から数枚の金貨を受付嬢に手渡した。
「承りました。こちらが登録証になります」
そう言って受付嬢が手渡してきたのは、文字の書かれた木板だった。
縁には銀の装飾が施されている。
「さて、どのクエストを受けますか?」
「えっと...これはなんて書いてあるんだ?」
「えっ、文字も読めないんですか!?」
掲示板から取った木札には、やはり未知の言語が書かれていた。
当然俺には読むことすらできない。
「まったく...本当に世間知らずなんですね」
そんな溜息をつきながらも、彼女は掲示板をじっくり眺める。
「これとかどうですか?『ダークウルフ』の討伐。
低級の魔物ですし、報酬も契約金には間に合います。」
「よし、じゃあそれ受けるか!」
俺の言葉に軽く頷くと、彼女は受付へと木札を運んだ。
「『ダークウルフの討伐』、ですね。承りました。
それでは、良い旅を!」
そうして俺たちは、ダークウルフの居住域である外れの森へ向かった。
■ ■ ■ ■ ■
街の外れに位置する森には、どこか不気味な濃霧が立ち込めていた。
霧が視界を妨げ、視界の先が良く見えない。
アウゥ───!
遠吠えが聞こえた。
その声はそう遠くない。
「後ろっ...!」
代理魔女に押され、少し先にうずくまる。
振り向くと、数匹の狼がこちらを睨んでいた。
額には、青色に輝く鉱石があり、俺の知る狼の姿とは少し違う物となっていた。
「フランメ・ノーヴァ!!」
彼女が呪文を詠唱すると、その杖の先から小さな火の玉が放たれた。
その玉は、一匹のダークウルフへと飛び、その身体を焼き消した。
「おお...!すごいな、お前」
「えへへ、そうですかねえ...」
そんな駄弁りを他所目に、ダークウルフが俺へ飛びかかる。
俺はさっそうとダークウルフの足を掴み、豪快に背負い投げを決めた。
地面に叩きつけられた狼は、動かなくなる。
「とりあえず、片付きましたね...」
そんな安堵も間もなく、森の影から更なる群れが現れた。
その数は、ざっと20...。
芳しい状況ではない。
「一気に片付けますよ...!」
「極点詠唱...フランメ・エンデ!!」
その呪文と共に、辺りは炎の海に包まれる。
この一回で、半数程が片付いた。
「おお!お前やっぱすげえよ...って、あれ?」
なんだか、急に力が抜けて...。
バタッ──俺は気付くと仰向けになっていた。
そんな俺の隙を逃さず、ダークウルフが俺に噛み付く。
「ああ!またやっちゃった...」
やばい...やばいやばいやばいやばい!
意識が朦朧としているからか、痛みはあまり感じないが、目の前には血溜まりが広がっている。
ダークウルフは俺の四肢を次々と噛み千切り、遂には首に噛み付く。
── やばい・・・
そんな嘆きを最後に、俺は二度目の死を迎えた。