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19話 『はじめての魔法』

 

 「リュナ先生!お願いします!」


 「こほんっ...よかろう」


 まるで仙人かのようにわざとらしく咳をするリュナと俺が居るのは、王宮の裏庭。

 リズエルに許可を取り、騎士学校が始まるまでの朝の間訓練場として貸してもらえることになった。


 「まずは属性チェックですね。冒険者登録証を出してください」


 リュナに言われた通り、俺はスウェットのポケットからギルドの登録証を取り出した。

 縁に装飾が施され、未知の文字が書かれているだけのそれに、リュナが軽く手を触れる。


 するとその瞬間、登録証の真上に文字の書かれた光の表記が浮かび上がった。

 まるでゲームの画面かのようなそれは、恐らく俺の"ステータス"。

 文字が読めないので内容は分からない。


 「えぇっと……おお!炎属性ですよ!私とお揃いです!」


 燃え上がるような闘志と共に、敵軍を焼き尽くす。

 『炎属性』とは、実に良い響きだ。

 厨二男子なら一度は憧れるであろう言葉に、俺は思わず心を躍らせる。


 「それってやっぱ強いのか!」


 「強い……かは分かりませんが、私の得意分野なのでちょうど良いです」


 その答えに少し落胆する俺を見て、リュナが言葉を続ける。


 「とにかく、まずやってみましょう!まず私が見本を見せます」


 そう言うとリュナは、杖を顔の前に構え『フランメ』と小さく呪文を詠唱した。

 するとその先から、バスケットボール程の大きさの火の球が前へ向かって飛んでいった。


 「これが、炎属性における基礎魔法です。全ての技は、このフランメから派生しています」


 「へえ……俺もやってみて良いか?」


 「もちろんです!」


 リュナは俺の願いを聞くと、そっと杖を渡してきた。

 受け取った瞬間、俺の腕がわずかに沈む。


 「……重っ!」


 思わず声が漏れた。

 細身で華奢なデザインから軽いものだと思っていたが、見た目に反して驚くほどの重量がある。

 特に先端に埋め込まれた赤い鉱石が、ずしりとした負荷を手首にかけてくる。

 まるでバランスが偏っているダンベルを片手で持たされているような感覚だ。


 「ふふっ、思ったより重いでしょ?」


 リュナが得意げに微笑む。


 「お前、これ普通に使ってるのか?」


 「はい、もちろん。でも、初めて持つ人はだいたい同じ反応をしますね。」


 「……そりゃそうだろ。」


 何気なく持ち上げたつもりが、手首にじわじわと負担がかかる。

 この重さで魔法を撃つとか、かなりの筋力が必要なんじゃないか?


 「よし、とにかくやってみるか……!」


 杖の重みを腕に馴染ませるように構え直し、深呼吸する。

 見た目以上の扱いづらさに不安はあるが、ここで躊躇しても仕方がない。

 俺は腕先に力を込め、『フランメ』と詠唱した。


 しかし杖は何も応じない。

 何度か試してみても同じ結果だった。


 「出来ねぇ……」


 「……まあ、最初はそんなもんですよ。

  それと、もう少しイメージしてみてください」


 「イメージ?」


 「はい」


 その小さく可愛らしい手で俺の腕を掴むと、再び説明を始めた。


 「血の流れは、なんとなくわかりますよね?

  心臓から全身に流れて、この脈が血を指先に届けています」


 細い指でリュナが示すのは、手首の脈だった。

 血液を運ぶポンプの役割をするその場所は、小さく、でも確実にリズムを刻んでいた。


 「魔力の流れも、同じく全身に広がっています。

  胸の辺りから指先に。指先から杖に。そして杖から外に」


 そんな説明を聞き、俺は『なるほど』と本心からの感嘆を漏らす。

 魔力を杖に流していく。そんな感じのイメージだろうか。


 「さあ、もう一度やってみてください」


 「おう……」


 再び重厚な杖を構え、今度は魔力の流れを意識する。

 しばらく集中していると、手先の方がじんわりと温まってきた。

 そして、杖の柄をぐっと握り、目を閉じると───


 「フランメ」


 瞬間、手元から熱が弾けた。

 杖の先端に埋め込まれた赤い鉱石が、まるで心臓の鼓動に共鳴するかのように脈打つ。


 眩い閃光が走る。

 その刹那、指先から全身へと駆け巡る熱が確かに魔力となり、杖を通じて外へと解き放たれるのを感じた。


 空間が震え、空気が揺らめく。

 次の瞬間、杖の先から飛び出した紅蓮の焔が、まるで意思を持つかのように前方へと疾走した。

 陽炎のように揺らぎながらも、確かにそこに存在する炎の球。

 それは、ゆっくりと弧を描きながら前進し、やがて小さな爆ぜる音を立てて霧散した。


 余韻だけを残した空間に、微かに焦げた空気の匂いが漂う。

 杖を握る手のひらに、まだ熱の残滓がくすぶっていた。

 確かに放った。確かに生み出した。


 ──俺は確かに、魔法を撃った


 「やった……やったぞリュナ!」


 「ですね!流石です!」


 初めての魔法に、俺は思わずガッツポーズを決める。


 俺が、魔法を使えた。

 これは、この世界に来てからの俺にとって、最大の進歩だ。

 現世から突如転生してきた俺が、ようやくこの世界に受け入れられたような気がして、俺は少し安堵する。


 リュナと大きなハイタッチを交わしていると、庭の影からサラが近づいてきた。


 「ご主人様、騎士学校のお時間です」


 「ああ、もうそんな時間か」


 ここに来てから、既に1時間程が経過していた。

 宮殿の建物の端からは、朝陽が漏れ、日の到来を示している。


 俺はサラと共に、騎士学校へ向かった。

 その直前、俺が明日も訓練を頼む、との旨を伝えると、リュナは『もちろんです!』と答えてくれた。



 ■ ■ ■ ■ ■


 

 今日も一日、授業を終え自室に戻ると、俺の部屋の前にリズエルが立っていた。


 「今朝の稽古はどうだったかな?」


 「そう!それがさ……」


 俺は初めてフランメを成功させた事をリズエルに伝えた。

 未だに残る感触の余韻に、俺は思わず長い間語ってしまった。


 「それは良かったよ。リュナは良い先生になれそうだね」


 「そうだな!」


 『じゃあまた明日』と、別れを交わすと俺は部屋のベッドに潜り込んだ。


 今日一日の出来事を思い返すと、自然と口元が緩む。


 ──俺は、ついに魔法を撃った。


 現世では絶対に体験できなかったことだ。

 ゲームやアニメの中でしか見たことのなかった「魔法」というものを、俺は確かにこの手で放った。

 それがどれほど小さな火球であろうと、俺にとっては大きな進歩だ。


 『魔力の流れを意識する』


 リュナが言った通りにやってみたら、本当に魔法が発動した。

 血の流れと同じように、魔力も俺の体を巡っている。

 そんな当たり前のようでいて、信じられない感覚。


 思えば、ここに来てからずっと俺はこの世界の一員になりたいと思っていた。

 異世界に転生したとはいえ、最初はただの傍観者のような気分だった。

 訳も分からず巻き込まれ、ただ状況に流されるだけ。

 だが、今日の訓練でようやく実感した。


 ──俺は、この世界で生きていける。


 リュナの魔法を見たとき、正直焦った。

 魔法が当たり前に存在するこの世界で、自分だけが無力なのではないかと。

 だが、俺にも確かに魔力は流れていたし、努力すれば魔法も使えるようになる。


 「やってやるさ……」


 思わず呟く。

 

 今日、フランメを撃てたのはほんの始まりに過ぎない。

 火の球を飛ばしただけで満足するわけにはいかない。

 

 リュナみたいに自在に魔法を操れるようになりたいし、強くなりたい。

 それに、騎士学校での訓練も始まる。

 剣術だって、今の俺にはまともに戦える技量がない。

 

 やるべきことは山ほどある。

 

 「……って、考えすぎると寝れなくなるな」


 苦笑しながら布団を被る。

 

 明日も朝からリュナとの訓練がある。

 騎士学校での授業もあるし、疲れを残してはいけない。


 まぶたが重くなり、意識が少しずつ沈んでいく。

 

 明日はどんな一日になるだろう。

 そう思いながら、俺は今日も静かに目を閉じた。




次回以降、新作書き溜めと精神的な不調のため、しばらく休載します。

恐らく次話を投稿できるのはかなり後の事になってしまうと思うので、一旦これにて完結とさせて頂きます。

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