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11話 『アスタリオン王国』

 三日という時間をかけ、遂に到着したアスタリオン王国。

 目の前の大きな城門を覆うように連なる城壁は、まるで巨人が築き上げたかのように威風堂々とそびえ立っていた。

 

「着いた...」


 馬車から飛び降り、大きな背伸びをする俺。

 それに続いてリュナとカイルの二人も降りた。

 こんなにも早く到着出来たのは、あの村の村長さんがお礼としてくれた追加の馬二頭のお陰。

 何故か俺達を足止めしようとするユルギスという人物に遭遇したりもしたが、無事、目的地に辿り着くことができた。

 いや、無事とは言えないかもしれない。

 俺は、ここに来るまでに一度死んでいる。


 城門の前には多くの旅人や商人たちが列を成していた。

 家畜を引く者、荷車を押す者、何かを売り歩く者──活気に満ちた光景が広がっている。

 甲冑に身を包んだ兵士たちは鋭い視線で往来する者たちを見回し、ときおり入国手続きを行っているようだった。

 門の上からは王国の旗が翻り、壮麗な紋章が誇らしげに刻まれている。

 高くそびえる城壁の向こう側からは、微かに市場の喧騒や馬車の車輪の音が聞こえてくる。


「まずは税関調査ですね。一度荷物を客車から降ろしましょうか」


「そうだな」


 客車の木箱をせっせと運び出すリュナに続き、俺も荷物を持ち上げた。

 中には随分と重い荷物もあり、額からは汗がだらだら。

 雲一つない快晴も相まって、中々に骨の折れる作業だった。


 一通り荷解きが終わると、兵士の一人が俺達に近づいてきた。


 「お前達、どこから来た?」


 低く響く声に、俺達は顔を見合わせた。

 リュナが一歩前に出て、冷静に答える。


 「東のガルディア村からです。入国申請をお願いしたいのですが」


 兵士はじっとリュナを眺めた後、足元の荷物へ視線を落とした。


 「中身を確認させてもらう。長旅ご苦労だった」


 俺たちは頷き、慎重に荷物の蓋を開けていく。

 数個の荷物を解き終えた所で、兵士の手が突然止まった。


 「おい、これは何だ?」


 怪訝そうな顔つきで、こちらを睨む兵士の手に握られていたのは一本の酒瓶。

 そしてその足元におかれた木箱の中には、同じ物と見られる瓶がぎっしりと詰められていた。

 当然俺に見覚えは無いので、リュナの方へと目をやった。


 「あぁ!それは!」


 兵士の手から巧妙な手つきで酒瓶を奪う。

 そしてその瓶を大事そうに抱きしめた。


 「これは大事なお酒なんです...!持ち込ませてください!」


 「駄目だ。酒の密輸は禁止されている。没収だ」


 「えぇっ...!」


 悲しそうに落胆するリュナの体を、非力ながらも支えてやった。

 また一つ犯罪を犯すところだった...無論、俺のせいでは無いが。



 ■ ■ ■ ■ ■



 そんなこんなで苦労しつつも、何とか入国許可を貰えた。

 酒の密輸未遂という予想外の事態に肩を落としながらも、俺たちはようやくアスタリオン王国に足を踏み入れた。

 

 城門をくぐった瞬間、目の前に広がるのは活気に溢れた壮大な街並み。

 石畳の道には露店が並び、果物や宝石、武具などが所狭しと並べられている。

 店主たちは大きな声で客を呼び込み、道行く人々が笑顔で談笑している。


 「すごい...」


 リュナが目を輝かせながら周囲を見渡す。

 カイルもまた、興味深そうに露店の商品を覗き込んでいた。


 そんな俺達を尻目に、エーデルの馬車が去っていく。

 代金の支払いもしていなければ、礼の言葉も伝えていない。

 俺は過ぎ去るエーデルを、必死に引き留めようとした。


 「おーい!報酬もまだ払ってねーぞ」


 「金は良い。それと、これ持ってけ」


 そう言って、エーデルが俺に投げ渡してきたのは小さな小袋。

 中を見てみると、大量の金貨が詰め込まれていた。

 思わぬ手土産に、再度お礼をしようと思い、振り返ったものの。

 既にエーデルは行ってしまっていた。


 無償でここまで連れて行ってもらった上に、小遣いなんかも貰うとか...なんだか申し訳ない。

 バルガンの事もそうだが、人にお世話になってばかりだな。

 この借りは、絶対にいつか返そう。後から請求されるのも気持ち悪いし。


 「さて、まずは宿に行きましょうか」


 「そうだな。カイルはどうする?」


 「僕はもう、騎士学校に向かいます」


 ありがとうございました───と、深いお辞儀をするカイルに俺は思わず反論する。


 「お礼を言われる筋合いはねーよ。俺はほとんど何もしてない」


 「いいえ...乗っ取られた僕の身体を元に戻してくれたのはユウリさんです!」


 それすらも、別に俺の手柄では無いのだが...ここは素直に感謝の気持ちを受け取っておこう。

 再び感謝の言葉を伝えたカイルは手を振りながら去っていった。


 本当に、こんなに良い息子を持って、カイルの両親はさぞかし誇らしいだろうな。

 俺もいつか、こういう家庭を築きたい。

 その相手が誰になるのか。今の俺には分からないが、いつか絶対に叶えてやる。


 「ユウリ様...?」


 随分と長い間考え事をしていたようで、リュナが心配そうに顔を覗き込んできた。


 「あぁ、悪い。じゃあ行くか」


 「はい!」


 軽々とした返事を返すリュナを連れ、俺たち二人は宿屋へ向かった。



 ■ ■ ■ ■ ■



 宿に着くと、軽い荷解きを済ませ一息ついた。

 年季の入った老翁が一人で切り盛りする店のようで、部屋も中々に趣があっていい感じだ。

 王都の城下街なだけあり、部屋の窓からは荘厳とそびえ立つ純白の城がよく見える。

 ずっと憧れていた御伽噺のような世界。なんだか夢見心地だ。


 「ユウリ様...どうせ暇ですし、観光なんかどうでしょう?」


 「そうだな...」


 俺をここまで誘った謎の声も、今は黙りこくっているようだし、この国を見て回って見るのが良いかもしれない。

 正直、この国の風景は最高に俺好みで興味があるしな。


 「良いんじゃないか?リュナは案内できるのか?」


 「いいえ、アスタリオン王国に来たのは初めての事なので全く...。

  でも、この国には観光客向けのツアーなどもあるそうなので、参加してみませんか?」


 「じゃあそうするか」


 リュナに聞いたところ王都の観光ツアーは、城門広場にある受付で申し込むことができるらしい。

 早速、俺たちはその広場へと向かうことにした。


 宿を出ると、王都の活気が一層肌に感じられた。

 石畳の道を歩くたび、通りすがる人々の談笑や露店の呼び込みが耳に心地よい。

 異国の香辛料が混ざり合う屋台の匂い、陽光を反射して輝く武具店の剣──まさに異世界の王都といった雰囲気だ。


「すごいですね……さっきも見たはずなのに、改めて歩くとさらに感動します!」


 リュナが目を輝かせながら、興奮気味に言う。

 その気持ちは分かる。俺も目に映るすべてが新鮮で、何度見ても飽きない。


「観光ツアーってのはどこで申し込めばいいんだ?」


「確か、広場にある大きな掲示板の近くに受付があるはずです!」


 広場へと足を運ぶと、掲示板の周辺には何人もの観光客らしき人々が集まっていた。

 そして、掲示板の横に設けられた小さな受付所には、派手な衣装を着た案内人が数名立っている。


「おや、そこのお二人さん!王都観光ツアーに参加するかい?」


 快活な声が響き、俺たちの方に一人の案内人が歩み寄ってきた。

 小柄な体格ながらも、その立ち居振る舞いには堂々とした雰囲気がある。


「ちょうど申し込もうと思ってたところだ」


「そうかい!ちょうどいいタイミングだよ。次のツアーはもうすぐ出発するところだ!」


「良かったですね!」


 リュナが嬉しそうに手を叩く。


「王都の歴史的名所や市場の見どころを案内するツアーだよ。もちろん、希望があれば城の近くまで行くこともできる。どうする?」


 案内人の説明を聞きながら、俺は王都の景色を改めて見渡した。

 

 城か……せっかくだし、見ておくのも悪くないな


「よし、参加するよ」


「決まりだね!じゃあ、こっちへおいで!」


 俺たちは案内人の後を追い、ツアーの集合場所へと向かう。

 すると、その途中で──


「……ん?」


 背後からの、何か嫌な視線を感じ、思わず振り返る。

 しかし、通りを行き交う人々の中に特に怪しい人物は見当たらない。


 ── 気のせい……か?


 ほんの一瞬だったが、確かに誰かに見られていたような、そんな感覚が胸に引っかかる。


「ユウリ様?どうかしましたか?」


「いや……何でもない」


 考えすぎかもしれない。

 そう自分に言い聞かせ、俺は歩みを再開する。


 だが、その違和感がまるで警告のように、どこか頭の片隅にこびりついて離れなかった──


 

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