1話 『転生初日の国則違反』
『どこだ、ここ?』
目が覚めると、俺は見知らぬ広場に居た。
── そういや、俺...死んだんだっけか?
事の経緯はこうだ。
小腹が空き、夜食を買いにコンビニへ行った俺は不良集団に遭遇。
その後絡まれ喧嘩に発展。
柔道技を繰り出し優位に立ったものの、不良の一人が俺の腹をナイフで一突き。
そうしてお釈迦になった俺は見知らぬ場所に。
これってつまり、”異世界転生”ってことだよな?
ラノベの中では散々目にしてきたが、実際こうして自分の身になってみると、なんだか心細い。
転生ものではお決まりな”女神様からの祝福”だとか”チート能力の付与”だとか。
そういうのを全てすっぽかして異世界に放置とか、いきなりハードモードすぎるだろ...。
異世界行っても凡者は凡者だってか?
── 笑えねぇ・・・
駄目だ、冷静になろう。
こういう時はまず情報の整理だ。
えっと...俺が今いるのは西洋風の広場。
目の前には噴水があって、人通りは少なめ。
奥にはでかい城もあるから、ここは城下町ってところか?
聞こえてくる言葉は日本語。
対して看板の表記は見たことのない文字。
まあ大方テンプレってとこか。
文字云々は後々勉強するとして、問題は俺だ。
一先ず、自分の手を眺めてみた。
無駄に長くて細い指に、濃くも薄くも無い指毛。
各関節には、柔道の組手で出来たタコがある。
紛うことなき俺の手だ。
つまり、俺は”転生”したのではなく”転移”したのか?
いや、でも死んではいるから”転生”か?
まあ、どっちでもいい。重要なのは俺がここにいるってことだ
それに、俺が今気にするべきことはこんな事じゃない。
俺、今何持ってるっけ?
適当にポケットを弄ってみると、使い古したボロ財布とその中に入った紙幣数枚が見つかった。
日本円か....。当然ながら、ここでは紙切れ同然だろう。
スマホは……ない。
いや、正確にはある。だが電源が入らない。
バッテリー切れか? それとも、この世界じゃ電波や電力が存在しないのか?
どっちにしても、スマホは役に立たなさそうだ。
「……さて、どうするか」
まず、水だ。
さっきから口の中がカラカラで、喉が渇いて仕方がない。
幸い、目の前には噴水がある。
飲める水かどうかは分からないが……他にあてもないし、試してみるか。
俺は噴水に近づき、手を伸ばそうとした──その時。
「おい、何をしてる...!」
背後から声がかかった。
振り返ると、そこには銀色の甲冑に身を包んだ兵士が立っていた。
そのしかめっ面をこちらへ向け、じわりじわりと寄ってくる。
「公共の噴水に触れるのは国則違反だ。お前を連行する!」
──これはまずい。
そう思った俺は、とっさに路地へ走り出した。