最強魔法使いは無理矢理無双!
注意
魔法使いがひたすら無双する話では有りません。
「我々のパーティーに君は相応しくない。追放だー!(IQ3の声)」
―――
「ごめんね。君が頑張ってるのは分かってるんだけど……ね。ほら、うちのパーティーには合わないかなって……、ほんとごめん!今日のクエスト報酬は全部あげるから、次のパーティーで頑張ってね」
―――
「お前あんなので冒険者なろうとしてんのか?無理だから諦めちまえよ!お前のこと、隣町で広めとくから、じゃな!」
―――
「冷静に考えて使えなすぎ。そんなスペックで……冒険者は諦めた方がいい。コレは先輩からのアドバイスだ」
―――
「君、弱すぎ!未来の仲間に迷惑かける前に実家に帰ったほうがいい!バイバイ!」
―――
「お兄さんヨワヨワ〜。一発で打ち止めとか、ぷぷぷー冒険者やめたらぁ?もし〜どうしようもなかったら、また罵られに来てもいいよ〜?アハッ、バイバーイ。ザコザコお兄さぁ〜ん」
―――
これが直近6回の冒険でパーティーを組んだ人達の最後の言葉だ。別れの言葉だけ聞けば、なんで毎回パーティーを組めているのか疑問に思うかもしれない。
これには理由があるんだ。
それはパッと見のカタログスペックがいい感じなのだ。見てみてくれ。
名前:レト・サカナ
年齢:21
ジョブ:魔法使い
スキル:[魔神との契約]・[天使と悪魔の寵愛]・[魔法の深淵]・[並列思考]・[最強魔法]
な?パッと見は、いいだろう?歳もまだ若いし、魔法使いだって悪いジョブじゃない。スキルだって5つもある。平均が2個で、3個以上あれば凄い、と言われるのを考えると破格だ。
……ではなぜ「パッと見」と付けるのか、理由は他の人よりも多く待っているスキルのせいなのである。
細かく見ていくと、
[魔神との契約]
・魔法の効果上昇
・魔法クールタイム減少
・魔法詠唱時間2倍
・筋力低下
上2つが最高、下2つが最悪。
[天使と悪魔の寵愛]
・50%の確率で使用マナを回復
・50%の確率で使用マナの2倍のマナをさらに使用
・50%の確率で使用マナに比例して魔法の威力上昇
シンプル故に害悪、そして運が絡むスキルは冒険者には嫌厭される傾向にある。確かに冒険者には運も大事だがそれは運任せを出来るだけ無くした上での話だからだ。
[魔法の深淵]
・魔法の威力上昇
・詠唱の長さに比例して魔法の威力上昇
・魔法の発動を任意で無効化可能
・全属性の魔法適性
・自身の使用できる魔法に制限
このスキルは当たりの部類、使える魔法に制限がかかっているらしいが、とあるスキルのせいで息をしていない。
[並列思考]
・物事を同時に思考することが容易になる
普通ならば、通常ならば!魔法使い等の後方火力支援担当や、事務関係の仕事に就くならば、このスキルを引ければ一生安泰、普通なら!
![最強魔法]!
・このスキルの所持者は<!\最強/!>魔法を一日一回のみ使用可能
・他の魔法が使用不可になる
諸悪の根源、他のスキルを死にスキルへと簡単に変える化け物。これがなければ両手に女侍らせて、ゆる〜くダンジョン行ってガッポリ稼いでウッハウハだと思ってたのに!2つ目の効果「一日に一回のみ」。馬鹿かお前は!一度しか魔法が打てない冒険者の魔法使いなんて御守りとそう変わんないよ!ボスに大きい魔法ズドーン当てても、それ以前もそれ以後も何もできない案山子になるなんて気まずいね!前衛に守られながらずっと何もしないで歩くだけの気持ちが分かるか?!今度は姫様か?!
どうしようもない冒険者の現実を、宿屋で永遠に悩んでいても仕方ないので、冒険者ギルドでまたパーティーを探す事にした。
「出来れば継続的なパーティーを組みたい、しかしあいつ(3回目のパーティー)のせいで俺の噂が広まるのも時間の問題、か。どうs……」
「コイツとパーティーを組むのよ!」
え、ん?大衆の視線が俺に集まっているし、 女の子が俺の事を指さしてる気がする。前に彼女以外の人は居ないし、後ろにも居なかった。心当たりもないし無視していこうとすると、いきなり腕をつかまれる。
「え、なに」
「あんたの事よ!」
焦った様子で俺に近づき耳もとにささやきかける。
「……少しこっちの話に合わせて、お礼はするわ……私たちがパーティーを組むって話だから、頼んだわよ」
よくわからんが了解した。……なんて冷静になれるわけも無く取り乱している。パニックだ、今の脳内は星空に阿呆面したスライムが浮かんでいる。
「何喋ってんだよ」
俺とそれ程歳の離れていなさそうな剣士風の見た目をした爽やか系の男がそこそこの威圧をしながら話しかけてきた。
ちびりそう、とりあえずパーティーを組むって話だから……。
「んん”ん。お、俺がこの娘と(冒険に)お付き合いせていただく事になりました(嘘)、レトと申します!」
何とか言えた。しかし冒険者ギルドの建物に入った時とはまた違う周りの視線が俺のことを刺している気がする。いや、きっと確実にたぶん刺してる!
(コソ)「なあ、俺もしかして言うタイミング間違えた?」
今回の件の依頼主に尋ねると周りに気づかれない様に配慮された拳と共に返事が返ってきた。
(コソ)「アンタねぇ!……タイミングは完璧だけど、セリフは最悪よ!なに考えてるのよ!?あぁ絶対面倒くさくなるわぁー」
拳を受けたところを抑えながら頭を抱え唸る彼女を見ていると、怒気を隠し切れていない男がローブを掴む勢いで近づいてくる。
「ミヤはウチのパーティーメンバーだ。勝手に粉かけるのは止めてもらおうか」
剣士らしい剣幕で、か弱い俺を睨み付けてきた。ムリ怖いなんでそんなおこてるの。てか、名前ミヤって言うんだ〜初めて知った〜。
負けじと反論しようと微振動していると、ある人物に止められる。
「おい、お前ら、女の取り合いは他所でしろ」
強い言動とは裏腹に可愛らしい声が聞こえた受け付けカウンターの方を見ると、人を掻き分け現れたムキムキマッチョのゴツいスキンヘッドギルド職員……、の肩に乗った人間で言うところの5、6歳位の身長のエルフギルマスがいた!kawaii.ムキムキマッチョゴツスキンヘッド職員さんに降ろしてもらってる、かわいい〜〜。
この瞬間だけは剣士の威圧を忘れていた。
「ち、違いますよ!ギルマス。私達はパーティーについて話し合っているんです。この傲慢な陰湿男がパーティーを抜けたいと言っている私の意見を拒否してくるんですよ!」
剣士に対して凄い言い様だな、傲慢、陰湿て。剣士は彼女に一体何をしたんだ。
「どういうことだ」
「ミヤがあの剣士のパーティーを抜けて俺とパーティーを組むって言ってるのに剣士が聞く耳を持たないんだ」
俺が声高らかに報告をすると、剣士は一層理性を捨て、ミヤは少し動揺を見せ、俺は役に立っていると悦に浸る。ギルマスはそんな三者三様の反応を見て悟った様に頷いていた。
この勝負俺達の勝ちだな。
「なるほどな、状況が分かった」
「お゛い!俺がまだ何も言ってねーのに何が分かんだよ!おい!離せ!」
怒りの頂点に達した剣士がギルマスに向かって行こうとするも周りで野次馬していた冒険者に抑えられている。
(ボソ)「こわ」
隣に居たミヤから「殆どあんたのせいよ」とツッコミを頂いたが心当たりがない。
「落ち着け、ツルギ、これ以上喚くと剥奪するぞ。
冒険者の問題なら冒険者らしくダンジョン攻略で決着を付けようじゃないか」
剣士の名前ツルギって言うんだ。めちゃめちゃキレられてたけど初めて知った。……キレキレやな!……………………。
「んだよそれ」
抑えられたままギルマスを睨みつけながら意味が分からんとツルギが問う、俺も全く分かんないどゆことギルマス。
「読んで字の如く言葉そのまま、二人のうちどちらが先にダンジョンを攻略できるか競うんだ」
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「先日、東の森に新たなダンジョンが発見されまして、入口の広さやモンスターの出現数から察するに5,6階層が精々の小さな未発達ダンジョンであると考えられています」
説明を受け継いだムキ省略ド職員さんの話から、一番可能性の高そうなルールを考える。
「そこを俺とツルギで攻略するんですか?」
「いえ、もう一箇所似たような規模と推測されるダンジョンが数週間前に北の山で見つかっていまして、ギルドマスターの行うコイントスの結果でお二人がどちらを攻略するかを決めさせてい頂きます」
言いたいことが終わったのかサッとギルマスの後ろに移動しムキ省略ド職員。
この勝負、一見公平に見えるがそんなことはない。発見されたばかりのダンジョンと発見から数週間経ったダンジョンでは確実に後者の方がハズレだ。
「よし、お前ら聞いてたか。ヤオちゃんが言った通りコイントスを行う。そーだな……ツルギ、お前が右手と左手どっちに、この銀貨が入ったか当てろ。当たったら好きな方選べ」
ただのコイントスを確率で語るなら50%だが、左右どちらの手で取ったかを当てるならば出題者の腕前次第と言わざる負えない。
回答権のあるツルギが圧倒的に有利。ミヤも最初は不安ながらも勝ち確定みたいな雰囲気をしていたが、今では必死に神に祈っている。
そんな中、平常心を装った俺自身も信仰心を捨てたはずの神に祈っている。お願いします外してください外して外せ外せ外せ外せ外せ!
ギルマスが銀貨を真上に弾く。キィンといい音を出しながら上昇する銀貨。やがて勢いを失くし落下する。
銀貨がギルマスの顔に差し掛かり等々ギルマスの手が動き出す、俺が回答するわけでもないのに今までで一番集中したし銀貨の落下も少しスローに見えていた筈だ。
ツルギは銀貨の入った手を当てた。
俺は銀貨の入った手が解らなかった。
俺は今北の山にあるダンジョンに向かっている
◆◆◆
「いいんですか仮にもギルドマスターがこんな簡単なイカサマを行うなんて」
「あいつらの顔見たか?絶対当ててやるって真剣な表情してたのに、いざ俺が銀貨の在り処を聞いた時のポカンとした間抜けな面。笑いを堪えるので必死だったぜ」
「確かに銀貨を取った手は見えませんでしたが、まさかもう一枚目銀貨を持ってたなんて誰が考えるんですか」
「久しぶりだったが上手く行ったな」
「貴方はツルギ君を贔屓しているのですか?」
「いぃや」
「ならどうして……」
「そんなもん、こうしたほうが面白いからに決まってんだろ」
「はぁ〜貴方のそういうところが玉に瑕ですね」
「さてさて、どっちが勝つのやら」
◆◆◆
どうしよ、魔法使いが一人でダンジョン攻略とか出来る訳なくない?と馬車の中で悲観に暮れていたが、俺は自分がどんな魔法を使うのかすっかり忘れていた。
「お、驚いた〜……。まさかまさかダンジョンにすら入らないでダンジョンをクリアしちゃうなんて……」
そう言って固まっているのは俺の監視役をしているギルド職員、ミーテルさん。
ちなみに俺はというと〜。
「大丈夫?レトさん。そんなを白目向いて手咥えて震えたって現実は変わんないよ?だって、レトさんは漢と漢の勝負に勝ったんだからー!喜びなよ!」
そう、3分間掛けて詠唱した土属性の<!\最強/!>魔法によって山ごと穿くように生えてきた岩の棘がダンジョンコアごとダンジョンを破壊したっぽい……たぶん。
(ダンジョンを攻略したときに鳴る福音が鳴ったから、たぶん……)
「ぎ、ぎるどにほうこくしにいくか」
ちょっと怠い身体で回れ右をして馬車に乗ろうとするとミーテルさんに止められる。
「れ、レトさん、ああ、あれって」
肩を掴まれ振り返る。
「ん?なんかキラキラしてるね。サァ、ホウコクニイコウカ」
ダンジョンを穿き地上に露出していた魔法による岩のあった場所で、宝箱らしきものや何かキラキラとしたものが降っていた。
正体を調べると、それらは全て本物だった。
何を言っているか分からねえと思うが、宝箱らしきものは宝箱だったし、キラキラしていたものはモンスターのドロップアイテムだった。
ミーテルさんによると、
「だってレトさんの魔法って下から上に昇るように出てきた訳じゃないですかー、だったら死んだモンスターのアイテムとか宝箱とか巻き込んでそうじゃないですか?」
とのことらしい。まさに目から鱗の棚から牡丹餅で値千金とはこのことだ。
確かに、そんな可能性考えもしなかった。
もしやこれで……。
◇◇◇
レトさんが発動させた魔法は明らかに常軌を逸した威力でした。
ダンジョンに入らずブツブツ言い出したときは何かと思いましたが、まさか丸々魔法の詠唱だったなんて。
隙は大きいし、連発できるような威力ではなさそうでしたし、発動の後の消耗の仕方も本物っぽいので自由に使えるものではないんでしょうけど……、万が一にでも魔王に成られては面倒です。
本人の性格にも難があるようには見受けられませんし大丈夫だとは思いますが……これは報告ですね。
これ程の人が無名だったなんて、今までどこに居たんでしょうか。
◇◇◇
ダンジョンを見事攻略し多くの財宝を持って街へ帰った。
その日のうちに帰ってきた俺に対して周囲の最初の反応は嘲笑7、驚き1.5、無反応1、同情0.5の割合だったが、ギルドカウンターに意気揚々とダンジョン攻略の報告をすると周囲は憐みと、驚きの二極に分れていた。
勿論ミーテルがいたので手続きは順調に進み、無事俺の勝ちが確定した。
今は降って湧いたダンジョンの遺産を鑑定や査定が終わるのを併設の酒場で待っていると、ギルドで待機していたミヤが話しかけにきた。
「あんたやるじゃない。どんな手品を使ったのよ」
「ん?普通に魔法撃っただけだよ。まぁこうなったのは予想外だったけど」
「は?どういうことなの?あなたの装備的に純魔なのは分かるけど、魔法使い一人でダンジョン攻略なんて前代未聞よ」
「あぁ、ミヤにはまだ俺がどんな魔法を使ってるかっていってなかったな」
「あんたそういえばミヤって」
「あごめん!ツルギ?がそう呼んでたからつい出ちゃったんだ、気分悪かったら別の呼び方にするよ」
「いいわ。でも私アンジェリナ・クイーンが本名なの。ミヤは偽名よ。アンジェでもアンジェリナでもアンジュでも好きに呼んで。それでそっちは?」
「あぁそうなんだ、わかったアンジェ。俺はレト・サカナ、並列思考持ちの魔法使い。まぁここまでが表向きの自己紹介で、もっと詳しく言うと最強魔法しか使えないお荷物後衛ってとこかな」
「最強魔法?なんですかそれ」
「最強魔法っていうのはその名の通り最強で、威力が過剰すぎる魔法なんだ。それでダンジョンを攻略せずに破壊出来たってわけ」
「それは……信じ難いですね」
「俺も正直信じられなくて、今でも悪魔に騙されてるんじゃないかってドキドキしてんだ」
「……不思議な方ですね。それだけの魔法があれば、冒険者なんてやらなくても色々な場所から引っ張りだこでしょうに」
「確かにそうだな。自慢じゃないけど俺の最強魔法は大きな街を滅ぼすのだって簡単に出来るし、戦争だって俺が魔法を放てばそれだけで勝敗が決する」
喉の乾きと居心地の悪さを誤魔化すようにジョッキを飲み干す。
「けどそんな後に俺に残ったものは何だと思う。富?名声?友情?違う、俺は勇者にはなれなかった」
「人々の為に生きた俺が最後に見たのは、俺の死を願う人々だった。俺が得たものを覆す程の負の感情、例えば恐怖、例えば憎悪、嫌悪、嫉妬、そんなようなものが俺を踏み潰した、かもしれない」
「だから俺は俺のために冒険者を選んだ。自由で何にも屈しない、そんな冒険者に憧れたから」
「なんだか……まるで……」
俺がおかしなことを言い過ぎたせいで固まってしまったアンジェを見ながらある決心をした。
「そろそろ査定が終わる頃だろうから俺は行くよ」
「え、レトさん……」
「じゃあな」
そう言って再開の約束も振り返る事もせずアンジェを一人酒場に残しこの場所を後にした。
◇◆◇◆◇◆
酒場に一人残された。
ちゃんとした挨拶が出来なくともまた明日会えると思っていた、口先ばかりの約束だけどレトにお礼もまだ出来ていないから。
ずっと待っていた、きっとレトは昨日と同じ様にぼんやりとギルドの扉を開け入って来るに違いないと。
そうして待っていると小さいエルフのギルマスに用があると呼び出された、どうやらレトに関係のあるものらしくすぐさまついて行った。
ギルマスのいう用とは、どうやらレトが攻略したダンジョンのアイテムを伝言と一緒に渡したいらしかった、だが私は素直に受け取ることが出来なかった。
だってそんなのもう私とは会わないというのと同じじゃない。
どうしてかギルマスや職員がいる前でみっともなく泣いてしまった。
どうして涙が出ているのか分からなかったし、これは恋心なんかではない、もっと別の、たぶん同情とかそんな感じの何かだ。
お礼だって出来てなかったのに、酒場で聞いた物語が忘れられないでいるのに、私の前からいきなり居なくなった事が許せなかった。
◇◆
そうして、私が彼を探す永い旅が始まった。
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貰ったこと無いですが、きっと励みになります。
いや、そもそもここまで見ていただけただけで感激です!
どうぞ私の他作品も読んで軽く感想でも頂けるととても嬉しいです。
ありがとうございました!