第5話 アルトはついに森を出る
本の内容を思い出して考える。
今あれを見るのはダメだ。心臓に悪い。
伝説やおとぎ話で聞くような魔法がたくさんあったからね。
時には知らない方が良いこともあると初めて知ったよ。
「初級魔法や上級魔法はまだ良い。オルディ空想魔法大全に載っている魔法も......よくないけれど、予想できた範囲。だけど」
ちらっと顕現したままの魔導書を見る。
魔導書は何も詫びれる様子なくいつも通りに宙を浮いていた。
「いや流石に星降りは無いだろ?! 」
確かにその昔『星降り』と呼ばれる現象があったのは知っているさ。
凶事の前触れとからしいけれど何でそれが?!
もしかして星振り伝説って誰かが魔法として打っていたの?!
おかしいでしょう!!!
いやそもそもこの叡智の魔導書、おかしいでしょう!!!
何でこんな伝説やら空想やらの魔法を載せているのさ。
しかも使える状態でっ!
「はぁはぁはぁ......」
少し息を落ち着かせ山積みの毛皮に目をやる。
あの魔法の羅列からすればこれは些細なことだ。
すぐに、前に確保した『異空間収納』を使い収納する。
一気に山積みが解消されると少し余裕が出来たのを感じた。
「一先ず安全を確保しよう。考えるのは後からだ」
そう呟いて川の方へと足を向けた。
★
安全であることや魔石が壊れていない事を確認し、石の椅子に腰を降ろす。
息を吸い、大きく吐く。
心臓に悪いけれど確認しなくちゃいけない。
嫌々だけど叡智の魔導書を顕現させてびっしりと詰まった文字を読んだ。
「……一応の規則性はあるみたいだ。読んだ本毎に分類されている」
パラパラと捲り内容を確認。
掲載されている順番はあべこべだけど内容は統一されている。
例えば『一般魔法教本』に書かれている初級魔法や中級魔法は一纏まりになっていた。
『オルディ空想魔法大全』に載っている魔法も同じようで一纏まりだ。
パラパラと次々捲っていると『スキル鑑定』を見つけた。
「……これ昔に教会で読んだやつだ」
手を止めて軽く読む。
光球の時もそうだがこの魔導書は単に魔法を発動させるスキルではない。
その効果内容や発動条件なども載っている。
「スキルを鑑定する魔法......。これってこの魔導書に掛けれ、る? 」
ピンときた。
もし自身に掛けれるのならばこの魔導書の秘密がわかるかもしれない。
意味も分からず使うのと、そうでないのとでは全然違う。
もしかしたらこの魔導書を発動させることにリスクがあるかもしれないからだ。
「よし。やろう」
そうと決まれば早い。
すぐにスキル鑑定を使って叡智の魔導書を鑑定した。
すると——。
【叡智の魔導書: 書物により得た魔法の知識を具現化させるスキル】
出た文字に、固まった。
知識を具現化させる?!
それって......、いや違う。「書物により」だ。
つまり書物で得た魔法の知識をそのまま具現化させるということか。
なるほど。
だからオルディ空想魔法大全の魔法が使えたわけか。
空想だけれども、知識としてある。
ならば逆説的に使えないことはない、ということ?
強引な解釈だが結果として使えている。これは要考察だ。
だが……、もし仮設が合っているとして、消費魔力はどうなっているんだ?
空想上の魔法をそのまま具現化させることができるスキルならば、消費魔力は分からないはず。
顎に手をやり足を組み直す。
「……もしかして誰かが使ったことある? そして世代を乗り換え最適化された? 」
一番しっくりくるが、有り得ない。
何故ならば『空想』のはずだからだ。
もし誰かがこの『空想』を現実にさせていたのならば大発見。歴史に名を残していると思う。
「隠居した賢者か前任の叡智の魔導書の使用者、か」
考えを一巡させてると、その答えに行きついた。
個人開発の可能性だ。
そして表に出ないようにしていたと。
「ならあまり外で使わない方が良いよね」
苦笑しながらも封印クラスの魔法欄を閉じる。
先人が秘匿した苦労を僕が崩すわけにはいかない。
緊急ならまだしも必要がない時に見せびらかせるほどのものではないかな。
なら上限はスキル『魔法: 上級』か、それこそ『賢者』スキルが放てるまでかな。
これならば言い逃れは出来るし。
「魔力回復系の魔法で魔力は万端。もう少し魔物の討伐と行こう! 」
と鉄剣召喚で呼び寄せた剣を手にして森へ行った。
★
数日後。
魔の森の中層で僕はジャイアント・スネークと対峙していた。
「魔法範囲拡大: 氷結」
「シャァァァ......ァ?! 」
「隙あり! 」
動きが鈍った一瞬を狙って首を切りつけ撥ね飛ばす。
すぐにそこから離れて魔法陣を上空に描いた。
「魔法多重展開: 氷槍」
ドドドドド、という音を立てて無数の氷の槍が周辺に降り注ぐ。
「シャァァァ! 」と悲鳴のような声が聞こえ、そして止んだ。
「魔物探知」
周りに敵対生物がいないか調べて、いない事を確認。
気を抜かず素材自動採取を使い、素材を集め、その場を離れた。
中層から浅層へ戻り一息つく。
魔物避けと気配隠蔽をかけて腰を降ろす。
開いた魔導書に書かれた地図を見て溜息をついた。
「まだ先はありそうだけど、無理する必要はないね」
地図作成は自分が歩いた場所を指定した物に自動で描く魔法だ。
今回は僕の叡智の魔導書。
綺麗に描かれたそれを見て、閉じた。
ここ数日は中層で魔物討伐と称した訓練をしていた。
剣が手に入ったことにより手数が増えた。上級魔法をベースに剣で周辺を護る、ということができるようになったのだ。
少なくとも接近されて懐に入られるということは無くなった。
魔の森でも特にすばしっこい魔物はすぐに懐に入ってきて苦労した。
『スキルが魔法系になるとは限らん! さぁ修業じゃぁ! 』
と言った師匠『カイ・ガンフィールド』との日々が役に立つ日が来るとは思ってもなかったが、事今となってはありがたい。
あれが無ければアサシンタイプの魔物にすぐに殺されていただろう。
ぐぅ~。
「そろそろ出ないと」
お腹をさすり小袋を開ける。中を見ると携帯食が底を尽きそうだ。
追放されてから時間も立っているし、森を出ても大丈夫だろう。
「よし」
腰を上げて浅層の先を見た。
確か魔の森から町に続く道は確か二つ。
一つは元実家のレギナンス伯爵領。
そしてもう一つは——。
「ガンフィールド公爵領、か」
......、どっちにも行きたくない!!!
だけど魔の森の深層を抜けていく訳にもいかず選ばないといけない。
あまり目立たないように活動していれば大丈夫、だよね。
うん。大丈夫。きっと大丈夫。
そう自分に言い聞かせて、僕はガンフィールド公爵領に足を向け——森を出た。
ここまで如何だったでしょうか?
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