表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/32

追放者サイド 1 浮かれるエルド

 レギナンス伯爵家の館にあるエルドの自室。

 そこは書物(しょもつ)(あふ)れていた元アルトの部屋とは異なり様々な『物』で溢れていた。

 異様(いよう)に広いその部屋の左側を見ると、そには高名(こうめい)画家(がか)が描いたであろう絵画(かいが)が掛けられ、その少し前には陶器(とうき)類がある。またその対面(たいめん)の壁には使った様子が見えない剣や魔杖が目に入る。


 ふかふかなソファーの向こう側、そこにはニヤつくエルドがおりそれをメイドが冷たい目線で(なが)めていた。


 その目線に気付かないほどに浮かれているのか、彼は()(かい)していない。

 エルドは人の目線に敏感(びんかん)なはずなのだが今日この日だけは特別なようで。

 それもそのはず、彼は今日自分の腹違いの兄を追放した。

 追放したのはエルドの父なのだが、実質彼が追放したようなもの。

 その満足感からエルドは一人満悦(まんえつ)としていた。


「ようやく。ようやくあの目障りなアルトが消えたっ! 今日という日を祝日(しゅくじつ)にしたらどうだ? おい! 」

「......それも()きかと」


 メイドがエルドの言葉に冷たく返す。

 その言葉に(こころよ)くしながらもメイドは心の中で溜息をついた。


 (このままだと没落(ぼつらく)の祝日になりそうですが......。さて......)

 

 彼女は浮かれる次期当主を観察した。

 おかしな点が無いか調べるためだ。そしてもしおかしな点があれば本格的にこの家を出ないといけないと考えている。


 (まだ......下手に動けませんね)


 今の彼は次期当主。証拠もなしに歯向かえば自分の身が危ない。彼女に何かと理由をつけて罰を与える権限を持つ一人なのだから。

 よって何か不正の証拠一つでも手に入れて()()に戻るのが一番であると考えた。


 (しかし何故この豚は『賢者』などという(だい)それたスキルを)


 彼女がそう思うのも無理はない。

 何故ならばつい先日までこの浮かれ馬鹿のスキルは『魔法: 初級』のみであったからだ。無論スキルの練度(れんど)を上げることにより『初級』が『中級』等上位変換されることは多々ある。

 しかしながらエルドは修練どころかまともに勉強すらしていない。

 なぜ賢者などというスキルを得たのか不可解(きわ)まりない。


 彼女が観察していると、エルドの顔がピタリと固まる。

 そしてすぐにメイドに声かけた。


「今から用事がある。この部屋から出て行け」

(かしこ)まりました」


 そう言い観察を中断し、密偵(みってい)のメイドは扉を閉めた。


 ★


「これでいいのか? 」


 閉じた扉を確認しエルドは誰もいない空間に声をかけた。

 するとそれに応じるかのように暗闇が広がり紳士服の男性が現れた。

 黒いシルクハットを(かぶ)る彼はエルドを見るなり声をかける。

 

「ええ、ありがとうございました。しかし、完全に怪しまれていましたが......大丈夫なので? 」

(かま)うものか。あの憎たらしい男が消えたんだ。どの道誰も俺に反抗できん」


 エルドがクッションのある椅子にどさりと体を(あず)けると、その男は「左様で」と言いシルクハットを取った。

 二本の角を持つ彼は口をへの字にしながらも「確かに」と言う。


「だろう? 」

「ええ、まさにおっしゃる通りで。権力さえ(にぎ)れば後は簡単、ということですね」

「その通りだ」


 エルドがニヤリと笑みを浮かべると男も笑みを浮かべた。


 ((ぎょ)(やす)い男だ)


 男も気分が良くなり手に持つステッキを軽く回す。

 少し長いそれは空を切り少し風刃を作り出していた。

 それを見てエルドが慌て彼を止める。

 少し不機嫌そうにするもピタリとステッキを降ろした。


「俺の貴重なコレクションがあるんだ。壊すのはやめてくれ」

「ふむ......。仕方ありませんね。やめておきましょう」


 男は納得し移動を始める。


 紳士服に二本の角。シルクハットに長いステッキ。

 普通の来客(らいきゃく)ではない。


 加えてエルドがメイドを下がらせたのは、この男が念話で「今から様子を見行く」と伝えたからで。

 事この家に置いて多大な権力を持つエルドに命令していることからも、この男が普通の来客ではない事がよくわかる。


 (しかし......先程の女性は密偵だったようですが、伝えた方がよろしいのでしょうか? いえ、黙っておくのも楽しみの一つかもしれませんねぇ。ここは一つ黙っておきましょう)


 心の内を隠したまま彼はそのままソファーに座る。

 ステッキを優しく隣に置く彼に安堵(あんど)したエルドが声をかけた。


「悪魔。そう言えばお前は何という名だ? 」

「私など『名も無き悪魔』で構いませぬよ」

「しかし呼ぶ時に不便だ——「私は構いませぬ故ご心配なく」......、お前がそう言うなら構わない、か」


 食い下がるエルドにピシャリと()める悪魔。


 (こんな愚か者に真名(マナ)を教えるはずがないでしょうに)


 悪魔の(こお)り付いたような笑みを見てエルドは(つぐ)む。

 しかし今日の事を思い出して気分を戻す。

 軽くなった口を開いて悪魔に向いた。


「悪魔。お前のおかげで『賢者』のスキルを得ることができた。礼を言おう」

「お構いなく。代価は(いただ)くので」

「それでもだ。悪魔のおかげであのクソ兄貴を追い出すことが出来た。追放先は魔の森! 最早生きてはいれまい」

「それはそれは。お客様である貴方に喜んでいただき悪魔冥利(みょうり)()きますねぇ」


 上機嫌を通り越して「ハハハハハハ!!! 」と高笑いを始めたエルドを悪魔が嬉しそうに見る。

 その急変化する感情を面白そうに観察しながら、エルドに話を持ち掛けた時の事を思い出した。


 ★


 得たレアスキルの解明を進めていたアルトに(あせ)りを覚えていたエルド。


 彼が焦る中行われた十五の成人の()

 これが終われば自分は『賢者』のスキルを得て次期当主の()()く未来を妄想していた彼に『魔法: 初級』のショックは大きかった。

 正妻の子であるエルドに『賢者』のスキルが宿る事に多大な期待を寄せていた父ザックはその結果に大きく失望した。

 そしてその様子を(なが)めていた悪魔。


 (たかがスキルに一喜一憂(いっきいちゆう)するとは。これだから人間は面白い)


 タイミングを見計らい絶望していたエルドの前に出た。

 そして悪魔は外法(げほう)を用いて彼に『賢者』のスキルを付与したのであった。


『賢者のスキルを与えましょう。報酬は——』

 

 今の(たか)笑いするエルドを観察して悪魔は考える。


 (ふむ。やはり外法は外法ですね。他の人の魂が混ざっている。しかし、まぁ良い(ひま)つぶしにはなるでしょう。さて後はどのように遊ぶか、ですが......)


 紳士に見えて、本物の悪魔。

 そんな彼は思い着いたことを口に出す。


「その力。試してみたくはありませんか? 」


 悪魔の提案にエルドは更に笑い声を上げた。

ここまで如何だったでしょうか?


面白かった、続きが気になるなど少しでも思って頂けたら、是非ブックマークへの登録や広告下にある★評価をぽちっとよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ