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第16話 アルトは幼馴染を発見する

 実家を追放されて怒涛(どとう)の日々を送った後、僕の冒険者ランクはBになった。

 人喰らいの巨狼(マーダーウルフ)の事もありすぐに僕はDランクになった。

 そこから商人の護衛依頼や討伐・採取依頼を受けていたのだが、あれ以降特にイレギュラーに遭遇(そうぐう)することなく依頼をこなした。

 町に受け入れられつつある今、僕とレナの冒険者ランクはBである。


「最近は平和ですね」

「初期の(あわ)ただしさが嘘のようだ」


 依頼で森を探索している途中にレナが微笑んできた。

 しかし探知は(おこた)らない。

 今日は森の異変を調査しに来たのだから。


「しかしあの時何を警戒していたのですか? 」

「え? あ……うん」


 レナの言葉に言い(よど)む。

 魔導書を前に向けながら思い出す。

 

 ギルマスが領主様に人喰らいの巨狼(マーダーウルフ)の事を報告した後、何かしらガンフィールド公爵家がアクションを起こすと考えていた。

 だけれども特に何もなく肩()かしであった。

 もしかしたら家同士のいざこざが原因かもしれない。

 気にはなるけれど、自分から厄介事に首を突っ込むほど僕も(おろ)かではない。

 送られて来たお金をありがたく(いただ)き、こうした活動資金に()てている。


 レナが少しこちらを見る。

 しかしこれ以上何も言わずに先に進んだ。


「特に何もないね」

「今の所はですね」

「最近魔物が多く発生しているんだっけ? 」


 聞くと頷き前を向いた。


 今回の依頼は森の探索。

 様々な魔法を使ったり手探りで何か異変が無いか調べたりしているのだが何もない。


「幾つか集団を(つぶ)しましたが異変という異変はないですね」

「街道に出る魔物の数が多いからということだったけど、異変と言われるほどのレベルでもないね」


 そう言いながらパキッ! と音を鳴らす。

 奥に(ひそ)むウルフ種の魔物を魔弾(マジックショット)で撃ち殺して素材を()ぐ。


「そう言えば別で調査隊が組まれているようですよ? 」

「この森は広いからね。何グループかに分かれてやるのは妥当(だとう)だと思うよ」


 サイレントウルフを捌いているとレナが言う。


「いえそうではなく領主様の方で、でございます」


 それを聞き少し手を止める。けれど再開してレナの言葉を続けて聞く。


「詳しい事は分からないのですが、人喰らいの巨狼(マーダーウルフ)人里(ひとざと)の事やゴブリンキングの事など通常ではありえない事が起こっているから、とのことらしく」

「その異変を調べるべく調査隊をこの森に出していると」


 捌き終わり彼女を見ると頷いた。


「私達の依頼とは別口(べつくち)みたいですが、もしかしたらどこかで出会うかもしれませんね」

「こんなに広いんだ。会わないと思うよ」


 そう思っている時が——ありました。


 ★


「潰せぇ!!! 」

「魔法師部隊! うてぇ!!! 」

「「「風弾(ウィンドショット)」」」


 かざした魔杖から風弾が出る。

 高速で移動するそれはゴブリン達を襲い掛かるが、ゴブリン達の前にオークが壁となった。


「その首(もら)ったぁぁぁぁ!!! 」

「Bumoo!! 」


 風弾の壁となったオークは傷を負いながらも次に(そな)える。

 だがそれも(むな)しく一人の騎士に首を()ねられた。

 鮮血(せんけつ)まう中、騎士はすぐに後ろに飛び()ねる。

 オークの後ろに隠れていたゴブリンが騎士に切りつけたのだ。


 しかし危なげなくかわす騎士。

 そして騎士の後ろに構える魔法使いによる集中砲火(ほうか)を受けるのであった。


 今の状態を僕は少し山になっている所から遠視(クリアボランス)(のぞ)いていた。


「……オークとゴブリンが連携(れんけい)しているって、おい」

「それは本当ですか?! 」


 隣のレナに(うなず)き答える。


 森の奥へ行き帰ろうとした時魔力に気配に様々なものを感じ取った俺は少し様子を見に行った。

 視えたのはゴブリンとオークが連携して騎士や魔法使い達——恐らく領軍(りょうぐん)の者達が戦っている現場だった。

 本来ならばそのまま帰ればいいのだが、少し気になる事があり様子見状態。


 その気になることと言うのは——。


「何で魔の森の魔物がこんなところに」

「? 何か言いましたか? 」

「いやなんでもない」


 思わず(つぶや)きレナに聞かれる。

 魔の森の事は秘密にしているので(あわ)てて誤魔化す。

 そして再度目をやった。

 気になることは一つじゃないんだ——。


「高い身長に赤い髪。そして赤い(よろい)、か」

「『紅き剣豪(スカーレット)』、アイリ・ガンフィールド様ですね」


 レナが特徴だけで断定(だんてい)した。

 彼女は見えないはずだが僕が見ている方向を見た。


 知っているさ。

 何せその紅き剣豪(けんごう)様は同じ師を持つ幼馴染なのだから。


 現状、彼女がいることに不自然さはない。

 何せここは彼女の父が治める土地なのだから、一介(いっかい)の騎士として調査に来て戦っているのだろう。

 普通の相手ならば彼女が負けるはずがない。

 だけれど遠視(クリアボランス)を使って高速で剣技(けんぎ)()り出す女性を見た。


「相手はオーガ……にしては強すぎるな。押されている」

「あのアイリ様がですか?! 」


 驚くレナに付け加える。


「周りも援護が出来ないみたいだな。というよりも紅き剣豪(スカーレット)とオーガの戦闘に割り込めそうにない」

「それほどまでに……」


 俺も吃驚(びっくり)だ。

 

 相手はオーガの上位種、いや突然変異でもしたのだろうか。動きが早く力も強い。

 オーガは基本的に腕力で敵を()(はら)うタイプなのだが、今戦っているオーガは軽快(けいかい)に動きアイリと剣を(まじ)えている。


 周りに指揮官系の魔物がいるのか二人の戦闘に巻き込まれないように騎士達と魔物が戦っている。

 同種族だけならまだしも異種族を(まと)めて指揮をする。

 これだけでも異常と言えよう。


「……アルト様は行きたいのですか? 」

「それは……」


 否定しようとして言葉に詰まる。


 彼女は小さな頃共にした幼馴染だ。

 疎遠(そえん)になってはいるものの喧嘩(けんか)別れをしたわけではない。

 しかし今僕は貴族の子ではなく単なる冒険者でアイリは貴族子女。


 単に貴族子女が襲われているのならば助けに入るのだが、今は襲われているのではなく魔物の討伐。

 二つ名持ちの騎士の戦闘に割り込むほど無粋(ぶすい)なものはないだろう。


「行きたい、のですね。そのような顔をしております」

「……はぁぁ。どんな顔だよ」


 と聞くとクスリと笑う。


「いえ、何となくですが行きたくてうずうずしているような顔です」

「……わからないな」

「では私はここで待っておりますので、終わったら声をかけてください」

「……大丈夫か? 」

「この周辺の魔物に後れを取ることはないでしょう。それこそアルト様と紅き剣豪(スカーレット)様の戦闘に混ざる程危険なものはないかと」

「それを言われると少し落ち込む」


 そう言うとレナは真面目な顔を向けてくる。

 そして一言告げた。


「帰りをお待ちしております」

「あぁ行ってくる! 」

ここまで如何だったでしょうか?


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