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追放者サイド 3 エルドの訓練

 レギナンス伯爵家の訓練場。

 いつもは非番(ひばん)の騎士達が訓練をしているその場所に、一人場違いな男の子が腕を組みニヤニヤして立っていた。


 今エルドの前に整列(せいれつ)している騎士達は純粋なレギナンス伯爵家の騎士ではない。

 軍部に(ぞく)する各家から派遣(はけん)された、もしくは強引にねじ込まれた騎士である。


 レギナンス伯爵家の情報を得て本家に渡す役割を持つ彼らだが、今日のように休日が多い。

 本来ならば領地の巡回(じゅんかい)に魔物の討伐など騎士達の仕事は色々あるのだが、その(ほとん)どをレギナンス伯爵家直下の騎士が行っているためで。


 これはこの気が付いているレギナンス伯爵家側が外部との接触をさせないために、こうして家に張り付けた結果である。


 今日もいつものように訓練をしていた彼らだったが予告もなしにエルドが来た。

 従者を引き連れた彼は騎士達を整列させて号令(ごうれい)を出す。

 急なことで驚き困惑した騎士達だったが、すぐに落ち着きを取り戻した。

 

 彼らからすれば元軍部に属するレギナンス伯爵家の子が訓練に来るのは慣れている。

 それもそのはずで剣豪『カイ・ガンフィールド』との修業を打ち切られたアルトが時折訪れていたからだ。


 しかしながらエルドが来るのは初めてである。

 集められた騎士達がでっぷりとした体を引き()めにでも来たのかと少し嘲笑(ちょうしょう)気味に考えていると、エルドが軽く咳払いし口を開いた。


「いつもご苦労」


 軽く手を上げ騎士達をねぎらうエルド。

 今まで何もしてこなかったのに上から目線な彼に(まゆ)(ひそ)める騎士達だが何も言わない。

 少し空気がピリっとするが気にせず彼は言葉を続けた。


「今日は俺の訓練をしようと思う」


 その一言で全員が驚き目を開く。

 訓練に勉強に何から何まで逃げていたあのエルドが訓練と言い出したのだ。騎士達が驚くのは仕方ない。


 騎士達もエルドの事はよく知っている。


 食欲旺盛(おうせい)怠惰(たいだ)な人間。金にがめつく欲望を()込んだような貴族の子。

 騎士達は直接彼と話したことはないのだが、家の中に配置された本家からの密偵(みってい)と定期的に情報を交換することで、エルドの人間性を知っていた。


 彼が当主になればこの家は終わる。そう思われるくらいには評価が低く、ここにいる騎士達はレギナンス伯爵家からの脱出を考えていた所でもある。

 

 そのエルドの「訓練」発言。

 意図がわからない事もこの場のざわつきを増長(ぞうちょう)させる要因(よういん)となっていた。

 騎士達の反応を不快(ふかい)に感じたのか眉を顰めるエルド。

 しかしながら少し咳払いをして場を(しず)めた。


「俺はこの前『賢者』スキルを発現(はつげん)させた。この力を使いこなせるように訓練したいのだ」


 それを聞き騎士達はさらに眉を顰める。


 騎士達はエルドが成人の()で得たスキルを『魔法: 初級』と聞いている。

 もちろんその後、後天的に『賢者』を得たと聞いたが半信半疑でもあった。

 それもそのはず、通常下位スキルを上位スキルに伸ばすためには()え間ない努力が必要になるからだ。


 ここにいる騎士達の中にもスキルに恵まれなかった者は多い。

 しかしながら日々の訓練を続けることで『剣術: 初級』を『中級』、はたまた『上級』にまで伸ばした者もいるわけで。

 エルドの『魔法: 初級』がいきなりその最上級である『賢者』になったことに不自然さを感じるのは、自然な事であろう。


 しかし『賢者』を得て()い上がっているのか、疑いの目を向けられていることに気付かないエルド。

 彼は少し高い——興奮したような声で騎士達に言う。


「ではそこのお前! 剣を取れ」

「! 」


 指で指名された騎士は驚く。

 指名されたことにではなく、剣を取れと言われたことに。


 相手は、一応雇い主の息子。

 怪我をさせたら今後に()(つか)える。

 そう思い、おずおずとしながらも手を上げ聞く。


「エルド様。本当によろしいので? 」

「これは訓練だ。構わない」

「しかし……怪我をされるかもしれませんよ? 」

「俺にはこの『賢者』のスキルがある! 怪我一つ負うはずがない! バカにしているのか! 」

「いえそのようなことはないのですがね。幼少の頃から剣術に励んでいたアルト様とは(こと)なりエルド様は初めての訓練ですし……」

「あいつのことを口にするな!!! 」


 アルトと対比(たいひ)されてキレるエルド。

 怒るだけで息を切らし胸を抑える。

 (うら)みがましくアルトの事を口にした騎士に目線を送り、息を整え「ならば」と言う。


「俺が怪我をしても責任を問わん! これでいいだろ!!! 」

「はぁ。そこまでおっしゃるなら」


 怒りで顔を赤くし汗を出すエルド。

 指名された騎士は溜息をつきながらも、言質(げんち)は取ったと思い剣を取る。

 エルドも訓練場の中心に移動し魔杖を構えた。

 従者が両者を見て手を上げる。


「では訓練を始めます。構いませんね? 」


 そう言うと二人共頷いた。


「では……始め! 」

火炎(ファイアー)——ゲフッ!! 」


 エルドが吹き飛びリズミカルにバウンドし転がった。


 従者が手を切った瞬間魔法を唱えようとするエルドを騎士が()り飛ばしたのだ。

 そのあっけない様子に「言わんこっちゃない」と溜息を大きくついて剣をしまう。


 笑いを(こら)える周りをよそにエルドは顔を真っ赤にして立ち上がった。


「俺が攻撃する前に()りつけるなんて卑怯(ひきょう)だぞ!!! 」

「そのようなことは御座いません。機先(きせん)(せい)するのは魔法使いを倒すための常識ですよ? 」


 そう言われ「ぐっ」とたじろぐエルド。

 しかし()けじと顔を上げる。


「何故剣を使わないかった!!! 」

「いえ剣を使うだけが戦闘ではないので」

「ひ、卑怯だぞ! 」


 困った子供を見るかのように頭を掻く騎士。

 その様子に周りも同情(どうじょう)の目線を騎士に送るも何も言わない。

 腫物(はれもの)を見るかのように見られたエルドは指名した騎士に再挑戦した。


火炎連弾(ファイアー・バレット)


 戦闘が開始され、エルドの魔杖から五つの火球が放たれた。

 騎士はそれを軽快(けいかい)なステップで回避してエルドに接近。

 そして——。


「ゲフッ!!! 」


 また吹き飛んだ。

 そのあっけない終わりにどうしたらいいのかわからない騎士。

 せっかく先手を(ゆず)ったのにも関わらず、防御魔法をかけていなかったことに呆れて嘆息し仲間の元へ戻って行った。


 魔法を避けた騎士であるが、彼が特別何かをしたわけではない。

 着弾(ちゃくだん)まで時間がかかるボール系の魔法を見切って(かわ)しただけ。

 『剣術』や『武術』系のスキルを使ったわけでもない。


 幾ら高位の魔法使いと言えど防御魔法も()らずに接近されたらこうなるのは必然(ひつぜん)

 アルトのように護身が出来るのならばいざ知らず、魔法使いは近接戦闘にめっぽう弱い。

 それを知らず騎士に挑んだ『賢者』のエルド。


 (くや)しくまた挑むも何度も吹き飛び、そしてボロボロになって館に戻った。


 ★


 エルドと遊んだ騎士は帰路(きろ)()いた。

 本家が他にあるとはいえ(なが)らくこの地で潜伏(せんぷく)している軍部の者だ。

 友好関係を広げていく内に自然と家族が出来て、家も買った。

 今は家族三人暮らし。

 新築の家に帰ると小さな娘と少しお腹が大きな妻が迎えてくれた。


「パパ! お帰り! 」

「ただいま。ママの言うことをきちんと聞いてたかな? 」

「うん! 」


 出迎える娘を抱っこしてクルクル回すレギナンス家の騎士。


「お帰りなさい」

「ただいま」


 娘を回し終えるとそっと地面に置いて、妻と軽く抱擁(ほうよう)する。

 騎士に「今日も大変だったでしょう? 」と聞く妻に「そんなことはない」と軽く答え、家の中へ入っていく。

 すると良い匂いが彼を満たして空いたお腹を期待で満たした。


 席に座り食事を取ろうとする。

 しかし扉からノックの音が聞こえ中断された。


「誰かしら? 」


 妻の言葉に首を傾げる騎士。

 出ようとする妻を(せい)して騎士が出た。


「どちら様でしょう? 」


 そう言いながら騎士は扉を開けると、そこにはエルドがぽつんと一人。

 明らかに異常。

 嫌な予感が全身を()(めぐ)りエルドを本気で蹴とばした。


 ドッ! ドッ! ドッ! と跳ねていくエルドから目を放して中に叫ぶ。


「ラシャ! 今すぐ家から出ろ! 」

「どうしたの? 」

「良いから、リンを連れて早く裏から逃げろ! ガンフィールド公爵領に向かって走れ! 」


 そう言い玄関口の隣の剣を手に取った。

 いつの間にか起き上がっていたエルドが憤怒(ふんぬ)形相(ぎょうそう)で騎士を見ている。


「この不敬(ふけい)(やから)め! 」

「……坊ちゃん。あんたが何をしているのかわかりませんがね。少なくとも恨まれる覚えはないのですが」

「この俺を蹴った。それだけで不敬だ! 」


 一歩一歩近づくエルドに嘲笑(ちょうしょう)を浮かべて剣を突きつける。


「昼のことでしたら不問にするとおっしゃっていたじゃないですかい? 」

「あんなもの破棄に決まっているだろうが! 」

「口約束とは言え契約をすぐに破棄するのは、次期当主としてあるまじき行為だと思いますが? 」


 あくまで正論で戦う騎士に顔を赤くするエルド。

 言い返せないのか何も言わずに騎士のすぐ目の前まで来た。


「この……この俺にっ! 単なる騎士がっ! この俺に指図するな! 漆黒の炎(ゲヘナ・フレイム)


 エルドの手から黒い炎が立ち昇る。

 すぐに切り捨てようとするも、受け止められ剣が溶ける。

 驚き目を開いた瞬間、黒い炎が彼ごと家を(おお)った。

ここまで如何だったでしょうか?


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