悩みの種
私ミュートリナ。
最近厄介なことに巻き込まれております。
「あれって爆裂?」
「魔族と人間の混血らしいよ」
「爆裂を仕留めるために送り込まれた暗殺部隊100人をたった1人で返り討ちにしたとか」
「何それ怖ーい」
「なんかムカつくよね」
「ハレファス様に助けられたくせに、お礼すらしてないんだって」
「ねぇ、1回〆ようよ」
「怖いって」
………とこのように、廊下を歩くだけで密ひそ噂されています。
変な通り名ついてるし、なんか魔族と混血ってことになってるし。
100人の暗殺部隊って、それもう暗殺部隊じゃないでしょ! っとツッコミたくなる。
そのせいか少し鬱です。
私も馬鹿じゃないんで分かります。
「皆おはよー!」
「おはよう! ミュウ!」
「ミュウが来たぞ!」
私は世間一般でいう凄い魔術士なんです。
無詠唱魔術士。
と言っても使えるのは火魔術だけなんですけど。
きっかけは魔術テストの日でした。
8組の皆は授業で知っていましたが、他クラスは初めて知ったんでしょう。
少しカッコつけたのは内緒ですけど。
そのおかげか火魔術の成績は学年1位。
8組の皆は”庶民の星”だともてはやしてくれました。
なんだかあまり褒められている気はしなかったです。
そのせいで、目立ってしまいました。
目をつけられました。
この学校は貴族様の学校。
庶民の私は出しゃばりすぎてしまったようです。
そのせいか、あることないこと噂されています。
私はこの学園で、このクラス以外に居場所をなくしました。
元々あった訳では無いのですけどね。
「ミュウ、大丈夫? 表情暗いよ」
「そうかな。昨日も皆に会えるのが楽しみでさー。全然寝れなかったんだよねー」
「なにそれ」
私はこのクラスが大好きだ。
このクラスは私なんかより凄い人がたっくさんいるんだ。
「クラス対抗戦、ミュウが入れば絶対勝てるよ!」
「そ、そうかな〜。ちょっと照れるかもー。」
「ミュウ可愛い!」
クラス対抗戦。
次のテストはクラス対抗戦らしい。
なんでも行事が無さすぎて息詰まるからお遊び的なものらしい。
でも、やるからには絶対に勝ちたい!
「皆、クラス対抗戦まであと8日。
一致団結して頑張ろー!」
「おー!!」
***
手首、顎!
「ぐぼえ」
「また俺の勝ちだな」
「くそ、剣術じゃ誰もタイトに勝てねぇなー」
「それだけが俺の取り柄だからな」
昔から、剣だけが俺の全てだった。
「次は私とやってよ」
「……いいぜ、暴力女」
「その発言後悔することになるわ、よ!」
「おっと」
俺の家は、代々剣術家で当然のように俺も生まれた時から剣士だった。
「その程度か? 暴力女」
「まだだ!」
寝ても覚めても剣を握って草々を駆け回った幼少期。
「はぁ、はぁ。」
「暴力女でも女だからな。
忖度してやるよ。」
6歳になる頃には本格的に剣を習い始めた。
「くそ、舐めやがって」
「舐められたくなきゃ、俺に一撃でも入れてみろよ」
10歳になる頃には、下手な大人じゃ太刀打ちできないほど上達していた。
はっきりいって、自分は最強だと思った。
「くそ、闘術じゃこうはならないのに……
なんで剣術だけ」
あの日、領主の息子をこの手にかける日までは。
「お疲れ様、タイトもクレアも凄かった。
凄い、かっこよかった!」
「ありがとミュウ」
「……」
「なんだクレア、拗ねてんのか?」
「拗ねてない!」
俺は……間違ってない。
「タイト?」
間違ってない。
「ねぇ、タイトってば。」
「あ、……すまん。自分の世界に入ってたわ
んで、どしたのミュウ。」
危ない。
また、狂うところだった。
「いや、的外れならいいんだけどさ。
タイト、剣術の授業嫌い?」
「え? ………何言ってんだよ。
大好きに決まってんだろ。
俺の1番得意な科目だぜ? 嫌いなわけないだろ」
「そうだよね。 ………でもならなんでそんな苦しそうな顔してるの……」
ミュウは納得してくれた。
最後の方はよく聞き取れなかったけど、気にしなくていいと思う。
ふうー、変な汗かいたわ。
「んじゃ、俺サボり。せんせー来たらおせーて」
「おい! 真面目に受けろ! 先生に言いつけるぞ!」
…………
……
…
***
「ホルスガードさん、待っててくれたんだ。」
「そういう約束でしょ? それより早く要件を聞かせて」
「そう焦らないでよ、着いてきて。」
あー、怖い怖い怖い。
何? 何? なんで私呼び出されたし?
心の中でそう問いかける。
その問いは霧散するだけ。
アリシアさん、なんか怒ってる?
……よね。
歩くの早いよー。
踏み抜いた地雷なんて、ハレファスくらいしかない……。
確かに、ハレファスと仲良くしてるの私くらいだけどさー。
私がそうしたくてしてる訳じゃないの!
ハレファスの方からなんというか、束縛じゃないけど。
とにかく私を周りから遠ざけてくるんだって。
もしハレファスと仲良くしていてムカつくって言われたらそう伝えよう。
でも信じてくれないよねー。
なんかハレファスが私のこと好きみたいになるし。
煽ってるとも…取れるか。
客観視すると、私は自分より身分の高い、しかも次期当主と懇意にしてる。
他の誰も仲良くしていないのに、だ。
そんなことを考えたいる間にもアリシアさんの歩みは加速する。
〰〰〰
着いた先は寮の一室。
「連れてきました。」
「どうぞ」
「お邪魔します」
あの声、皇女様?
皇女様のグループの女子がいるの……
学園生活の死地かもしれない。
さすがは皇女様の部屋と言うべきか、私なんかの部屋とは広さも備え付け家具も、装飾すらも段違いに良い。
7人入ってもまだ余裕がある。
「よくもまあ、堂々とテレスシーナ様の前に現れることが出来たわね」
「も、申し訳ございません」
そっちが呼んだんじゃん!
そんなこと言える訳もなく、ただただ謝る。
「そうよ、この淫乱女!」
「ハレファス様を誑かそうとした悪女!」
「申し訳ございません!」
やっぱりそういうことか!!
学園生活の終わりを感じる。
まだあと6年以上残ってるのに………
「既成事実を作って婚姻を結ぼうとしているんでしょう!!」
「まあ、なんてハレンチな!
淑女のやることでは無いですわ」
「申し訳ございません………」
もっと、もっと警戒するべきだったんだ。
確かにハレファスはイケメンで家柄も良くて、誰もが羨む王子様だ。
周りの人は仲良くできない、私だけが仲良く出来る状況に、すごく満たされるものはあったけど。
優越感に浸りまくりだったけど、リスクが高過ぎたんだ。
やらかしたー………
「テレスシーナ様、この淫魔どうします?」
「……」
「テレスシーナ様?」
「ひゃ、いや。そうね。
ま、まずは、あなたとハレファス様との関係を教えて……ください…………」
そう言う皇女様の顔は真っ赤だ。
あー、なるほど。
皇女様、ハレファスのこと好きなんだ。
「はい。ただの友人です。」
「なわけあるかァァ!!」
やはり私の発言は信じてもらえず真正面から否定された。
こういう時の女の子は怖い。
「ほ、本当なんです。信じてください。」
「テレスシーナ様、私は嘘だと思います」
「私もそう思います」
「嘘です。それ以外有り得ません。」
最初から結論が決まっているのだろう。
まあ、仕方ないか。
「落ち着きなさい。
確かにホルスガードさんが嘘をついている可能性もありますが、それは可能性でしかないでしょう。
結論づけるには早いです。」
「確かに!」
「さすがテレスシーナ様!」
んー、もしかして私を懐柔させるために張った罠とか?
一度恐怖のどん底に叩き落としてその上で皇女様自ら助けて盲信させるための。
そうと決まった訳では無いけど、私も疑心暗鬼になってきていた。
「そうね……私の……恋……………ならひとまず許します」
「へ? あ、え?」
皇女様は顔を真っ赤にしている。
そしてモゴモゴ喋るから何話しているか分からない。
勢いのままに返事しようかとも思ったが、とんでもない内容かもしれない。
失礼かもしれないが聞き直そう。
「す、すみません。もう一度お願いします。」
「だから! 私の恋を応援してくれるならひとまずは許します!!」
後の女子はよく頑張りましたや偉い偉い等言っています。
皇女様は恥ずかしさから目も合わせてくれない。
まって、可愛いんだけど。
「も、もちろん協力します!
協力させてください!!」
もしかして、私はとても光栄なお誘いを受けているのでは?
「ほ、本当?」
「はい、となると早速作戦会議を……」
その日は皆朝まで話明かした。
翌日、目の下にくまを作って登校してきた私たちをみて、ハレファスは怪訝な顔をしていたがそれはまた別の話。