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デオキシリボブレイク~神と天才の殺し合い~  作者: 熊太郎助
三国軍事演習編
69/70

後夜祭



 三国代表での会談の前に、メリーバの代表であるエリーを抜いた、ハレファスとルキウスだけで集まっていた。

 聖女を育て上げたメリーバとは違い、ゾクド王国とカシミ帝国は勇者の召喚に成功していない。

 仮に勇者の召喚ができなかった時の保険として、勇者の代理となるような人物を探すことも目的としていた。

 当初から決められていたことではない。ゾクド王国からカシミ帝国への提案だった。それを急遽了承していた。


 「めぼしい人材は見つかりましたか?」

 「そうですね。天龍を殺すために力になりそうな人は数人。」


 ゾクド王国を構成する三つの大きな島の中でも一番北にあるドラス島。

 ドラス島のさらに北、山を超えた先に住み着く竜人族とゾクド王国は別に共生しているわけではない。

 長らく対立しており、少しでも領土を拡張したいゾクド側と、自分たちの住処を奪われたくない竜人族との間で戦争は何度も繰り広げられてきた。

 その度に多くの犠牲者がでて、ある一定のラインを引き停戦状態にあるのだ。


 そのラインが天龍の住むシェルドリファ山脈。

 竜人族は天龍を祀る民族。もともとドラス島全土に住んでいた竜人族をゾクド王国が侵略した、ゾクド視点に立てば北部開発に乗り出した。

 ゾクド王国といえど、世界最強と名高い天龍と戦うことはしたくない。もし天龍がいなければ竜人族は滅んでいたか、住処を変えていただろう。


 そんな強力な天龍も約3500年に一度世代交代を行う。天龍は世界に一柱(ひとり)しか存在しないが、自分の分身となる存在を創り出し消滅する。

 創り出された(うまれたての)天龍は成長した天龍よりも知恵も力も乏しく、人類でも討伐に乗り出せるかもしれない。

 今回の機会を失えばまた3500年待たなければならない。討伐のための人材を探す場にもしていたのだ。


 過去に、天龍から剥がれたウロコで作られた剣がその使い手と共に多くの逸話を作り出した。やれその剣は一振りで山を消しとはず、やれその剣は魔力を込めれば空を破る、やれその剣は海を一突きすれば津波が発生したなど。

 人類の戦力状況につながるかもしれない。そのためにも天龍の討伐は急務であった。

 この、勇者が召喚できない今だからこそ必要なのだ。


 「やはり聖女は外せないでしょう。神聖魔術はメリーバ秘蔵の最強の魔術ですし。」


 神聖魔術は対象を自由に選べる。選んだ相手のみ焼き、選んだ相手を癒す。変幻自在の魔術で謎が多い。

 神聖魔術を最大限使いこなすことができるのは女性と決まっており、男性は使える人間すら少ない。


 「彼女の力の一端、それに触れておくことの意味もあります。我々は、聖女の力について知らなすぎますしね。」

 「そうです。メリーバが教えてくれない以上、こちらで探るしかないですし。」


 「帝国から、ミュートリナとタイト・ヴァルキルの2人が欲しい。」

 「彼らは帝国でも随一の実力です。問題はないでしょう。」

 「正直、天龍に戦いを挑むときはルキウス(わたし)を含んだ4人でいくのがベストだと思うんですよ。」

 「同じくです。後ろに兵を控えておくのは討伐後に竜人族にぶつけるために?」

 「ええ、彼らは個々の力はそれなりにありますが、所詮数の前にはなすすべなく瓦解するでしょう。」

 「エリーさんにこの話をして、聖女を引っ張りだせるか、」

 「それは、我々の交渉能力次第ですね。」



 ***


 

 「今回の軍事演習から、実力のある者に天龍討伐に参加して欲しいと思っているのですが。

 エリー様、ハレファス様はどのようにお考えですか?」

 「随分といきなりの提案ですね。私1人では決めかねる。」

 「エリー様と同じく。私も、そのようなことを今この場で決断できるような立場でもない。」


 エリーを交えた3人で天龍討伐についての話を持ちかける。ルキウスは事前に僕が初めて知らされるような行動をとることは伝えてある。

 エリー(相手)に不信感を抱かせないためにも。

 

 「ですが、天龍を討伐できるのは今だけですよね。

 少なくとも世代交代のある今くらいじゃなきゃ無理だとハレファス(わたし)は思いますね。」

 「それには賛同します。ですがそんなことわざわざこの大事な時期にするべきなのか。」


 エリーの視点からすれば、ゾクドの実質的な領土の拡大に自分たちが協力する必要があるのか懐疑的に思っていることだろう。

 また、自分たちにもそれなりのリターンがあることもわかっている。武器や防具が鉱石や魔石、生物の素材(こうせいぶつ)からできている。天龍ともなればその格は段違いなものだ。

 それに、魔王に引けをとらない生物も天龍くらいだと言われている。デモンストレーション的な役割にもなる。

 ヴァルター曰く、天龍は魔王より強いらしいが、それは当代の天龍のことだ。

 実力の劣る次世代の天龍を殺すことはそれほど骨の折れることではないのかもしれないと理解しているはずだ。


 「帝国(こちら)は、一度持ち帰って協議する時間を設けたいと思っております。」

 「我々も。」

 「もちろんですよ。良い返事を待っています。」



 ***



 ハレファスたちとの会合を終え、後夜祭会場へと向かう馬車に乗り込む。

 先に馬車の中で待っていたヒルデもミロがルキウスが馬車に乗り込み、使用人が戸を閉めるのを確認し、走り出したのを確認して話し出す。

 ミロはルキウスに強く訴えるように、感情を向けてくれることを確信しているかのような眼差しで伝える。


 「ルキウス、今回僕が連邦陣営(あいつら)に本拠地を制圧されたのは僕のせいじゃないんだ。」

 「ああ。」

 「あれは敵が卑怯にも奇襲を仕掛けてきて、ヒルデだって従わなきゃいけなかったんだと思う。」

 「ええ、?」


 ミロの説得に少し疑問を持つヒルデではあったが、彼女はいちいち人の会話に水を刺すようなことをする人ではない。

 モヤモヤする発言ではあったが、続けさせる。

 

 「そうだね。これは君の責任ではない。」

 「そうなんだよ。これはあいつらが」

 「すべて僕の責任だ。勝ちはしたが、実戦ではどうだ。僕は包囲されていたし、ルールの上での勝利に価値はないんだぞっていう、ハレファスくんとハヴァレアくんからの静かな圧だと思った方がいい。」

 「いや、そんなつもりじゃ」


 ルキウスはミロに責任を追及するつもりはない。静かな馬車の中でガタガタと揺れる音だけが響く。

 中はカーテンで仕切っており、灯りはミロのもつ魔術印道具のランタンのみ。

 ルキウスの表情を伺いたい。しかし、ランタンを向けることはできない。


 「ルキウス、君の責任じゃない。これは僕の責任だ。今回の敗北は僕が悪いんだ。

 君は悪くないよ。だいたい、作戦立案をしたのも指示したのも僕だ。」

 「すべて承認したのは僕だ。ミロ、言ったじゃないか。自分のせいではないと。今更意見を変えるのか?

 ヒルデから聞いたぞ。ハヴァレアくんに殴られたんだってな。嘘だろ? それは。」

 「嘘じゃ、ないさ。」

 「そうか。」


 「ルキウス、さっきハレファスさんたちと会ってたけど話は纏まりそう?」


 馬車の中の居心地の悪さから口火を切ったのはヒルデだ。


 「どうだろうか。彼らにとっても天龍討伐は悲願だと思うし。進展があるといいな。」

 

 「もし、天龍の討伐の話が纏ったら、いつ」

 「間違いなく、一年以内にはくるだろうな。

 その時最前線で戦うのは他でもない僕だ。覚悟はできてる。そのための仲間との交流も大切にしたい。」

 

 天龍が生まれ変わるのも、成長するのも待ってくれない。その時は直近、明日に起きても驚きはしない。

 剣聖、剣豪とは時代によって役目が違う。

 魔王討伐のための勇者の協力者であること。

 竜人族との戦争でリーダーとして役割を果たすこと。

 人類の作り出した怪物を退けること。

 成し遂げることができた。できなかったあれど役目のない剣聖や剣豪はいない。


 先代剣聖、ルキウスの父は聖女と共に老いた天龍の討伐のために剣を振るったが、その剣が天龍の心臓に届くことはなかった。

 ルキウスにかかっているものは『天龍討伐』『魔王討伐』と至難のものだ。

 勇者の召喚の目処が立たない以上、自分がやるしかないのだ。


 「その時は、私たちも協力するから」

 「それは、できない。」

 「実力が足りないってのは僕たちも同感だ。だけど突き放すだけなんてのはあんまりだ。

 ルキウスが頼れる人間にきっとなるから。」

 「だったら、今回の軍事演習で証明して欲しかった。ミロ、君が頼れる人間であるということを僕に証明してくれればよかっただろ。」


 無慈悲なまでの現実を突きつける。

 あまりの容赦のない言葉に息を呑む。唇は震え、指先は手のひらの肉に食い込み、目頭が熱くなる。

 太ももがカッと熱くなり、頭はあがらない。


 「ぞ、うだよね。ごめん。」

 「ごめんな。ごめんよ。」


 ***



 「つくづく、お前とはよく会うぜ。」


 ハヴァレアが後夜祭会場に、ハレファスたちよりも早く到着し、学園の仲間たちを探して歩き回っていたところにミルキーブロンド色の髪をポニーテールにした少女、モニカにであっていた。

 先に気づいたのはハヴァレアで、視線を感じた長身の男、ロドルファがハヴァレアを指差したことでモニカも気がついた。


 「こいつ、モニカのこと見てたが。どうする?」

 「私のこと見てたの? キモいねそれ。」

 「見たくて見てたわけじゃねぇよ。たまたま視界に入っただけだってんだ。

 誰が好きでお前なんか見るかよ。メリーバのやつらは思い込みが激しくて困るな。」


 ハヴァレアの中でゾクド王国やメリーバ神聖法王国の人間は、基本的に自己中で配慮がなく狭い世界の住人という認識が、この数日で強烈に根付いている。

 わけもわからず気持ち悪がられたり、嘘までつかれて罪を被る可能性もあった。

 どれだけ説得を試みてもまるで応じようとせず、かといって自分たちの意見に反論しようものなら仲間を抱き込んでくる。

 

 どうぜ、今ハヴァレアに話しかけてきたのも、ハヴァレアにとってはロドルファが言いがかりをつけたいだけの子供のようにしか写っていない。

 一度怒りを爆発させ、ガス抜きをしたことでハヴァレアの精神の疲弊は多少改善されており、どんな因縁をつけられようとものらりくらり避けるつもりだった。

 今回だって、指を刺されたから話しかけたまでのもの。向こうだって、関わりたくないなら指なんか刺さないだろう。

 わざわざこちらに接触するような真似をしてきたんだ。言いたいことだけ言わせてやろう。


 「お前はキモいが実力は確かだって、ルイーザやモニカ、アンジェラから聞いている。直接この目で確認してみたいと思ったんだが。」

 「戦闘がご所望か? 悪いが俺は無益な争いは好まないタチなんだ。いつか矛を交える時を楽しみにしていてくれ。」

 「なあこいつ。こんな気持ち悪いやつだったか?」

 「いやぁ、もっと食いついてくると思ったけど。

 意外と、、、。」


 一度手を出しかけて、反省しているハヴァレアだ。

 こう何度も問題を起こしてばかりだと面子が保てない。それに、ここには自分を尊敬してくれている人が大勢いる。

 自分たちの会話が聞こえないにしても、不安にさせるような振る舞いはしたくない。


 ロドルファは動きにくそうなダブルブレストを脱ぐと、首元の襟を緩め、ハヴァレアに近づいてくる。

 

 「なら、決闘を申し込む。」

 「はぁ?」


 何が、なら決闘なんだとツッコミ待ちである表情には見えない。真剣そのものだ。

 クソめんどくさいやつに目をつけられたのか。そもそもなぜそこまで自分との対決にこだわるのかわからない。

 

 「断る。」

 「なぜだ!!」

 「声がでけぇよ。

 ………俺は騎士でもなんでもねぇ。決闘を受けてやる義理も、断らないだけの誇りもねぇんだよ。

 それにな、こんな場で俺が決闘なんて受けてみろ。

 雷落とされるどころじゃ済まねぇってんだ。」


 片手をロドルファの胸にそっと重ねて距離を取らせる。

 しかしその腕を彼の右腕に力強く握られ、たまらず腕を振り解く。

 握られたいた腕をもう片方の手で押さえながら後ろに下がる。

 

 「俺は力を持っている男が、その力を正しいことのために振るわれらべきだと思う。」

 「だったら、俺たちが決闘する理由なんてさらさらないだろ。」

 「自分の私利私欲のために、弱者を付き従わせるために己の力を使う人間が、、、、」

 「俺がそんな人間だと?」

 「ああ。」


 酷い評価だな、とハヴァレアは心の中で悪態をつく。

 なぜそんなに力ある男に敏感になっているのかは知らないが、不名誉極まりない。

 勝手な価値観を押し付けて、ただ俺を殴る理由を探してただけじゃないのか。

 決闘なんて、口実だ。絶対乗らねぇ。


 「はあ、腕相撲なら受けてやってもいいぜ。」

 「逃げる気か。所詮は弱者だけを痛ぶる者だったか。」

 「なんだよ、俺の提案から逃げんのか?

 お前こそ、俺には他者をいたぶりたいだけの人間に見えるぜ。」

 「お前に、、、なにがわからんだよ。

 いいぞ、腕相撲で勝負ー」

 「ロドルファくん! 私たちが席を外した隙に何してんの?」


 ずい、っと俺とロドルファの間に入る茶髪の女と、その女に手を繋がれたミルキーブロンド色の長髪の女。

 アンジェラとルイーザだ。


 「ごめんねハヴァレアくん。ロドルファくんも、別に悪い人じゃないの。本当にごめんなさい。」

 「アンジェラ、こいつだって、あのクソ野郎みたいな可能性だってあるんだぞ。」

 「ロドルファくん、ルイーザ(わたし)はいいから。」

 「ルイーザがそう言うなら、俺は。言うことはない。」


 不完全燃焼、不貞腐れた表情でモニカがルイーザへ駆け寄る。

 モニカの頭を撫でるルイーザとその2人を微笑ましく眺めるアンジェラ。

 まだこちらに警戒するように、鋭い視線を向けてくるロドルファ。

 

 「俺も、ちょっと挑発しすぎた。ごめんな。」

 「ふん。」

 「ーー」


 人目俺を見て、一瞥するモニカと無言のまま俺を睨みつけ続けるロドルファ。

 あいつらだけかもしれないが、メリーバのやつらはすごく歪な関係なように感じる。

 しかし、そこには確かな、彼ら彼女らだけが通わせている、信頼関係がある。

 それはゾクド王国のヒルデやミロのやつらとは少し違う。

 俺やハレファスとの関係とは違う。


 「ルイーザさん。ここにいましたか。」

 「ん、、。ルキウスさん?」

 「少し話があります。他の方は席を外していただきたい。移動しましょうか。」


 ***


 「っっっっっっかれたあああああ!!!」

 「うるさい!!」

 「ーーー」


 後夜祭会場に入ったタイト(おれ)は、バッチィンやクレア、不機嫌なミュウと共に飯を囲っていた。

 

 「いいじゃねぇか。いやぁ、まさか俺がミュウに勝つ日が来るとはな。」

 「それは本当に驚き。、、、ぶふ。直接現場を見ていないから信じれない。、、、ぶふ。」

 「同感だ。私たちはいつもと変わらずミュウにボコられただけだし。

 にしても、そんな斜めになるなよミュウも。

 せっかく美味い飯にありつけるってんだから、楽しめよ!」

 

 俺に負けたことがそんなに嫌だったのか、ずっと不機嫌だ。

 いきなり食べ物に手をつけだしたかと思うと口の中に放り込み、流し込むように水を飲む。

 実にいい食いっぷり。バッチィンに引けを取らない、俺にも引けを取らない食べっぷりだな。

 しばらくして、急に静止する。喉が詰まったのか心配しているとポツリポツリと呟き出す。


 「負けてないし。」

 「はぁ? お前まだ負け認めねぇつもりかよ。

 相変わらず負けず嫌いなやつだな。」

 「万全のタイトに負けただけだよ。気にしないでいいって。」

 「まるで俺と万全のミュウが戦ったら俺が負けるみたいな言い草だな。」

 「事実でしょ?」


 クレアがミュウのフォローに入る。わざわざ俺を下げるのはいただけないな。

 こんな、こんな時間がいつまでも続けばいい。

 俺はそれなりに剣を振るって、大切な人たちと飯を囲んで。そんな人生が一番だな。


 「タイトが私に勝ってると思ってんの腹立つ。」

 「可愛いやつだなぁ〜。そんなこと言うなんて」

 「バカにしてんの?」

 「じょ、冗談じゃねぇか。そんな怒るなよ。悪かったって。」


 ミュウの不機嫌はしばらく直りそうにない。久々に顔を合わせて飯を食うってのに。

 彼女に少しでもかっこいいところを見せれたら、なんて思って戦ったんだけど、嫌われることになったか?

 やな冷や汗と、ギュッと締め付けられる苦しみを、食べて飲んで流し込む。


 「はぁ。バッチィン、お肉ちょーだい!」

 「え、自分でとってきなよ。、、、ぶふ。」

 「私がとってくるよ。」


 何かを感じ取ったクレアが席を立ち、食事をとりに行く。流石に、バッチィンもクレアの行動でなにか悟ったらしい。

 

 「クレア、座ってて、取ってくる。、、ぶふ。」


 ミュウは何もない皿にフォークカンカンと刺しながら顎をテーブルにつけ、足をバタバタとさせている。

 そこに、思いもよらない人物が姿を現す。俺と因縁のある人物。


 「タイト、ミュートリナさん。ちょっといいかな?」

 「まて、今ミュウは」

 「なーに!?」


 俺が状況を説明する前に、ミュウがダンっと、机を叩いてぐるりと腰を回し声の主に振り返る。

 視線の先には3人。

 1人は声をかけた、ルキウス。もう1人はミルキーブロンドの長髪の可愛らしい顔の女の子。

 俺たちと同じくらいの知らない子だ。

 そして、3人目は俺たちのよく知る白髪の長身、ハレファス。


 「タイト、行くよ。」

 「そうだよな。今は一度お引き取り願おうか。

 って、んえ!?!?」


 予想外のミュウの反応に俺は驚きを隠せなかった。

 隣のクレアも顎かっぴらいて、目をぱちぱちさせている。

 ストレス発散とかしないよな。不安だけが俺の心を支配する。

 馬鹿みたいに暴れたりはしないと思うけど、、。


 「ハレファスも、一緒に行くの?」

 「ん? ああ。僕とルキウスで、君たち3人に話したいことがあってね。」

 「そこの女の人は?」


 ミュウの表情は見えないが、怒気を孕んだ声音に肩がすくむ。

 感情が一転も二転も三転もしてたらこっちも対処に困るぞ。彼女の力に少しでもなりたいのに、当の本人は、俺たちを頼る気配はない。

 最近、より一層そんな気がする。

 もともと、俺たちに頼るような人物ではなかったが、違和感のようなものは感じる。


 「この方は、メリーバ神聖法王国の聖女様であらせられる、ルイーザ・ガリツィア様だよ。」

 「ガリツィア? モニカさんの兄弟?」

 「はい。妹のモニカとは姉妹にあたりますね。」

 「ご、ご丁寧にどうも。」


 俺が兄弟と言ったことに反応してか、姉妹と訂正される。

 この人が、聖女様。もっと慈愛に満ちた人かと思っていたが。

 どちらかと言うとか弱い、内気なだけの少女にしか見えない。

 

 いやいや、人は見かけによらんものだ。ミュウなんか、可愛い顔して俺に容赦なく火魔術叩き込んでくるんだ。

 彼女だって、魔術を使う時には怪獣みたいにデカくなったり、、、はしなくても。

 何かしら強大な力を秘めているに違いない。きょうだいなね。


 「それで、ハレファスは私を探してたのね!」

 「そ、うだね。ミュウを探してたんだ。」


 どちらかといえば、ミュウのことを探していたのはルキウスだと思うが。

 しかし、何事があって、帝国の外務大臣と、剣聖の息子と、聖女様が俺とミュウを探しているんだ。

 随分と穏やかじゃないメンバーだ。

 周囲にいる人間だって怯えているぞ。


 「取り敢えず、場所を移動したいんだけど。」

 「そうね。行きましょう!」


 ルキウスを先頭に、ルイーザ、隣り合うハレファスとミュウ。俺も置いてかれないように着いていくのだった。

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